日本は「弱者」にやさしくない社会になってしまった、と言われています。
別にキビキビ・シャキシャキできることだけが、人間の存在価値じゃないだろうと思いますが、「自分の基準」に満たない人を排除し、邪魔者扱いするようになってしまったのは、いつからなのだろう?
乃南アサさんの小説『いつか陽のあたる場所で』の主人公は、罪を犯して刑務所で出会ったというふたりの女性です。
出所後、東京の谷中で新しい人生を始めたふたり。後ろ暗い過去は、どこまでも足かせになってしまう。劣った者としてないがしろにされ、ドン底まで落ちた過去の痛みを抱えたふたりの再生は叶うのか……。
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『いつか陽のあたる場所で』
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乃南アサさんはサスペンスのイメージが強かったのですが、『いつか陽のあたる場所で』は、友情と再生をユーモラスに描いています。
『いつか陽のあたる場所で』はシリーズの第1巻で、この後、『すれ違う背中を』『いちばん長い夜に』へと続いていきます。
主人公のふたりは小森谷芭子が29歳、江口綾香が41歳と年齢差も大きく、出身も、育ちも、犯した罪も違います。
それでもお互いだけがお互いの「過去」を知っている身。かばい合い、支え合いながら再起を図る。
んですけど。
そうは簡単にいかないのが、「世間」ってもの。パン屋に弟子入りした綾香は、どんくさいと叱られまくってるし、芭子はアルバイトもできないくらい内気なのに、お巡りさんに惚れられてしまうし。
女ふたりの友情物語から浮かび上がるのは、「世間」の風なのです。
どれほどの痛みを抱えていても、時間は一方通行。人生は前にしか進めません。過去にとらわれるよりも、ただ“いま”という瞬間を一所懸命生きるしかない。
せつなさがあふれて、谷中で本当にふたりが暮らしているような気がしてしまいました。
完結編の『いちばん長い夜に』で描かれる震災の出来事は、実際に乃南さんが取材中に経験したことだそう。
震災が表現者に与えた影響は、計り知れないものだったことが感じられます。乃南さんも、凄みを増したかも。
クスッと笑えて、ホロッとする、やさしい気持ちになれるシリーズです。ぜひ!
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