いやーもー、とにかくおもしろかった。
ちょうど「最近、おすすめの本ありますか?」と聞かれたので、激推ししたのが鈴木智彦さんの『ヤクザときどきピアノ』です。
タイトルを言うと、だいたい、
「ヤクザにも、ピアノにも、興味ないんですけど……」
と言われてしまうくらい、インパクト抜群。でも、ヤクザにも、ピアノにも、興味がなくても大丈夫。この本には、
・大人の学びとは、カシコクあれ
・心が固くなると言われる大人でも大感動できる
・『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』の実践編
みたいなポイントが詰まっています。特に3点目。古賀史健さんの『取材・執筆・推敲』を読んだ方、ライターをされている方におすすめです!
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『ヤクザときどきピアノ』
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「#1000日チャレンジ」で映画や小説について書く時、わたしはだいたい前作やインタビュー記事を探します。で、鈴木智彦さんの場合、これまでの本がですね……。
・『サカナとヤクザ ~暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う~』
・『昭和のヤバいヤクザ』
・『ヤクザと原発 福島第一潜入記』
・『潜入ルポ ヤクザの修羅場』
・『ヤクザ300人とメシを食いました!』
こんな感じで、ヤクザもののルポを専門にされている方なのです。
待ってくれ。
原発とサカナの次が、なぜピアノ!?
この時点で、わたしは誤解していました。『ヤクザときどきピアノ』は、「本業ヤクザなお方が、ピアニストになる」というお話だと思っていたのに。
「ヤクザもののルポを書いてきた、52歳のおじさんライターが初めてピアノに挑戦する」
という、ご自身の体験を綴ったエッセイだったのです。
上に挙げた『サカナとヤクザ』を5年がかりで仕上げ、ライターズ・ハイになった鈴木さん。何の気なしに観た、映画「マンマ・ミーア ヒア・ウィーゴー」で号泣してしまいます。
(画像は映画.comより)
感情を揺さぶった原因は、ABBAのヒット曲「ダンシング・クイーン」。いまAmazonプライムで配信されているので、未見の方はぜひどうぞ。
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映画「マンマ・ミーア ヒア・ウィーゴー」
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「嗚咽が止まらない」ほど泣く映画だっけ……!? そう思ってもう一回観ちゃった。
名曲「ダンシング・クイーン」を、ピアノで弾きたい。
雷に打たれるように決心した鈴木さんは、ピアノ教室に通うことに。指導してくれるのは、「お蝶夫人のように威風堂々とした」レイコ先生です。
もしかしたら知らない方もいるかもしれないので補足しておくと、「お蝶夫人」は、山本鈴美香さんのマンガ『エースをねらえ!』に登場する、主人公のライバルです。
(画像はAmazonより)
「練習すれば、弾けない曲などありません」
そう断言するレイコ先生。ピアノ講師を目指してきたというだけあって、レッスンも、名言も最高でした。
一方の鈴木さんは、体験記を発表することになったものの、ヤクザを専門にしてきたため、語彙に大きな偏りがあることに迷います。
鈴木さんの中に豊かに蓄えられている語彙。すなわち、裏・闇・黒の分野です。
クスリをやっているんじゃないかと親分に疑われ、腋をクンクンされたり、暴力団の抗争が激しくなって、練習できなくなることを逆恨みしたり。
激しく違う文化の交わるピアノレッスン体験記。はたして鈴木さんは発表会までに弾けるようになるのか!?
探してみたら、CM用の動画がありました。鈴木さんの外見が、思った以上に迫力満点だった……。
すがすがしい気持ちで読み終えた『ヤクザときどきピアノ』。ふと、古賀史健さんの『取材・執筆・推敲』のとおりに出来上がっていることに気が付きました。
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『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』
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「取材」に関しては、鈴木さん自身がトコトンまで調べ抜くことが信条のため、最初に編集部から釘を刺されていました。
だからって、何も「取材」しないわけがない。参考文献が膨大です……。
「執筆」や「推敲」は、プロのライターさんですもん。お手の物でしょ、と思いますが、この本はご自身の得意分野とはかけ離れています。
でも、鈴木さんにとってはすべてが初体験。
初めて触れた鍵盤。
初めて座った椅子。
初めて自分でだした音。
ひとつひとつに大きな衝撃があって、素直な感動が綴られています。その姿は、音楽と読者の間に立つ“翻訳者”そのもの。
経験豊富な大人だからこそ分かる、学び方のコツ。
ピアノに触れたことで開いた、音楽を受け取るチャンネル。
全身で音楽を感じる体験。
ピアノと過ごした鈴木さんの一年が、人生を太く、豊かにしたことが伝わってきます。取材・執筆・推敲という執筆の段階それぞれが、『ヤクザときどきピアノ』という記録を支えていて、よいお手本を見た気持ちでした。
初めてのことに挑戦する時。文章を書いている時。常にレイコ先生が声をかけてくれたなら。
「練習すれば、弾けない曲などありません。YOU CAN DANCE」
思わず、わたしもピアノが弾きたくなって、書斎に埋まっている電子ピアノの電源を入れてみました。
つかなかったよ……。
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