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『2016年の週刊文春』#675


分厚くて重量感があのある本を「鈍器本」と呼ぶのだそうです。当然、お値段も張るわけですが、ベストセラーとなる本も続出。背景には「家でじっくり本を読みたい」という思いがあるのだそう。


本好きとしては、「凶器」と同じ扱いをされることにモヤッとしちゃう。まぁ、たしかに、足の上に落としたら青たんができること間違いなしのゴツさはありますよね。

「鈍器本」と同じくらいモヤッとする言葉が「文春砲」です。

新聞では報じられないスクープを、雑誌ジャーナリズムの矜持を持って報じる……というスタンスは支持できます。でも、将来性のある俳優やタレントの未来を壊すことに意味はあるのか。誰かの人生をエンタメとして消費することへの疑問です。

自分たちは報じただけ。

そんな論理にもイマイチ納得はできなくて、「週刊文春」は、毎週楽しみに読んでいた時期もありつつ、ナナメに見てしまう雑誌でもありました。

でもなぜ、「週刊文春」はこれほど「文春砲」を出せるのか。雑誌のはじまりから今日までを追ったノンフィクションが、柳澤健さんの『2016年の週刊文春』です。これも「鈍器本」と呼べそうな重量級の本です。

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「週刊文春」の歴史において、カリスマと呼ばれるふたりの編集長、花田紀凱さんと新谷学さんが軸になっています。

2017年に出版された新谷さんの著書『「週刊文春」編集長の仕事術』は、炎上により「休職」を言い渡されたシーンから始まります。新谷さんはかつての名編集長を訪ねるわけですが、それが花田紀凱さんでした。

わたしにとって花田さんといえば、「マルコポーロ事件」のイメージが強く、退職後に創刊された雑誌の内容的にも、「なぜ、この人のところに?」と疑問がわきました。

その疑問が、『2016年の週刊文春』を読んで、ようやく解けた……。

『「週刊文春」編集長の仕事術』には、「新谷さんは特別だから」という同僚編集者の声が紹介されていて、新谷さんの「特別さ」というか、「天才性」は、2冊を通してより感じることができます。

株式会社文藝春秋の発行する週刊誌として1959年に創刊された「週刊文春」。「週刊新潮」の背中を追いかけ続けた創業期。花田編集長を迎えてからの飛躍期の、熱い時代。まさに“ベンチャー魂”そのものでした。

新潮と文春の違いについて、文藝春秋社は異動が多いため、見聞を広めることができるとあります。入社からずっと文芸一筋の人がいる新潮に比べて、「文春は遊び人の会社だったんだよ」という指摘も。

なるほど、これは若手にとっては魅力的ですね。その中でも、頭抜けてブイブイいわせていたのが、花田紀凱さんと新谷学さんだったわけです。

著者の柳澤さんも、元文藝春秋の編集者です。スポーツビジュアル誌の「ナンバー」で、新谷さんと一緒に仕事をしていたこともあるそう。だから、ですかね。時々、“記録者”としての立場を超えて、個人的な意見が飛び出したりもしています。

“良い人間の悪いところを突いたり、逆に悪い人間のいい部分に光を当てたりしながら、愚かさ、恐ろしさ、浅ましさ、美しさ、面白さ、そのすべてを持つ人間の営みをエンターテインメントとして読者にお届けするのが『週刊文春』だと思っています。人間は人間からしか学べないから”

新谷さんの言葉にはうなずけるものもありました。そして、数々の「文春砲」が世間を騒がせた2016年という年が、文藝春秋社の転換点だったということも。

ジャーナリズムとエンターテインメントは両立するのかといった辺りは、もう少し深く知りたかったところです。そして、天才編集者への風当たりについても、知りたかったかな。

わたしはこの本を読んでようやく、「週刊文春WEB」と「文春オンライン」の違いを理解できました。ウェブ記事と紙の記事の連携を図る試みは、現在、新谷さんが主導されているそうです。

会社を去った人たちでさえ、郷愁を抱え、愛し続けるという、文藝春秋社。創業者の菊池寛にとって、これほどうれしいことはないのかもしれない。


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