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はじめに読むべき決定版 『言葉ダイエット』 #182


「考える→アイデアを出す→説明する」の本に続いて、いよいよ「書き方」です。近年、文章指南の本がかなりの数、出版されています。以前は文法に着目した「文章読本」が多かったように思いますが、最近では「読みやすさ」「伝わりやすさ」を重視したものが増えたなと感じます。それだけ書くことに悩む人が多いのでしょう。


「書き方」指南の本が増えたことで、混同されているのでは?と感じる言葉が、「文章」と「文書」です。

文:一組の主語と述語とを含む、言語表現の一単位。
文章:文よりも大きい言語単位で、通常は複数の文から構成される。
文書:文字や記号を用いて、人の意思を書き表したもの。
『広辞苑』より


「文」とは、マル(句点)を打って区切りをつけるまで、と考えると分かりやすいかもしれません。

「・・・・・。」←こういうのですね。


「文」を複数集めたものが「文章」、そして「文章」を集めて意思を表したものが「文書」です。


なので、「バズる文章」という言葉には、わたしは違和感を持ちます。バズっているツイートなどをみると、誤字や文法的な間違いがあったりしますが、「内容=文書」を見て、おもしろいと思うから「いいね」を押すのでは?と思うからです。


文章力 <<< ネタ


ではないか、と感じています。


「文書」としての記事やツイートを磨きたい!と考える方は、アイデアや企画の本を読むことをおすすめします。そうではなく、普段書いている「文章」をなんとかしたい!という方には、橋口幸生さんの『言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術』がおすすめです。

☆☆☆☆☆

『言葉ダイエット』
https://amzn.to/3fY5qtN

☆☆☆☆☆

西島さん、中村さんと同じく、橋口さんもコピーライターでいらっしゃいます。やっぱりコピーライターという人々は、「考える」速度も深度も違うんですよ。知らんけど。考えてみたら、ジェームス W.ヤングから始まって博・電・博・電になってた。偶然です。

この本のいいところは、文章を書くにあたって最低限必要なことがとてもコンパクトにまとまっていることです。ここに書かれていることをきちんと守っていけば、逆に、分かりにくい文章は書けなくなるはず、です。

“<言葉ダイエットの極意>
・一文一意
・一文は60文字以内
・抽象論禁止
・繰り返し禁止
・ムダな敬語禁止
・表記統一
・こそあど&接続語の連発禁止”

一文の文字数を数えるのが面倒な方は、「文字数(バイト数)カウント」というサイトが便利ですよ。ボックスにコピペすれば、文字数を数えてくれます。一文がちょっと長かったかな?という時は、すぐチェックしましょう。

「文字数カウント」
https://www.luft.co.jp/cgi/str_counter.php

コピーライター流の発見の仕方や、パワポ資料のつくり方など、一読をおすすめしたい章は多いのですが、特に、「させていただきます症候群」のページを読んでほしい!(わたくし、社内で「させていただきます病」撲滅委員会の会長を務めております)


橋口さんは「させていただきます症候群」の原因として、「主張はしたいけど、嫌われたくない」という心理を挙げておられます。では、「させていただきます」が使える場面はというと、こちらの2点です。

<「させていただきます」が使える場面>
 ・自分の行為に対して、相手や第三者の許可を受けて行う場合
 → 「風邪を引いたみたいです」
   「帰っていいよ!」
   「では、早退させていただきます」
 ・自分が恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合
 → 「この画像を使わせてください」
   「どうぞ!」
   「ありがたく使用させていただきます」


とはいえ、「させていただきます」はほとんどの場合、「いたします」に置き換え可能です。なのに、もう少し、へりくだって、ていねいにした方がいいんじゃないかという不安がよぎるんですよね。でも、遠回しに言ったり、無意味にへりくだったりするのは、仕事では重大な事故を招きかねません。


おまけに、心理的な影響も大きいと思います。先日、こんなことがありました。


社内勉強会の講師を務めてもらう2年生クンとリハーサルをした時のことです。冒頭から、


「本日の勉強会の講師を務めさせていただく○○です。ぼくは■■の業務を担当させていただいて、その後▲▲の部署に異動させていただいて、いまは××の仕事をさせていただいています。その中で学んだ、SEOについてお話させていただこうと思います」


(お前、どんだけ「させていただく」ねん!!!)

と内心ツッコミつつ、最後まで発表を聞いて。フィードバックの際にお願いしました。


「“させていただかない”で、俺は専門家だ!というつもりでやってね」


ムーリーでーすー!!という叫びを無視して、台本からバスバスと「させていただきます」を削りました。で、本番。約束通り、「させていただきます」を言わずに講義をしている姿があまりにも堂々としていて、涙が出そうになりました。役員からも「あいつ、あんなに話せるって意外だった。すごいじゃん!」とお褒めの言葉を頂戴。


言葉って、本当に心を縛っているんです。敬語は大事。でも、変にへりくだったり、盛ったりする必要はまったくないと言いたい。言葉をダイエットすることで生まれる効果が、よく理解できる本だと思います。Kindle unlimitedに入っている方なら無料で読めますよ!

詰め込みすぎず、適度にダイエットした文章は読みやすいし、伝わりやすい。メール、企画書、ラブレターなど、「書き方」に迷った時、はじめに読むべき決定版です。


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