スキップしてメイン コンテンツに移動

校閲レディの仕事術・校正ってどうやってやるの? Part I


校閲レディで、社内研修機関の校長をしているmameと申します。

ひと頃、話題となった「校閲」という仕事ですが、ドラマのサブタイトルにもあるように、本当に「地味」です。いまどきそれ?感満載のアナログな仕事です。

ただ、この仕事をしていると、文章のチェック方法を知らないライターや編集者はけっこう多いのだなということに気づきます。だから「自分でも見直ししてね」と言っても、セルフチェックが機能しない。


そこで、文章校正のポイントをまとめてみました。自分で文章を書いている方、他の人が書いたものをチェックする立場にある方は、ぜひ参考にしてください。


「校正」と「校閲」

まず、「校正」と「校閲」って何が違うの?という点について。

区分けはいろいろとありますが、ひと言で言うなら「作業内容の違い」です。「校正」の方が範囲が広く、「校正」の中に「校閲」があると考えると分かりやすいと思います。

ドラマの影響もあって世間では「校閲」という言葉の方が知られているようなので、わたしもここでは「校閲レディ」と名乗っていますが、自分の仕事を説明する時には「校正」の方を使います。

「校閲」だと、仕事の一部しか指していないような気がしてしまうんですよね。

目的はどちらも同じ(というか、校正の中に校閲があるので)、「情報を正しくすること」です。

他人の文章の粗探しをして悦に入る……と、今でもそう思っている人がいるようですが、それは絶対絶対絶対違います。

ま、それについては別の機会に書くことにして、具体的な作業の流れを説明しましょう。


「校正」でやること

<校正の流れ>

1 情報確認

2 資料合わせ

3 素読み

4 整合性

5 ネガティブチェック


重要なのは、上記の工程を「ひとつずつ」やることです。

情報確認をしながら整合性を見ない、資料を引き合わせながら素読みしない、ということ。

なぜなら、人間はふたつ以上のことを同時に確実にやれるほど有能ではないからです。(わたしだけ?)

資料を見ながら表記のユレに気を取られてしまうと、肝心の引き合わせが疎かになります。曜日を確認する時もそれだけの工程を最初から最後まで通してやる。その方が確実です。絶対に。

分量にもよるので小説や論文などの長い文書だとやり方が異なりますが、ネット上の記事などの短い文書(3000〜5000字くらい)なら、上記の5つを押さえるだけでも精度が変わると思います。実際にはさらに細かく分けて進めるので、ひとつの原稿を5〜6回は読むことになります。


精度を上げたいなら、校正は必ず「紙」で

そして、なにより大切なこと。

それは、必ず「紙」で見るということです。


理由は3つ。

1つ目は、チェックした項目に色付けすることができるからです。

わたしは項目毎に色を決めて、色鉛筆で文字を塗っています。
(webの短い記事を校正する時は、色鉛筆を使いますが、書籍などの長い文章を校正する時は、使いません。たぶん、疲れちゃうからでしょうね)


1 情報確認:水色

2 資料合わせ:緑色

3 素読み:黄色

4 整合性:オレンジ色


実際に作業した原稿はこんな感じで、カラフルに仕上がっております。ちょっと薄くて見えにくいかもしれませんが、水色・黄色・オレンジ色が重なっている部分、緑色・黄色が重なっている部分があります。

(※原文はnoteの「よくある質問」ページの文章をお借りして加工しています。実際には赤字はありません)


そして2つ目。

これは、工程の確認がしやすいことです。


①公式サイトで表記を確認できたものを水色で塗る。

②素読みしながら黄色で塗る。

③最後に全体の整合性を取りながらオレンジ色で塗る。


こうした校正作業がどこまでできているか、一目で分かるのが紙を使う利点です。抜け漏れも一目で分かります。色が塗られていないので。


たまに、校正中に話しかけられたり、電話対応をしたりして、作業がブツ切れになることがあります。

でも、「作業終了!」と思って見直すと、ひと段落まるっと色が塗ってなかった=校正していなかった!ということが起きるんです。人間って、ふたつのことを同時にできないから。(わたしだけ?)

そして、そんな箇所に限って赤字が発生する! そのヒヤヒヤ感といったら……。

校正紙が全部塗られていること。必ずこれを確認しましょう。


最後の3つ目は、文章との距離感が生まれることです。

パソコンのモニターで文章を見ると、なんだかスルスル読める気がしませんか? 斜め読みも楽にできますよね。でもそれらは、校正では絶対にやってはいけないことなんです。

とにかく、ひとつひとつの文字に向き合う。

それが校正という仕事なので、斜め読みなんて、もってのほか! 原稿との距離をあえて作ることが実は確実さを上げることにつながります。


アナログなやり方が精度を上げる

いまどき「紙」に「印刷」なんて!と思われることでしょう。

わたしも思います。笑


でも。やるんです。


姿勢が変わるからでしょうか。不思議なことに、モニターで見ている時と、紙で印刷した時は見え方が異なります。表や図形のくずれにも気づきやすいです。

表記ユレなどは、Wordの機能を使った方が確実なので、そこは使い分けです。ぜひ、最後は紙で見てください。

とはいえ、いまは自宅で仕事をしている方も多いでしょうし、家にはプリンターがないよーという方はもっと多いでしょう。

そんな方におすすめなのが、フリクションの消しゴム側を使うことです。モニターをただ眺めて読むのではなく、消しゴムで1文字ずつ押さえながら読むのです。「紙」とはちょっと違いますが、それでもフワッと読み流すのを防ぐことができますよ。


「いまどきそんなことやるの?」「時間ないのに面倒くさいじゃん」という書き手と編集部が増えたように感じます。

スピードを重視するのか、信頼性を高めたいのか。それぞれの考えはあると思いますが、誤字脱字だらけで情報が不正確な記事を恥ずかしいと思うならば。

やりましょう。

Part IIでは、作業の具体的な内容について書いてみたいと思います。

(需要あるのかしら……)

コメント

このブログの人気の投稿

まったく新しい映画体験に思うこと 4D映画「ハリー・ポッターと賢者の石」 #484

映画の公開20周年を記念して、「ハリー・ポッターと賢者の石」が初の3D化されました。体感型の4DXやMX4Dで上映されています。 映画を「配信」するサービスが増え、パソコンやスマホでも映画が観られるようになったいま、「劇場で観る楽しみ」を、最大限与えてくれる上映方法だと思います。 でも、なぜか、4D映画ってモヤッとしてしまう……。 クィディッチゲームの疾走感や、チェスの駒が破壊されるシーンの緊迫感は倍増されていたので、こうした場面の再現率、体感度は以前に比べてかなり上がってきたように感じます。 (画像はIMDbより) それでも、稲光、爆風や水滴など、ストーリーとのズレを感じてしまう。 むかし観た4D映画では主人公が「GO! GO!」と走り出すシーンで、スポットライトがピカピカと点滅していたんですよね。わたしの頭の中で、「パラリラ パラリラ~」という暴走族のバイクの音が再生されてしまいました。 そうしたストーリーとは関係のない効果は減り、洗練されてきた感じはするものの、やっぱりスッキリしないものは残るのです。 4D映画はなぜモヤるのだろうと考えていて、「誰の目線で映画を観ればいいのか混乱する」からかもしれないと気がつきました。 ここで、あらためて4D映画について説明しておきます。 4D映画とは、映画に合わせて光や風などの演出が施された、アトラクション型の「映画鑑賞設備」のことです。 2D映画でも、4D映画の設備で上映されなら、4D映画になります。今回わたしが観た「ハリー・ポッターと賢者の石」は、3D映画の4D上映でした。 日本で導入されている4Dシアターは2種類。韓国のCJ 4DPLEX社が開発した4DXと、アメリカのMediaMation社が開発したMX4Dです。わたしは今回、TOHOシネマズで観たのですが、導入しているのはMX4Dのほうでした。サイトによると、体感できる環境効果はこちら。 特殊効果 ・シートが上下前後左右に動く ・首元、背後、足元への感触 ・香り ・風 ・水しぶき ・地響き ・霧 ・閃光 なるほど、のっけからシートがジェットコースターのように揺れ、風が吹きつけ、地響きも、ふくらはぎに礫が当たるような感触も体験できました。 人間社会で虐待されながら育ったハリー・ポッターは、ハグリットと出会うことで初めて魔法の世界に触れることになります。 ホグワーツ魔

キャラクター名“画数グランプリ” 優勝したのは!?「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」 #515

劇場版「鬼滅の刃」が話題ですね。 校閲ガールであるわたしにとって、気になるのはストーリーでも、煉󠄁獄さんのかっこよさでも、興行収入でもありません。 漢字が多すぎ!!! ってことです。 たぶん、すべての校閲ガールや校閲ボーイは、トラウマとなる漢字を持っています。変換ミスや同音異義語を見落とした経験を持っているから……。一度やってしまうと、その漢字を見ただけで「ヒッ!」となります。特に画数の多い漢字はつらいんです。 なのに、 「鬼滅の刃」の登場人物は、全員画数多過ぎでしょ!!! 劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編公式サイト 「その刃で、悪夢を断ち斬れ」劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編 絶賛公開中!   主人公は竈門炭治郎。その妹は禰豆子。鬼殺隊仲間は、我妻善逸、嘴平伊之助。「鬼殺隊」という名前からすでに怖そうですよね……。ちなみに一度で変換できなくて、「おに」「ころし」「たいちょう」と入力したので、あの日本酒を思い出しました。 清洲城信長 鬼ころしパックが【全国燗酒コンテスト2020】お値打ち熱燗部門 金賞受賞(2年連続受賞)   そんな「鬼殺隊」最強の剣士・煉󠄁獄杏寿郎さんはやはり、漢字の難しさも最高レベル。さすがは炎の呼吸を使う炎柱です。たぶん「隊長」みたいな役職の人です。 今回の映画の敵は魘夢と猗窩座というヤツで、これまで炭治郎たちが戦ってきた鬼よりはるかに強いヤツらしい。文字だけ見ても強そうですもんね。その鬼を束ねている悪の総帥が鬼舞辻無惨。 読み方分かりませんね……? 手書きできませんね……? 「鬼滅の刃」漢字検定1級をとれたらすごいと思います。このアニメとのコラボグッズは、校正するの、大変そう……。 そこで、緊急企画 「画数グランプリ」を開催 したいと思います! 「漢字辞典online」というサイトにて、各キャラクターの名前の画数を確認してみました。 kanji.jitenon.jp 「竈」という漢字を検索すると、こんな感じで表示されます。 この「画数」を足し上げていくのです。さて、優勝したのは!? (表記は公式サイトを基にしています) * * * 第3位:鬼舞辻無惨 54画 第2位:竈門炭治郎 55画 僅差です! 「魘夢」なんて、「魘」だけで24画もありました。これはぶっちぎるのでは……と思いきや、2文字という名前が仇に。けっこうしぶとい強いヤツでしたが、こ

人生をやり直したい男の誤算が招くコメディ 映画「LUCK-KEY」 #298

名バイプレーヤーとして知られる俳優が、主演を務めるとき。その心中はドッキドキでしょうね……。 映画「ベテラン」や「タクシー運転手 約束は海を越えて」で味のある演技を披露していたユ・ヘジンにとって、初めての単独主演映画が「LUCK-KEY ラッキー」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「LUCK-KEY」 https://amzn.to/3watGNT ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 売れない貧乏役者のジェソンは、将来に絶望して自殺を試みます。が、大家の侵入によって失敗。せめて身ぎれいになってからにしようと銭湯に行くことに。石けんを踏んで転倒した男の鍵をすり替え、男のフリをして暮らそうとしますが……。 原作は内田けんじ監督のコメディ「鍵泥棒のメソッド」。リメイク版の試写会で、観客が提案したタイトルが「LUCK-KEY」で、それがそのまま使われることに決まったのだそう。 ☆☆☆☆☆ 映画「鍵泥棒のメソッド」 https://amzn.to/3jEEotv ☆☆☆☆☆ ユ・ヘジンが演じるのは記憶喪失になった男「ヒョヌク」なのですが、ロッカーの鍵をすり替えられてしまったため、周囲には貧乏役者だと思われています。助けてくれた救急隊員の実家である食堂で働くことになりますが、刀さばきはすごいし、客さばきもうまい。だけど彼自身は俳優として成功し、親孝行しなければとマジメに努力します。 (画像はKMDbより) 一方、鍵をすり替えて逃げ出したジェソンの方は、豪勢な「ヒョヌク」の家にビックリ。贅沢三昧に自堕落に暮らし始めますが、隠し部屋で多くの銃を発見してしまいます。 実は「ヒョヌク」は、100%の成功率を誇る伝説の殺し屋だったのです!!! というお話。とにかくおかしな方へ、おかしな方へと話が転がっていく、コメディです。 (画像はKMDbより) 驚くのはユ・ヘジンの身体能力の高さ。趣味は登山と日曜大工だそうですが、いや、すごすぎやろというくらい、見事なアクションをみせています。 映画では、どう見てもおっちゃんなのに身分証は20代だったり、大部屋俳優から出世しちゃったり。 記憶は失っても、努力の仕方は覚えてるんですよね。 逆に、鍵をすり替えたジェソンは、夢はでっかく、だけど行動力はゼロという青年です。ふたりの対照的な生き方は、入れ替わっても続いてしまう。「幸運の鍵」をつかむには、という部分で、ちょっと身に