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映画「新しき世界」#293

「アメリカに“ハリウッド”があるように、韓国には“忠武路”という町があります」 第92回アカデミー賞で 「パラサイト 半地下の家族」 が脚本賞を受賞した時、ポン・ジュノ監督と共同で脚本にあたったハン・ジュヌォンは、そう挨拶していました。「この栄光を“忠武路”(チュンムノ)の仲間たちと分かち合いたい」。泣けるなー! ハン・ジュヌォンのスピーチ(1:50くらいから) アメリカにハリウッドがあるように、韓国には忠武路というところがあります。わたしはこの栄光を忠武路の仲間たちと分かち合いたいと思います。ありがとう! #アカデミー賞 https://t.co/LLK7rUPTDI — mame3@韓国映画ファン (@yymame33) February 10, 2020 1955年に「大韓劇場」という大規模映画館ができたことをきっかけに、映画会社が多く集まり、“忠武路”(チュンムノ)は映画の町と呼ばれるようになりました。 一夜にしてスターに躍り出る人や、その浮き沈みも見つめてきた町です。 リュ・スンワン監督×ファン・ジョンミンの映画「生き残るための3つの取引」での脚本が評価されたパク・フンジョン。韓国最大の映画の祭典で、最も権威のある映画賞である「青龍映画賞」で、彼自身は脚本賞を受賞。映画も作品賞を受賞し、一躍“忠武路”の注目を浴びることに。 そうして、自らメガホンを取った作品が「新しき世界」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「新しき世界」 Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 韓国最大の犯罪組織のトップが事故死し、跡目争いに突入。組織のナンバー2であるチョン・チョンは、部下のジャソンに全幅の信頼を寄せていますが、彼は組織に潜入した警察官でした。この機会にスパイ生活を止めたいと願い出ますが、上司のカン課長の返事はNO。組織壊滅を狙った「新世界」作戦を命じられ……。 あらすじを読んでお分かりのように、思いっきり「ゴッドファーザー」と「インファナル・アフェア」のミックスジュース特盛り「仁義なき戦い」スパイス風味入りです。 無節操といえばそうですけれど、名作のオマージュはヘタをすると二番煎じの域を出なくなっちゃうと思うんです。よいところが薄まっちゃうというか。人気作の続編が、「あれれ?」となるのもそうですよね。ですが。 名作と名作を合わせたら、一大名作が

“想像力”のない世界を生きる 『アーモンド』 #288

「お宅のお子さんは優秀でいいわねー」「いえいえ、甘えてばかりの愚息です」 こんな謙遜の言葉に 「ホント、そうですわねー」 なんて答えたら、一生口を利いてもらえないかもしれない。ではなんて答えるのが正解なんでしょう。 「あらら、そこがかわいいんじゃないですかー」 「将来が楽しみですね」 いい年をしたオトナとして言える言葉はいくつかあるけれど、「それって本心?」と聞かれたら、テヘヘと笑ってしまいそう。 心の中にある感情と、表面に表れる表情やしぐさ、発する言葉は、驚くほど多くのパターンを持っていて、高性能なコンピューターでもまだ追いつけないのです。 そんな難しい組み合わせを、ひとつひとつ覚えなければならなかった少年がいます。 ソン・ウォンピョンさんの小説『アーモンド』の主人公ユンジェは、情動反応の処理と記憶を担っている「扁桃体」が人より小さく、人の感情を理解することができません。怒りや恐怖を感じることができないので、身を守る行動もできない。 『アーモンド』は、おばあちゃんから“かわいい怪物”と呼ばれるユンジェと、もう一人の“怪物”ゴニの物語です。 ☆☆☆☆☆ 『アーモンド』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 2020年本屋大賞の翻訳小説部門で第1位に輝いた『アーモンド』。高知県にある本屋さんからも「山中賞」を贈られています。 わたくし高知の本好き書店員、山中です。 半年にいちど、私がみなさんにどうしても届けたい本に〈山中賞〉という個人的な賞を贈ります。 これを機にたくさんの人に知ってもらえますように。 第2回〈山中賞〉はソン・ウォンピョンさんの『アーモンド』です! 発表のようすはこちら!!! https://t.co/UCyerIazvh pic.twitter.com/LMKOjjzgdC — なかましんぶん編集長 (@NAKAMAshinbun) March 11, 2020 口角が上がっている → うれしいと感じている 表情と感情をパズルのように組み合わせ、「喜」「怒」「哀」「楽」「愛」「悪」「欲」を丸暗記させたお母さん。普通に、平凡に、目立たないようにあることを望みますが、そんなお母さんとおばあちゃんが、通り魔に襲われてしまいます。 血まみれのふたりを見ても、表情を変えることのないユンジェ。 おばあちゃんは亡くなり、お母さんは植物状態に。16歳にして保護者を失っ

非エリートの悲哀を描いたサスペンス 映画「生き残るための3つの取引」 #269

「お前は今から犯人になるんだ」 そんな信じられない言葉で犯人にされてしまうなんて。でっち上げの逮捕は検察と警察の対立を生み、血みどろの対決に発展していくという映画「生き残るための3つの取引」。 善良で誠実で正直な人間がまったく出てこないピカレスク映画です。韓国では2010年に公開され、その年の青龍映画賞で最優秀作品賞を受賞しました。青龍映画賞とは、韓国最大の映画祭で、最も権威のある映画賞なんだそう。 ☆☆☆☆☆ 映画「生き残るための3つの取引」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 度重なる失態で世間から批判を浴びていた警察。そこに連続殺人事件が発生します。大統領から今回こそ事件を解決するよう厳命されますが、有力容疑者を誤って射殺してしまいます。上層部からこの事実のもみ消しを命じられたのは、万年班長の刑事チョルギ。ヤクザに証拠づくりを頼み、偽の容疑者を仕立てあげますが……。 映画を監督したリュ・スンワン作品といえば、「アクション」がキーワードでした。でも、この映画ではほとんどアクションシーンはなし。よく練られた脚本と、俳優の好演で話を引っ張っていきます。 主人公のチョルギを演じているのがファン・ジョンミン。主演映画に外れなしと言われています。シリアスからお笑いまで、演じる役柄が幅広いんですよね。 (画像は映画.comより) ひょうきん者にも、はにかみ屋さんにもなれるし、凄みを利かせたり、軽やかにステップを踏んだり。出演作ごとに違うファン・ジョンミン。「生き残るための3つの取引」では、口数は少ないけれど、チームの仲間を大切にしている刑事です。 怒った時ほど笑う顔が怖い。 上司が自分を「捨て駒」にしようとしていることにも気づいている。でも、ヤクザに足下を見られちゃって、身動きがとれなくなってしまう。 この映画は非エリートの悲哀を描いたサスペンスなんです。 上司の行動に不信感を抱いて、助けようと奔走するのがマ・ドンソク。この頃は二回りくらい痩せて見えますね。 (画像は映画.comより) ほかにも、リュ・スンボム、ユ・へジンら、芸達者な役者がそろっています。 ファン・ジョンミン演じるチョルギは警察大出身ではないため、組織の中で後ろ盾を持っていません。だからこそ、失敗したら切り捨てることができる「シッポ」要因として

心からの叫びが歴史をつくるのだ 映画「1987、ある闘いの真実」 #268

和牛券、魚券ときて、今度はマスク「2枚」かーという話を同僚としておりました。 「これほど小説家泣かせの施策ってなさそうだよね」 「レビュー欄に、和牛のところがリアルじゃないので☆ひとつマイナスです、とか書かれそう」 リアルじゃない。どんなニュースを聞いてもウソっぽい。 だからわたしは最近、ニュースからもTwitterからも離れるようにしています。自分の感受性が少しずつ削られてしまうような気がするから。 いまでは死語であろうノンポリ。 日本の市民は、いつか怒ることがあるのですかね? 1987年、当時の安田火災が57億円でゴッホの「ひまわり」購入したことが話題になるなど、日本はバブル景気に酔っていました。韓国にとって1987年は、民主化運動が激化した年です。 オリンピック開催を1年後に控え、高まる民主化への熱。「6月民主抗争」と呼ばれる民主化抗争のきっかけとなったのは、ひとりの大学生の死でした。 その様子を描いた映画が「1987、ある闘いの真実」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「1987、ある闘いの真実」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 1987年1月、全斗煥大統領による軍事政権下の韓国。南営洞警察のパク所長は北分子を徹底的に排除するべく、取り調べを日ごとに激化させていた。そんな中、行き過ぎた取り調べによってソウル大学の学生が死亡してしまう。警察は隠蔽のため遺体の火葬を申請するが、違和感を抱いたチェ検事は検死解剖を命じ、拷問致死だったことが判明。さらに、政府が取り調べ担当刑事2人の逮捕だけで事件を終わらせようとしていることに気づいた新聞記者や刑務所看守らは、真実を公表するべく奔走する。また、殺された大学生の仲間たちも立ち上がり、事態は韓国全土を巻き込む民主化闘争へと展開していく。 2017年に韓国で公開された時は、1か月余りで観客動員数700万人を突破。まだ記憶が鮮明な民主化抗争の映画化に、心を熱くした人もいたのだと思います。 ただし、この映画は順調に制作が進んだわけではなかったようです。 シナリオの初稿ができた2015年当時はパク・クネ政権のど真ん中。この時期、文化人を対象にブラックリストが作成され、「パラサイト 半地下の家族」でアカデミー賞を受賞したポン・ジュノ監督もそこに載っていたことが分かっています。

実力派俳優の凄みにふるえるノワール劇 映画「ファイ 悪魔に育てられた少年」#267

2018年の第71回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した「万引き家族」を観た時、善悪の基準は親の影響なんだなという印象を強く持ちました。 https://note.com/33_33/n/n71ccf4f1fca2 お店に置いてある商品は、お店のものなのか、自分が持っていっていいものなのか。 まだ判断力のない子どもに、それをどう教えるかによって、子ども自身が作り上げる世界は変わっていきます。 「ファイ 悪魔に育てられた少年」もまた、子どもの世界の認識の仕方を考えさせられる映画でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「ファイ 悪魔に育てられた少年」 DVD Amazonプライム配信 (画像リンクです) Netflix配信 https://www.netflix.com/title/80165875 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 5人の「お父さん」に育てられた17歳の少年、ファイ。「お父さん」たちの仕事が、人に胸を張って言える職業ではなさそうな気配を感じつつ、逆らうことができません。新しい仕事を手伝うことになったファイは、自分の生い立ちの秘密に気がついて……。 この映画は、なによりファイを演じたヨ・ジングがとてもよかったです。2013年の韓国映画評論家協会賞や青龍映画賞などで新人賞を総なめにしています。彼が演じたのは、「お父さん」たちのことが大好きなのに、手伝わされる仕事は好きになれないという役。 学校へ通う代わりに、ピッキング、ドライビング、銃の扱いなど、あらゆる犯罪スキルを教え込まれていたのですから。 ファイに技術を仕込んだ「お父さん」役も豪華です。 迫力たっぷりのキム・ユンソク、やさしく懐柔しようとするチャン・ヒョンソン、わたしの大好きなチョ・ジヌンは、ちょっと頼りない「お父さん」でした。 「映画は父を殺すためにある」とは、宗教学者の島田裕巳さんの言葉ですが、エディプス・コンプレックスの究極の形といえるかもしれません。 韓国での解説記事を読んでいて知ったのですが、映画の冒頭で、キム・ユンソクパパがある判断をします。その時、アップになるのが、視覚障害者のネックレスです。 それになんの意味があるのかと思ったら、パパと出身が同じであることに気づいたことを示しているのだそう。 観る度に印象が変わりそうな映画だなと思っていましたが、まだまだ気づいていない伏線があるのか