スキップしてメイン コンテンツに移動

“世界中のおばあちゃんに捧ぐ”都会っ子の少年の不器用な成長に涙 映画「おばあちゃんの家」 #618

この映画はずるい。

絶対泣いちゃうって分かってしまう組み合わせなんです。だけど、しみじみといい映画なのです。

主人公は、ひと夏をおばあちゃんと過ごすことになった都会っ子の少年。数々の衝突の末、「ありがとう」と「ごめんなさい」を言えるようになるまでの成長が、ものすごくイタい。だって、わたしにもこんな時期はあったから。

上品に言っても「クソガキ」、はっきり言うと「クソなクソガキ」な少年を、決して叱ることなく受け入れる「おばあちゃん」という存在に、ただただ涙してしまいました。

“世界中のおばあちゃんに捧ぐ”という映画「おばあちゃんの家」です。

☆☆☆☆☆

映画「おばあちゃんの家」

DVD

(画像リンクです)

Amazonプライム配信

(画像リンクです)

☆☆☆☆☆

<あらすじ>
母親と2人でソウルに暮らす7歳の少年スンホ。失業した母が仕事を探す間、おばあちゃんの家に預けられることに。母の実家はテレビも映らない山の中にあり、おまけにおばあちゃんは耳が聞こえず、文字も読めず、言葉を話すこともできないという。おばあちゃんに対してワガママ放題のスンホだったが……。


監督のイ・ジョンヒャンは、「美術館の隣の動物園」でデビュー。この映画が2作目になります。ロケハンで訪れた山中に住むおばあちゃんを、そのまま「おばあちゃん役」に抜擢。でも、このおばあちゃん、生涯で一度も映画を観たことがないという方なんです。

腰は45度に曲り、すべてがスローペース。山の中を歩くシーンが何度かあるのですが、「ここではもう少し速く歩けますか?」と監督がお願いしたことがあるそうです。ところが、「はいはい」と返事して、まったく同じように歩いたのだそう。

ものすごくもどかしかったけれど、これがこの世代のリアルなのかもしれないと考えて、そのままOKにしたとインタビューで語っていました。セリフがないとはいえ、無表情の中にとても豊かな感情が感じられます。

都会の子どもにとっては、テレビが映らないとかあり得ないし、トイレが外にあるとか、だから夜中は「おまる」にするしかないとか、ふざけんな!という事態ばかり(真っ暗闇なので、トイレまで行けないのです。昔はよくそうしていたそう)。スマホがない時代の話ですが、この山の中には、絶対電波が通っていないだろうなー。

おばあちゃんが聞こえないのをいいことに、罵詈雑言をぶつけるサンウ。イタズラというより、度を超えた「悪さ」ばかりして、不満をぶちまけます。

そんな「クソガキ」を、おばあちゃんはすべて受け入れるんです。

名場面の中からひとつだけ紹介しますと、やっぱり「フライドチキン」のシーンかな。

おばあちゃんの作ってくれたご飯を無視して、持参したスパムの缶詰などを食べているサンウ。そこでおばあちゃんが、「何か食べたいものはあるか?」と聞いてくれるのです。

「フライドチキン!」

そうリクエストするものの、おばあちゃんには分かりません。鶏のモノマネをして、やっと通じた!

(画像はDaumより)


山を下りて鶏を仕入れ、台所でおばあちゃん自ら絞めて、作ってくれたのは……。

鶏の水炊き!

「誰が鶏を溺れさせろって言ったんだよー!泣」

サンウはそう言ってダダをこねるんですが、それは仕方ないなと笑ってしまった。

そのサンウを演じたユ・スンホは、後になってテレビ番組でおばあちゃんに謝罪をしていたそうです。いくら演技とはいえ、失礼が過ぎたのではないかと気になっていたのだとか。時々、牛肉を持って訪ねて行ったりもしているそうです。

おばあちゃんの不器用なやさしさに気づいた時、不器用な孫も成長していきます。ふたりの別れは、これ以上ないくらい温もりのこもった「手紙」で終わります。

(画像はDaumより。サンウの住所が書いてあって、イラストの上には「病気です」の文字が)


孫という存在に対して、すべてを受け入れ、ひたすらに愛情を注ぐおばあちゃん。これは「オールドスタイル」なのかもしれないと、いま公開中の映画「ミナリ」を観ながら思いました。

韓国式“世界中のおばあちゃんに捧ぐ”、ふたつの映画。見比べてみるのもおすすめです!


「おばあちゃんの家」は、Amazonプライムで配信中です。このずるさ、ぜひ体験してください。

Amazonプライム配信

(画像リンクです)

映画「おばあちゃんの家」87分(2002年)
監督:イ・ジョンヒャン
脚本:イ・ジョンヒャン
出演:キム・ウルブン、ユ・スンホ、ミン・ギョンフン

コメント

このブログの人気の投稿

『コロナ時代の選挙漫遊記』#839

学生時代、選挙カーに乗っていました。 もちろん、なにかの「候補者」として立候補したわけではありません。「ウグイス嬢」のアルバイトをしていたんです。候補者による街頭演説は、午前8時から午後8時までと決まっているため、選挙事務所から離れた地域で演説をスタートする日は、朝の6時くらいに出発することもあり、なかなかのハードワークでした。 選挙の現場なんて、見るのも初めて。派遣される党によって、お弁当の“豪華さ”が違うんだなーとか、候補者の年齢によって休憩時間が違うんだなーとか、分かりやすい部分で差を感じていました。 それでも、情勢のニュースが出た翌日なんかは事務所の中がピリピリしていることもあり、真剣勝負の怖さを感じたものでした。 「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちれば“ただの人”だ」とは、大野伴睦の言葉だそうですが、誰だって“ただの人”にはなりたくないですもんね……。 そんな代議士を選ぶ第49回衆議院議員総選挙の投票日が、今週末10月31日に迫っています。   与党で過半数を獲得できるのかが注目されていますが、わたしが毎回気になっているのは投票率です。今回は、どれくらい“上がる”のかを、いつも期待して見ているのですが、なかなか爆上がりはしませんね……。 ちなみに、2017年10月に行われた第48回衆議院議員総選挙の投票率は、53.68%でした。 『コロナ時代の選挙漫遊記』の著者であり、フリーライターの畠山理仁さんは、選挙に行かないことに対して、こう語っています。 “選挙に行かないことは、決して格好いいことではない。” 全国15の選挙を取材したルポルタージュ『コロナ時代の選挙漫遊記』を読むと、なるほど、こんなエキサイティングな「大会」に積極的に参加しないのはもったいないことがよく分かります。 ☆☆☆☆☆ 『コロナ時代の選挙漫遊記』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 昨年行われた東京都知事選で、「スーパークレイジー君」という党があったのをご存じでしょうか? またオモシロ系が出てきたのかしら……と、スルーしてしまったのですけれど、本を読んで、とても真剣に勝負していたことを知りました。300万円もの供託金を払ってまで挑戦するんですもん。そりゃそうですよね。 この方の演説を、生で見てみたかった。もったいないことをしてしまった。 こんな風に後悔しないで済むように、畠...

人生をやり直したい男の誤算が招くコメディ 映画「LUCK-KEY」 #298

名バイプレーヤーとして知られる俳優が、主演を務めるとき。その心中はドッキドキでしょうね……。 映画「ベテラン」や「タクシー運転手 約束は海を越えて」で味のある演技を披露していたユ・ヘジンにとって、初めての単独主演映画が「LUCK-KEY ラッキー」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「LUCK-KEY」 https://amzn.to/3watGNT ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 売れない貧乏役者のジェソンは、将来に絶望して自殺を試みます。が、大家の侵入によって失敗。せめて身ぎれいになってからにしようと銭湯に行くことに。石けんを踏んで転倒した男の鍵をすり替え、男のフリをして暮らそうとしますが……。 原作は内田けんじ監督のコメディ「鍵泥棒のメソッド」。リメイク版の試写会で、観客が提案したタイトルが「LUCK-KEY」で、それがそのまま使われることに決まったのだそう。 ☆☆☆☆☆ 映画「鍵泥棒のメソッド」 https://amzn.to/3jEEotv ☆☆☆☆☆ ユ・ヘジンが演じるのは記憶喪失になった男「ヒョヌク」なのですが、ロッカーの鍵をすり替えられてしまったため、周囲には貧乏役者だと思われています。助けてくれた救急隊員の実家である食堂で働くことになりますが、刀さばきはすごいし、客さばきもうまい。だけど彼自身は俳優として成功し、親孝行しなければとマジメに努力します。 (画像はKMDbより) 一方、鍵をすり替えて逃げ出したジェソンの方は、豪勢な「ヒョヌク」の家にビックリ。贅沢三昧に自堕落に暮らし始めますが、隠し部屋で多くの銃を発見してしまいます。 実は「ヒョヌク」は、100%の成功率を誇る伝説の殺し屋だったのです!!! というお話。とにかくおかしな方へ、おかしな方へと話が転がっていく、コメディです。 (画像はKMDbより) 驚くのはユ・ヘジンの身体能力の高さ。趣味は登山と日曜大工だそうですが、いや、すごすぎやろというくらい、見事なアクションをみせています。 映画では、どう見てもおっちゃんなのに身分証は20代だったり、大部屋俳優から出世しちゃったり。 記憶は失っても、努力の仕方は覚えてるんですよね。 逆に、鍵をすり替えたジェソンは、夢はでっかく、だけど行動力はゼロという青年です。ふたりの対照的な生き方は、入れ替わっても続いてしまう。「幸運の鍵」をつかむには、という部分で、ちょっと身に...

映画「新しき世界」#293

「アメリカに“ハリウッド”があるように、韓国には“忠武路”という町があります」 第92回アカデミー賞で 「パラサイト 半地下の家族」 が脚本賞を受賞した時、ポン・ジュノ監督と共同で脚本にあたったハン・ジュヌォンは、そう挨拶していました。「この栄光を“忠武路”(チュンムノ)の仲間たちと分かち合いたい」。泣けるなー! ハン・ジュヌォンのスピーチ(1:50くらいから) アメリカにハリウッドがあるように、韓国には忠武路というところがあります。わたしはこの栄光を忠武路の仲間たちと分かち合いたいと思います。ありがとう! #アカデミー賞 https://t.co/LLK7rUPTDI — mame3@韓国映画ファン (@yymame33) February 10, 2020 1955年に「大韓劇場」という大規模映画館ができたことをきっかけに、映画会社が多く集まり、“忠武路”(チュンムノ)は映画の町と呼ばれるようになりました。 一夜にしてスターに躍り出る人や、その浮き沈みも見つめてきた町です。 リュ・スンワン監督×ファン・ジョンミンの映画「生き残るための3つの取引」での脚本が評価されたパク・フンジョン。韓国最大の映画の祭典で、最も権威のある映画賞である「青龍映画賞」で、彼自身は脚本賞を受賞。映画も作品賞を受賞し、一躍“忠武路”の注目を浴びることに。 そうして、自らメガホンを取った作品が「新しき世界」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「新しき世界」 Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 韓国最大の犯罪組織のトップが事故死し、跡目争いに突入。組織のナンバー2であるチョン・チョンは、部下のジャソンに全幅の信頼を寄せていますが、彼は組織に潜入した警察官でした。この機会にスパイ生活を止めたいと願い出ますが、上司のカン課長の返事はNO。組織壊滅を狙った「新世界」作戦を命じられ……。 あらすじを読んでお分かりのように、思いっきり「ゴッドファーザー」と「インファナル・アフェア」のミックスジュース特盛り「仁義なき戦い」スパイス風味入りです。 無節操といえばそうですけれど、名作のオマージュはヘタをすると二番煎じの域を出なくなっちゃうと思うんです。よいところが薄まっちゃうというか。人気作の続編が、「あれれ?」となるのもそうですよね。ですが。 名作と名作を合わせたら、一大名作が...