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とぼけた味の妖たちが大活躍 『しゃばけ』 #497


「SFは好きだけど、ファンタジーはちょっと……」

という方に会ったことがあります。現実離れした設定はどちらも共通しているのに。重視しているのが「世界観」か「テーマ」かで、入り込めるかどうか分かれてしまうのかもしれません。

近代文学の中で「ファンタジー」と呼ばれるジャンルの境界線はあいまいなのだそうですが、転機となったのはトールキンの『指輪物語』です。

一方で日本におけるファンタジーは、中世のヨーロッパ“風”を舞台にしたものが多かったのだそう。いやいや、“和風ファンタジー”にだっておもしろいものはあるんですよ。

そこで、“西洋風ファンタジー”に負けないおもしろさを誇る小説をご紹介したいと思います。

畠中恵さんのファンタジー時代小説『しゃばけ』は、身体の弱い若だんなと、妖(あやかし)たちによるミステリー小説です。

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『しゃばけ』

(画像リンクです)

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第13回日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を受賞した、第1巻の『しゃばけ』のみ長編で、あとは連作短編集。現在20巻まで出ています。

新潮社の公式サイトからは、「登場人物」と「気持ち」で検索ができます。


江戸にある廻船問屋兼薬種問屋の若だんな・一太郎は、ひとり息子で跡取り息子なのですが、いかんせん身体が弱い。定位置は「布団の中」です。

ですが、「若だんなのためなら!」と動いてくれる仲間はいっぱい。ただし、その仲間が「普通の人間」ではないんです。

手代の佐助の正体は犬神、仁吉は白沢。部屋の屏風には付喪神(つくもがみ)がいるし、古い家に住みつく妖の鳴家(やなり)たちが、いつも若だんなを守っています。

若だんな自身が病弱ということもあるのでしょうか。

決して「異端」を排除しないんですよね。悪さをする妖の背景を想像する力がある。単純な勧善懲悪物語ではないところが、好きなんです。

おまけに人間にはない力をもつ妖たちを見て、「人間なんて、なんぼのもんやねん」という跳ね上がった気持ちを諫める効果も。

ほのぼの感あふれるストーリーを盛り上げてくれるのが、柴田ゆうさんによる挿絵です。

(画像はAmazonより)

「しゃばけ」シリーズは、「世界観」や「テーマ」というよりも、「キャラクター」重視のファンタジーといえます。とぼけた味の妖たちが活躍するので、マンガのようなエンタメ感がありますよ。

今日から3連休。押し入れの整理でもしようかなと考えています。「きゅわきゅわ」かわいい鳴家(やなり)がいるかもしれない。


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