どん詰まりの人生を打開するために必要なのは、勇気か、お金か。
曽根圭介さんの同名小説を映画化した「藁にもすがる獣たち」は、そんなどん詰まりの人生を送る人間が、欲望にかられて徐々に“獣”となっていく姿が描かれます。人生の閉塞感と、どん詰まりの緊迫感、そしてストーリーの疾走感が、最高にいい! クライムサスペンスの名作誕生の瞬間を目にした気分です。
これが長編デビュー作となるキム・ヨンフン監督が、脚本も手がけています。
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映画「藁にもすがる獣たち」
http://klockworx-asia.com/warasuga/
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事業に失敗し、サウナの受付でアルバイトをしているジュンマン。ある日、ロッカーに忘れ物のバッグを発見。中には、10億ウォンが入っていた。 失踪した恋人が残した多額の借金の取り立てに追われるテヨン、過去を精算して新たな人生を始めようとするヨンヒ、借金のため家庭が崩壊したミラン。4人の思惑が交錯して……。
登場人物は多いですが、構成がしっかりしているせいかすごく没入感があります。よくこれだけの俳優を集めたなーと感じるキャスティングも最高!
借金の取り立てに追われるテヨンはチョン・ウソンが、その恋人で人生を仕切り直そうとしているヨンヒはチョン・ドヨンが演じています。
(画像は映画.comより)
チョン・ドヨンが登場するのは映画の半ば過ぎくらいです。でも、そこでガラッと空気が変わるんです。愛らしくて、優しくて、艶っぽくて。だから腹に秘めているものが怖いんだけど。
シン・ヒョンビン演じる、夫のDVに苦しむ女性ミランは、キャバクラで中国からやって来たという青年と出会います。彼を演じているのが、チョン・ガラム。「感染家族」でかわいいしかないゾンビ役が印象的だった俳優です。
(画像は映画.comより)
チョン・ガラムの触れたらはじけそうな危うさが、映画の中ではちょっとしたユーモアにもなっています。破裂寸前の水風船みたいなギリギリ感に、息もできなくなる。
そして、10億ウォンの入ったバッグを見つけてしまい、アタフタオロオロしてしまうジュンマン。ペ・ソンウの情けないおっちゃん感がぴったりはまっていました。
(画像は映画.comより)
見逃せないのは、ジュンマンの母を演じるユン・ヨジョンです。夢の世界と現実を行ったり来たりしているため、ふとしたひと言が何を指しているのか分からない。でも、核心を突いてくるんです。
(画像は映画.comより)
台本を読んだチョン・ドヨンが、「この役をできるのはユン・ヨジョンしかいない!」と推薦し、キャスティングされたそう。でもオファーを受けた際、ユン・ヨジョンは、
「出番が少ないじゃないのー」
と言ったのだとか。もちろん冗談ですよ。3月19日に公開予定の「ミナリ」で、各映画賞を総なめにし、いま大注目のユン・ヨジョン。ホントにくえないハルモニ(おばあちゃん)です。
映画は「10億ウォンの入ったバッグ」がキーなのですが、ストーリーの円環が閉じていくところだったのか、開いていくところだったのか、すべての登場人物がつながった時、「あ!」となりました。
それぞれに、いっぱいいっぱいの人生を送っていて、これ以上ないくらいのドン底から這い出せるチャンスを前に、争う「獣」たち。映画を見終えたいま、ひとつだけ言いたいことがあって。
こんな名作映画の原作本は、本屋さんに置いてください!!!!!
映画のパンフレットで曽根圭介さんは、こう書いています。
拙作には小説ならではの仕掛けがあるため、実写化するにあたって大幅に改変されてしまうだろうと覚悟していたからです。
だけど、鑑賞後に「お見事!」と激賞されているんです。読みたいじゃないですか。こんなすごい映画の原作ですよ。どんだけすごいんだろう。映画館を出て、そのまま本屋さんに行きました。ない。別の本屋さんへ。ない。4軒も回ったのに、ない。
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小説『藁にもすがる獣たち』
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Amazonで買えばいいじゃなーいと思われるかもしれませんが、できれば本屋さんで買いたいタイプなのです。名作映画の原作は、ぜひ! リアルの店舗に! 置いてください!!!!! これ以上の機会損失はないですよ。泣
映画情報「藁にもすがる獣たち」109分(2020年)
監督:キム・ヨンフン
原作:曽根圭介
脚本:キム・ヨンフン
出演:チョン・ドヨン、チョン・ウソン、ペ・ソンウ、ユン・ヨジョン
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