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『組織が変わる――行き詰まりから一歩抜け出す対話の方法2 on 2』#685


「1on1」ミーティングの難しさは、上司側の姿勢と、ブラックボックスになりがちなところにあると思います。ふたりきりで行われる以上、そこで詰められていても分からないからです。

宇田川元一さんの『組織が変わる――行き詰まりから一歩抜け出す対話の方法2 on 2』には、より踏み込んだ「対話」の形である「2on2」が紹介されているのですが、これはとても演劇的な手法だなと感じました。前著『他者と働く』の実践編といえる内容です。

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企業は常に何かしらの悩みを抱えているものです。売上のこと、業界のこと、組織の中のこと。いろいろありますが、どれに対しても、「放っておくと悪くなりそうだけど、何から手を付ければいいのか分からない」状態で放置されることがあります。

宇田川さんはこうした状況を「組織の慢性疾患」と呼んでいます。「慢性疾患」なので、完治することは難しいけれど、安定した状態を保つ=寛解を目指すことはできる。そのために必要なのが「セルフケア」。小さな問題や、弱いシグナルにいち早く気付き、対応する能力を保つ組織を目指そう、という内容です。

「組織の慢性疾患」とは。

1. ゆっくりと悪化する
2. 原因があいまいで特定できない
3. 背後に潜んでいる
4. 後回しにされがちである
5. 既存の解決策では太刀打ちできない
6. 根治しない

こうした状況では危機感も生まれにくくなってしまいます。そこで必要なのが、「対話」です。

<対話に必要な4つのステップ>
1. 問題を眺める
2. 自分もその問題の一部だと気づく
3. 問題のメカニズムを理解する
4. 具体的な策を考える

特に2の「自分もその問題の一部だと気づく」って、とても大事だと思います。すぐに解決策を提案できる人は、自分も問題に関わっている視点が抜けがちだから。

「対話」の方法のひとつとして紹介されているのが「2 on 2」。基本的に4人一組で行い、問題からの距離感を変えてキャスティングするのだそう。おもしろいのは問題に名前を付けて「妖怪」として扱い、その生態を探ってみるという過程です。

本では、忖度してしまって言いたいことが言えない状況に「ソンタック」という名前を付けていました。ちょっとコミカルだけど、問題を外在化して眺める姿勢は、演劇的なアプローチだなと思います。「妖怪」の役作りみたいなものですね。

問題に対して、きれいに終わらせようとしない、単純化しないという指摘は、ハッとさせられるものでした。

「対話」とは、分かり合うことではありません。相手の想定外の言動を通じて、自分が分かっていなかったことに気付くプロセスです。誰かと語り合ったとしても、すべてが「分かる」なんて幻想にすぎない。こうしたトレーニングは、ゆっくりと、継続して行う必要がありそうです。

宇田川さんの前著『他者と働く』はこちら。

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