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『名前だけでもおぼえてください』#944


名前だけでもおぼえてください!

新入社員、営業部員に、売れないタレント。みんな、心の底から思っているのではないでしょうか。

「名前だけでもいいから……。わたしのことを認識してほしい」

安倍晴明によると「名こそ呪」となりますが、売れないお笑い芸人で、介護ヘルパーのアルバイトをしている保美にとっては切実な問題でした。

風カオルさんの小説『名前だけでもおぼえてください』は、主人公の保美が、認知症を患うおじいちゃんと漫才コンビを組む!?というお話。

テンポがよくて、クスクス笑えて、ホロリとくる気持ちよさがありました。

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『名前だけでもおぼえてください』

(画像リンクです)

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<あらすじ>
売れないお笑い芸人、保美。事務所の先輩がP1で優勝し、売れっ子になったことから、介護ヘルパーのアルバイトを引き継ぐことに。ガンコで好き嫌いの多い賢造じいさんとのやり取りを見たマネージャーは、ふたりでコンビを組むことを提案するが……。


保美が、相方の「りん子」と組んでいる漫才コンビの名前は、「魚ニソン(ぎょにそん)」です。もう、この時点で、売れないんじゃ……となるおかしさがこみ上げてきます。

一方で、先輩の紹介で出会った、賢造じいさんの口の悪さが、一級品。それにまったく取り合わず、マイペースでツッコミどころを探し回る保美の根性が、プロ級。

最初からナイスなコンビだったんですよね。

「名前だけでもおぼえてください!」は、魚ニソンの漫才の定番ネタだったんですが、賢造じいさんとの交流にもつながっていきます。

だって、賢造じいさんは、亡くなった妻の名前以外は覚えようとしないんです!

ワケアリの介護ヘルパーと、ワケアリの患者という組み合わせは、フランス映画「最強のふたり」を思わせる展開。実際、この小説は「漫才版・最強のふたり」といえるかも。

(画像リンクです)

ガンコだった賢造じいさんが、保美のことを受け入れたのは、自分のことを「ちゃんと人間扱い」してくれたから、だったのかもしれません。

なにしろ、思い込みの強い息子は、どこにも出かけさせず、家に閉じ込めるだけだったのですから。

保美と出会い、漫才の「ま」の字も知らないのに、マイクの前に立つことになった賢造じいさん。台本は覚えないし、途中で舞台を降りようとしちゃうし、自由奔放です。それを、ツッコミ役の保美が、全力でフォローしていく。

つくづく漫才って、反射神経の競技なんだなーと感じます。

でも、認知症という病は、徐々に進行していくもの。いっこうに保美の名前を覚えようとしない賢造じいさんは、名前を呼んでくれるのか。

「名前だけでもおぼえてください!」は、そんなハラハラ・ドキドキの意味も込められているようです。

名前を呼ぶって、やっぱりコミュニケーションの基本なんですね。


風カオルさんの本は初めて読みました。他に、マンガ家を目指す青年の小説もあるようです。

(画像リンクです)

読んで楽しい作家さんとの出会いは、本当にうれしいな。

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