スキップしてメイン コンテンツに移動

こじらせ男子の当事者研究 『さよなら、俺たち』 #605


昨日3月8日は「国際女性デー(International Women's Day)」でした。1904年、ニューヨークで婦人参政権を求めたデモが起源となり、1975年に国連によって制定されたのだそうです。

こういう記念日的なものって、当日まではとても盛り上がるんですが、過ぎたとたんに終わってしまったようになることも多いような気がします。

おまけに「フェミニズム」と聞くと、(怒られている気分……)と感じる男性もいると聞いたので、今日は男性にお勧めの本を紹介しようと思います。

「恋バナ」に興味があって収集していたら、自分の男性性の呪縛に気がついたと語る清田隆之さんのエッセイ集『さよなら、俺たち』です。

☆☆☆☆☆

『さよなら、俺たち』

(画像リンクです)

☆☆☆☆☆

清田さんは「恋バナ収集ユニット」として活動する桃山商事の代表でいらっしゃいます。本には、こんな告白があります。

“両親はどちらもお店(注:電気屋さんだそう)に出ていたが、家事に関してはほとんど母親が担っていた。私はそのことになんの疑問も持たずに育った。自分が着ている衣類は、脱いでカゴに入れたらいつの間にかキレイになってタンスに入っているものだ……という感覚で生きていた。”


この「感覚」は、もしかしたら男性に限らないかもしれません。

子どものころ、お母さんがすべての家事をこなし、お父さんがそれを当たり前としていたら、そこに「感謝」が必要だなんて意識は育たないから。

加えて、社会から「料理上手な女」になろう的な、「たくましい男」になろう的な情報にさらされるのだから、「感覚」はより強固になって再生産されていくのではないでしょうか。

韓国映画の「82年生まれ、キム・ジヨン」にも、夫の実家で過ごす正月休みのシーンがありました。ご家族皆さまがくつろぐ中、嫁だけがあれこれの支度をしています。


清田さん自身、同じような状況を経験して、「自分はこうしていていいのか?」と、うっすらした居心地の悪さを感じたそう。

恋バナ収集の活動を始めるまでは、特にジェンダー意識が高かったというわけでもなく、ただただ恋愛相談を聞いていただけ。1200人以上の女性の話を聞くうちに、こうした「居心地の悪さ」や自分の「性欲」について見直すようになっていったとのことです。

本には男性から見たフェミニズムのこと、性のこと、コミュニケーションのことが綴られているのですが。

「あ、すごいぶっちゃけ話だ」

最初に読んだ時、そう感じたくらい、男性目線で出来上がっている世の中を、男性自身がみつめたエッセイです。

“「女性の内面に対する解像度の低さ」というのは、自分を含め多くの男性に当てはまる傾向だったからだ。”


“我々男たちの行動様式や思考パターンが極めて論理的に分析されている。自分の意思やこだわりだと思っていたものが、実はジェンダーの呪縛によって生産されていたという発見に満ちあふれている。自分を客観的に省みることで、俺たちは「話の通じる男」になれるのかもしれない。”


真摯に女性の話に耳を傾けることで、大きなメリットもあったそうです。

・話を聞く力が身につく

・男らしさの呪縛が緩和した

いまの時代、めちゃくちゃ必要な能力!!

“俺たちはこのままでいいのか。 これからの時代私たちに必要なことは、甘えや油断、無知や加害者性など、自分の見たくない部分と向き合いながら、「俺たち」にさよならすることだ。”


男性に見えている世界と、女性であるわたしが見ている世界って、こんなに違うのかと感じた「こじらせ男子の当事者研究」。

女性はもちろん、「フェミニズムっていうと、責められているように感じる」という男性にもおすすめの一冊です。

コメント

このブログの人気の投稿

『コロナ時代の選挙漫遊記』#839

学生時代、選挙カーに乗っていました。 もちろん、なにかの「候補者」として立候補したわけではありません。「ウグイス嬢」のアルバイトをしていたんです。候補者による街頭演説は、午前8時から午後8時までと決まっているため、選挙事務所から離れた地域で演説をスタートする日は、朝の6時くらいに出発することもあり、なかなかのハードワークでした。 選挙の現場なんて、見るのも初めて。派遣される党によって、お弁当の“豪華さ”が違うんだなーとか、候補者の年齢によって休憩時間が違うんだなーとか、分かりやすい部分で差を感じていました。 それでも、情勢のニュースが出た翌日なんかは事務所の中がピリピリしていることもあり、真剣勝負の怖さを感じたものでした。 「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちれば“ただの人”だ」とは、大野伴睦の言葉だそうですが、誰だって“ただの人”にはなりたくないですもんね……。 そんな代議士を選ぶ第49回衆議院議員総選挙の投票日が、今週末10月31日に迫っています。   与党で過半数を獲得できるのかが注目されていますが、わたしが毎回気になっているのは投票率です。今回は、どれくらい“上がる”のかを、いつも期待して見ているのですが、なかなか爆上がりはしませんね……。 ちなみに、2017年10月に行われた第48回衆議院議員総選挙の投票率は、53.68%でした。 『コロナ時代の選挙漫遊記』の著者であり、フリーライターの畠山理仁さんは、選挙に行かないことに対して、こう語っています。 “選挙に行かないことは、決して格好いいことではない。” 全国15の選挙を取材したルポルタージュ『コロナ時代の選挙漫遊記』を読むと、なるほど、こんなエキサイティングな「大会」に積極的に参加しないのはもったいないことがよく分かります。 ☆☆☆☆☆ 『コロナ時代の選挙漫遊記』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 昨年行われた東京都知事選で、「スーパークレイジー君」という党があったのをご存じでしょうか? またオモシロ系が出てきたのかしら……と、スルーしてしまったのですけれど、本を読んで、とても真剣に勝負していたことを知りました。300万円もの供託金を払ってまで挑戦するんですもん。そりゃそうですよね。 この方の演説を、生で見てみたかった。もったいないことをしてしまった。 こんな風に後悔しないで済むように、畠...

人生をやり直したい男の誤算が招くコメディ 映画「LUCK-KEY」 #298

名バイプレーヤーとして知られる俳優が、主演を務めるとき。その心中はドッキドキでしょうね……。 映画「ベテラン」や「タクシー運転手 約束は海を越えて」で味のある演技を披露していたユ・ヘジンにとって、初めての単独主演映画が「LUCK-KEY ラッキー」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「LUCK-KEY」 https://amzn.to/3watGNT ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 売れない貧乏役者のジェソンは、将来に絶望して自殺を試みます。が、大家の侵入によって失敗。せめて身ぎれいになってからにしようと銭湯に行くことに。石けんを踏んで転倒した男の鍵をすり替え、男のフリをして暮らそうとしますが……。 原作は内田けんじ監督のコメディ「鍵泥棒のメソッド」。リメイク版の試写会で、観客が提案したタイトルが「LUCK-KEY」で、それがそのまま使われることに決まったのだそう。 ☆☆☆☆☆ 映画「鍵泥棒のメソッド」 https://amzn.to/3jEEotv ☆☆☆☆☆ ユ・ヘジンが演じるのは記憶喪失になった男「ヒョヌク」なのですが、ロッカーの鍵をすり替えられてしまったため、周囲には貧乏役者だと思われています。助けてくれた救急隊員の実家である食堂で働くことになりますが、刀さばきはすごいし、客さばきもうまい。だけど彼自身は俳優として成功し、親孝行しなければとマジメに努力します。 (画像はKMDbより) 一方、鍵をすり替えて逃げ出したジェソンの方は、豪勢な「ヒョヌク」の家にビックリ。贅沢三昧に自堕落に暮らし始めますが、隠し部屋で多くの銃を発見してしまいます。 実は「ヒョヌク」は、100%の成功率を誇る伝説の殺し屋だったのです!!! というお話。とにかくおかしな方へ、おかしな方へと話が転がっていく、コメディです。 (画像はKMDbより) 驚くのはユ・ヘジンの身体能力の高さ。趣味は登山と日曜大工だそうですが、いや、すごすぎやろというくらい、見事なアクションをみせています。 映画では、どう見てもおっちゃんなのに身分証は20代だったり、大部屋俳優から出世しちゃったり。 記憶は失っても、努力の仕方は覚えてるんですよね。 逆に、鍵をすり替えたジェソンは、夢はでっかく、だけど行動力はゼロという青年です。ふたりの対照的な生き方は、入れ替わっても続いてしまう。「幸運の鍵」をつかむには、という部分で、ちょっと身に...

映画「新しき世界」#293

「アメリカに“ハリウッド”があるように、韓国には“忠武路”という町があります」 第92回アカデミー賞で 「パラサイト 半地下の家族」 が脚本賞を受賞した時、ポン・ジュノ監督と共同で脚本にあたったハン・ジュヌォンは、そう挨拶していました。「この栄光を“忠武路”(チュンムノ)の仲間たちと分かち合いたい」。泣けるなー! ハン・ジュヌォンのスピーチ(1:50くらいから) アメリカにハリウッドがあるように、韓国には忠武路というところがあります。わたしはこの栄光を忠武路の仲間たちと分かち合いたいと思います。ありがとう! #アカデミー賞 https://t.co/LLK7rUPTDI — mame3@韓国映画ファン (@yymame33) February 10, 2020 1955年に「大韓劇場」という大規模映画館ができたことをきっかけに、映画会社が多く集まり、“忠武路”(チュンムノ)は映画の町と呼ばれるようになりました。 一夜にしてスターに躍り出る人や、その浮き沈みも見つめてきた町です。 リュ・スンワン監督×ファン・ジョンミンの映画「生き残るための3つの取引」での脚本が評価されたパク・フンジョン。韓国最大の映画の祭典で、最も権威のある映画賞である「青龍映画賞」で、彼自身は脚本賞を受賞。映画も作品賞を受賞し、一躍“忠武路”の注目を浴びることに。 そうして、自らメガホンを取った作品が「新しき世界」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「新しき世界」 Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 韓国最大の犯罪組織のトップが事故死し、跡目争いに突入。組織のナンバー2であるチョン・チョンは、部下のジャソンに全幅の信頼を寄せていますが、彼は組織に潜入した警察官でした。この機会にスパイ生活を止めたいと願い出ますが、上司のカン課長の返事はNO。組織壊滅を狙った「新世界」作戦を命じられ……。 あらすじを読んでお分かりのように、思いっきり「ゴッドファーザー」と「インファナル・アフェア」のミックスジュース特盛り「仁義なき戦い」スパイス風味入りです。 無節操といえばそうですけれど、名作のオマージュはヘタをすると二番煎じの域を出なくなっちゃうと思うんです。よいところが薄まっちゃうというか。人気作の続編が、「あれれ?」となるのもそうですよね。ですが。 名作と名作を合わせたら、一大名作が...