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『はずれ者が進化をつくる --生き物をめぐる個性の秘密』#991


「雑草は、踏まれても踏まれても立ち上がる」は、間違い。

これを知って、かなり驚きました。

抜いても抜いても生えてきて、なんでこんなところから?と思うような場所からも顔を出してくる雑草。踏まれて倒れたぐらいでは、へこたれない。これほど「強い」草はないと思っていたのに!

雑草を研究しているという、静岡大学教授の稲垣栄洋さんの本『はずれ者が進化をつくる』に紹介されていた、「雑草魂」というか、「雑草戦略」には学ぶところが多かったです。

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『はずれ者が進化をつくる --生き物をめぐる個性の秘密』

(画像リンクです)

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『はずれ者が進化をつくる』などを出している「ちくまプリマー新書」は、「ちくま新書」の姉妹レーベルという位置づけだそうで、ラインナップにはヤングアダルト向けの本が並んでいます。

2018年には既刊本が300点を超えたそうで、特設サイトがありました。稲垣栄洋さんの本も「五本柱」のひとつに選ばれています。


ティーンエイジャーが対象なので、語り口がやさしい本が多いのが特徴。大人が読んでも十分におもしろいです。

植物はもちろん、地球上の生物は「違うこと」に価値をおいてきました。これはあくまでバラバラなのであって、優劣ではありません。

バラバラではあるけれど、中央値みたいな生存適性はあって、隅っこには「はみだしもの」もいます。で、環境などの変化が起きたとき、この「はみだしもの」が生き延び、そしてまたその「はみだしもの」が中央値となり、あらたな「はみだしもの」が生まれ……というように、生物は進化してきました。

だけど現代の人間たちは「ナンバーワンよりオンリーワン」と言ってみたり、「いやいやそれじゃ甘いよ、やっぱりナンバーワンじゃなきゃ」と言ってみたりする。

そして、

わたしのオンリーワンってなんだっけ?

自分らしさってどういうこと?

個性を出せってどうすればいいの?

といった悩みを抱えてしまうのです。

「考える葦」である人間って、自分で悩みを作り出しているようなもんなんですね……。

冒頭に書いた雑草の戦略「雑草は踏まれても立ち上がらない」。

雑草にとっては「立ち上がる」ことが大事なのではなく、「種を残す」ことが目標だから、立ち上がらない方がよければ、横に伸びたり、根を伸ばしたりして、目的を果たすのだそう。

立ち上がってうれしいのはガンダムだけでOK。雑草が「立ち上がる」しぶとさを持っていると感じるのは、人間の自己投影なのかもしれません。

稲垣栄洋さんのやさしい語り口に、命の不思議さと、遺伝子の賢さと、ちょっとしたマヌケさが、じんわりと沁みてきました。いまという時間を、精一杯生きることへのエールのような本です。


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