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つくられたイメージをぶち壊す、アーティストの素顔 ドラマ「師任堂、色の日記」 #562


「良妻賢母」とは、「夫に対してはよい妻であり、子に対しては賢い母であること。また、そのような人」のことです(『精選版 日本国語大辞典』より)。

そんなの「男性から見た都合のいい女」でしかないのでは!?

と、現代に生きるわたしは思ってしまいますが、明治30年に出された高等女学校令によって「良妻賢母(優秀な次世代を育てるのは母の役割)」教育が積極的に行われた結果、どんどんと“洗脳”されていったようです。

おまけに植民地化した朝鮮半島にもこの考えを広めました。

このとき「良妻賢母の鑑」とされたのが、朝鮮時代中期の画家・申師任堂(シン・サイムダン)です。2009年に登場した5万ウォン紙幣に描かれている人物で、5,000ウォン紙幣に描かれている栗谷李珥(ユルゴッ・イイ)のお母さんでもあります。

紙幣で親子共演!!!

誉れですねー。すごいですねー。と思うのですが、いまどき「良妻賢母って」という想いが消えない。このお札が登場したとき、「申師任堂って誰?」と韓国人の友人に聞いてみました。

「栗谷のお母さんだよ」

「良妻賢母として教科書に載ってる」

「受験戦争を闘うママたちのアイドル」

なんて返事があるくらい、やはり「良妻賢母」のイメージが強いようです。13年ぶりにドラマ復帰を果たしたイ・ヨンエが、よりによって「良妻賢母」を演じるなんて。モヤッとする気持ちがあって、長くスルーしていた「師任堂、色の日記」をあらためて観てみました。

そしたら。

驚いた。

美しすぎた!!!

(画像はAmazonより)


「宮~Love in Palace」「アンニョン!コ・ボンシルさん」など、数々のドラマをヒットさせた制作会社グループエイトが、事前にドラマを完成させてから、放送を開始。そのせいか、映像の美しさも、ストーリー展開も、とても見応えがありました。

☆☆☆☆☆

ドラマ「師任堂、色の日記」

(画像リンクです)

☆☆☆☆☆

<あらすじ>
韓国美術史を専攻し、大学で非常勤講師をしているジユン。世紀の発見といわれる絵画「金剛山図」の発表を任せられるが、贋作騒動で指導教授のミン教授の不評を買い、イタリアで開かれた学会の途中で解雇されてしまう。街をさまよっていた途中で偶然、古い日記を手に入れたジユンは、自分そっくりの女性が描かれた「美人図」を発見する……。


「申師任堂」は“名前”ではないそうです。申家の次女で、本名は不明。「師任堂」は画家としての“号”だそうです。

ですが、ドラマの第1話で名前を聞かれると、「師任堂」と名乗っていました。これは混乱を防ぐためかもしれないですね。

アートの世界の閉鎖性は、ユ・アイン主演のドラマ「密会」や、パク・ヘイル&スエ主演の映画「上流社会」でも描かれていました。指導教授の気分ひとつで出世の道が決まる世界です。

イ・ヨンエ演じるジユンも、長く教授のアシスタントを勤め、家のトイレ掃除や、料理なんかも手伝うほど献身的に尽くしていましたが、「教授」への昇進は据え置き。

おまけに公開の場で教授のメンツを潰すような発言をしてしまったため、「生意気な女め……!」とばかりに公私ともに散々な目に遭わされます。

「なんて幸せなんだろう…」韓国ドラマでそんなセリフが出てきたら、急展開の合図。思わず「キタキタキターーー!」となる展開です。

もちろん、「へこたれない役」を演じさせたらピカイチのイ・ヨンエですから、おとなしくやられてばかりはいません。なにより。

イ・ヨンエの罵り言葉がすごい!!!

上品でたおやかな印象の強いイ・ヨンエが、雪辱を果たすために奮闘する姿は思わず応援したくなります。

ドラマとしては朝鮮時代と現代が交互に描かれます。登場人物たちが絵描きなため、絵を描くシーンもいっぱい。「色を作る」シーンや、自然の事物を「絵」に写し取る様子も美しいものでした。

原田マハさんのアート小説が好きな方は、入りやすいかもしれません。16世紀のイタリアと朝鮮のアートを堪能できるドラマです。

「良妻賢母」というつくられたイメージをぶち壊す、ひとりの女性として、アーティストとしての「申師任堂」。

彼女の絵は韓国の国立中央博物館に展示されています。韓国に行けるようになったら、ぜひ行ってみたい。


ドラマ「師任堂、色の日記」SBS 全28話(2017年)

監督:ユン・サンホ

脚本:パク・ウンリョン

出演:イ・ヨンエ、ソン・スンホン、ユン・ダフン、オ・ユナ、チェ・ジョンファン、キム・ヘスク

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