スキップしてメイン コンテンツに移動

母の日に一緒に観たいハートフルコメディ 映画「怪しい彼女」 #304


「マザコン」のことを韓国語で「ママボーイ」といいます。マンマです。

ドラマなどを観ていると、母親と息子の関係はみっちりねっちりしているように感じます。現実にも、韓国人男性の多くが「ママボーイ」と言われているそう。

「家」を継ぐ男の子を産むことを期待される

長男が溺愛される

こんな流れと、もともと親を大事にする文化が合わさって、ラブラブ~♡な親子も少なくない。

映画「怪しい彼女」はファンタジックなコメディなのですが、ファン・ドンヒョク監督ったら自分のお母さんのためにつくったでしょ!!!と感じるくらい、かわいらしいストーリーになっています。

☆☆☆☆☆

映画「怪しい彼女」

(画像リンクです)

☆☆☆☆☆

<あらすじ>
頑固で毒舌な老女オ・マルスンにとって、唯一の自慢は息子が国立大学の教授であること。職場でも家庭でも怒鳴ってばかりのマルスンは、自分が老人ホームに入れられようとしていることを知ります。最後の記念に写真を撮ろうと写真館へ向かったマルスンは、いきなり20歳の姿に若返ってしまう。アイドル歌手のオ・ドゥリとして新たな人生をスタートさせますが……。


かわいい顔して言動はクソババアというギャップのある女の子をコミカルに演じたのはシム・ウンギョン。はじけるようなお転婆な20歳の歌手と、口の悪い70歳の頑固ババアを「マルスン」の中に融合させて、「怪しすぎる」女の子を作り上げています。

この演技力ですもん。2019年の映画「新聞記者」で最優秀主演女優賞の受賞もうなずけます。

(画像リンクです)


懐メロ満載の音楽のよさもあって、映画もヒットし、8カ国でリメイクされています。日本では 多部未華子&倍賞美津子ペアで映画化。ポスターなどのイメージジャケットは本家のものを踏襲しているようですね。

(画像リンクです)


劇中の歌は、もちろんシム・ウンギョンが歌っています。中でも、チェ・ウンオクという歌手のデビュー曲であるバラードの「雨水」は、1976年に発表された当時、知らない人がいないと言われるほどヒットしたそうです。

40年ぶりにコンサートをするというのでインタビューを受けている映像を見つけました。最初に流れている曲が「雨水」です。しっとりしてる。

조용히 비가 내리네 추억을 말해주듯이
静かに雨が降るね 思い出を語るように

이렇게 비가 내리면 그날이 생각이 나네
こうして雨が降ると あの日を思い出すね

옷깃을 세워주면서 우산을 받쳐준 사람
襟をたてながら 傘をさしてくれた人

오늘도 잊지못하고 빗속을 혼자서 가네
今日も忘れられず 雨の中 ひとりで行くわ


物語の主人公「マルスン」が70歳ということは、どん底の貧しさや戦争を味わった世代です。望むまま、自由に生きられる時代ではなかった。

ファン・ジョンミン主演の映画「国際市場で逢いましょう」が、男から描いた現代史だとすると、「怪しい彼女」は女から見た現代史といえるかも。

女手一つで子どもを育て、生活苦にあえぎながら、「雨水」の歌詞のように、ひとりで生き抜いてきた「マルスン」。息子を大学教授にしたことが誇らしいけれど、すべてをないがしろにされる現在。

逃避したくなるじゃないですか?

で、たっぷり夢を見た後は、元に戻ると思うじゃないですか?

そんな予想を裏切るハッピーな結末です。監督はインタビューで、

韓国の観客はリアルな話が好きだという先入観がある。だからこうした映画は韓国で成功したことがなかったと思う。

として、エンディングには神経を使ったと語っています。前作の「トガニ 幼き瞳の告発」の重苦しさとはあまりにも違うハートフルコメディ。才能の幅広さにおののくと共に。

あぁ、これは監督がお母さんに捧げる映画だったのだなーと感じたのでした。

明日は母の日。家族のありがたさ、母への感謝がこみ上げてくる映画です。お母さんと一緒にぜひ。


映画「怪しい彼女」 125分(2014年)

監督:ファン・ドンヒョク

脚本:シン・ドンイク、ホン・ユンジョン、トン・ヒソン

出演:シム・ウンギョン、ナ・ムニ、イ・ジヌク、ジニョン、パク・イナン、ソン・ドンイル、ファン・ジョンミン

コメント

このブログの人気の投稿

『JAGAE 織田信長伝奇行』#725

歴史に「if」はないというけれど。 現代にまで伝わっている逸話と逸話の間を、想像の力で埋めるのは、歴史小説の醍醐味かもしれません。 『陰陽師』 の夢枕獏さんの新刊『JAGAE 織田信長伝奇行』は、主人公が織田信長です。 旧臣が残した『信長公記』や、宣教師の書いた『日本史』などから、人間・信長の姿を形にした小説。もちろん、闇が闇としてあった時代の“妖しいもの”も登場。夢枕版信長という人物の求心力に、虜になりました。 ☆☆☆☆☆ 『JAGAE 織田信長伝奇行』 https://amzn.to/2SNz4ZI ☆☆☆☆☆ 信長といえば、気性が荒く、残忍で、情け容赦ないイメージがありました。眞邊明人さんの『もしも徳川家康が総理大臣になったら』には、経済産業大臣として織田信長が登場します。首相である家康を牽制しつつ、イノベーターらしい発想で万博を企画したりなんかしていました。 『もしも徳川家康が総理大臣になったら』#687   『JAGAE』は、信長が14歳の少年時代から始まります。不思議な術をつかう男・飛び加藤との出会いのシーンが、また鮮烈なんです。人質としてやって来た徳川家康をイジる様子、子分となった秀吉との出会いなどなど。 信長のもとに常に漂う、血の臭い……。 これに引きつけられるのは、蚊だけではないのかも。 おもしろいのは、一度も合戦シーンが出てこないことです。信長のとった戦術・戦略は、実は極めてオーソドックスなものだったそう。そこで戦よりも、合理主義者としての人物像を描いているのではないか、と思います。 小説の基になっている『信長公記』は、旧臣の太田牛一が書いた信長の一代記です。相撲大会を好んで開催していたことなどが残っているそうで、史料としての信頼も高いと評価されているもの。 そんな逸話の間を想像で埋めていくのです。なんといっても、夢枕獏さんの小説だから。闇が闇としてあった時代の“妖しいもの”が楽しみなんです。 タイトルになっている「JAGAE」とは、「蛇替え」と書き、池の水をかき出して蛇を捕えることを指しています。 なんだかテレビ番組になりそうな話なんですけど、実際に領民が「大蛇を見た~」と騒いでいたことを耳にした信長が、当の池に出張っていって捜索したという記録が残っているのです。 民衆を安心させるための行動ともいえますが、それよりも「未知なるもの」への...

映画「新しき世界」#293

「アメリカに“ハリウッド”があるように、韓国には“忠武路”という町があります」 第92回アカデミー賞で 「パラサイト 半地下の家族」 が脚本賞を受賞した時、ポン・ジュノ監督と共同で脚本にあたったハン・ジュヌォンは、そう挨拶していました。「この栄光を“忠武路”(チュンムノ)の仲間たちと分かち合いたい」。泣けるなー! ハン・ジュヌォンのスピーチ(1:50くらいから) アメリカにハリウッドがあるように、韓国には忠武路というところがあります。わたしはこの栄光を忠武路の仲間たちと分かち合いたいと思います。ありがとう! #アカデミー賞 https://t.co/LLK7rUPTDI — mame3@韓国映画ファン (@yymame33) February 10, 2020 1955年に「大韓劇場」という大規模映画館ができたことをきっかけに、映画会社が多く集まり、“忠武路”(チュンムノ)は映画の町と呼ばれるようになりました。 一夜にしてスターに躍り出る人や、その浮き沈みも見つめてきた町です。 リュ・スンワン監督×ファン・ジョンミンの映画「生き残るための3つの取引」での脚本が評価されたパク・フンジョン。韓国最大の映画の祭典で、最も権威のある映画賞である「青龍映画賞」で、彼自身は脚本賞を受賞。映画も作品賞を受賞し、一躍“忠武路”の注目を浴びることに。 そうして、自らメガホンを取った作品が「新しき世界」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「新しき世界」 Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 韓国最大の犯罪組織のトップが事故死し、跡目争いに突入。組織のナンバー2であるチョン・チョンは、部下のジャソンに全幅の信頼を寄せていますが、彼は組織に潜入した警察官でした。この機会にスパイ生活を止めたいと願い出ますが、上司のカン課長の返事はNO。組織壊滅を狙った「新世界」作戦を命じられ……。 あらすじを読んでお分かりのように、思いっきり「ゴッドファーザー」と「インファナル・アフェア」のミックスジュース特盛り「仁義なき戦い」スパイス風味入りです。 無節操といえばそうですけれど、名作のオマージュはヘタをすると二番煎じの域を出なくなっちゃうと思うんです。よいところが薄まっちゃうというか。人気作の続編が、「あれれ?」となるのもそうですよね。ですが。 名作と名作を合わせたら、一大名作が...

校閲レディの仕事術 Part II・「読み方」について

突然ですが、こちらの文章を読んでみてください。 「こんにちは 皆さんお元気ですか? 私は元気です。」 と読んだ方、もう一度、一文字ずつ読んでみましょう。 「あれ? あぁぁ!」 と、なった方、これからご紹介する 「校正的読み方」 をぜひご覧ください。 決して、意地悪したわけではないですよ! 今日は校閲レディの仕事術 Part IIとして、文字の「読み方」について書いてみたいと思います。 Part Iはこちらから。 校閲レディの仕事術・校正ってどうやってやるの? Part I   「校正的読み方」:どう見るのか 上の文章をスルリと読めるのは、「Typoglycemia」という現象だそうです。 「Typoglycemia」とは、単語の最初と最後の文字が合っていれば、中の文字が入れ替わっても読めてしまう現象のこと。 ずいぶん前に話題になりましたよね。まだ日本語の名称はないそうですが、要するに、「そら目」しちゃうということかと思います。 デジタル世界では、「こんちには」と「こんにちは」はまったくの別物。読み間違いという現象は起きません。 それはそれでいいのですが、人間がそれをやると疲れてしまいます。だから、“だいたい”のところで“ふんわり”と把握する能力は、生きる知恵なのではないかとわたしは感じるのです。 この大雑把でゆる~い感じはO型人間にとって、とてもうれしい! 大好き! サイコー! なんですが。 校閲レディとして仕事をする時は、この技は使えません。 ダメ。絶対。 校正の読み方とは、こちらです。 1 字 ず つ つ ぶ す なぜ、「つぶす」と呼ぶのか? 理由はよく分かりませんが、色鉛筆でひと文字ずつマークしていくので、確かに「つぶしている感」はある気がします。 webの短い記事を校正する時は、色鉛筆を使いますが、書籍などの長い文章を校正する時は、使いません。たぶん、疲れちゃうからでしょうね。 Part I で書いたように、校正の作業の流れは下記のとおりです。 <校正の流れ> 1 情報確認 2 資料合わせ 3 素読み 4 整合性 5 ネガティブチェック そして、どの作業においても、 1 字 ず つ つ ぶ す のです。 大変でしょ?笑 でも、残念ながら、校正のすべては、このひと言に尽きるのです。 「校正的読み方」:何を見るのか 1字ずつマークするだけなら簡単なのです...