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『美食と嘘と、ニューヨーク』#663



 おもしろくて、一気読み。

目の前にある“エサ”を“チャンス”だと考えてしまう学生と、彼女を支配する大物料理評論家。自己顕示欲の強い若者には、イタい教訓になりそうな小説です。


☆☆☆☆☆

『美食と嘘と、ニューヨーク:おいしいもののためなら、何でもするわ』
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☆☆☆☆☆


ニューヨークを舞台に、上昇志向の強い若者と、それをうまく利用したゲスいおっさんの、食を巡る物語です。いつバレるか、いつバラすのかとハラハラしてしまって、のめり込むように読んでいました。

昭和のヒット曲である、太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」に、こんな歌詞がありました。

<恋人よ 君を忘れて

変わってく ぼくを許して

毎日愉快に 過ごす街角

ぼくは ぼくは帰れない>

この本の主人公・ティナがまさに“ぼく”なんです。

食品学を研究する学生が出会ったのは、トップofトップのレストラン評論家のマイケル・サルツ。秘密を守り、仕事に協力する代わりに、ハイブランドの洋服や特権階級の扱いを手に入れてしまったら。もう“普通”の生活になんて戻れない……。

権力者の傲慢さを感じつつ、目の前にある“エサ”を“チャンス”だと考えてしまうティナ。恋人の素朴さと、一流シェフのワイルドさを比べてしまうのも、仕方がないと言えば仕方がないものです。だって、都会はあまりにもキラキラしているから。おまけに、自分自身が“権力”を手にしたように錯覚してしまうのですから。


三浦哲哉さんのエッセイ『LAフード・ダイアリー』や、アメリカ版「男子ごはん」な料理番組「ザ・シェフ・ショー」で、度々紹介されていた料理評論家が、ジョナサン・ゴールドです。

「ロサンゼルスタイムズ」でコラムを連載し、誰も知らないレストランを発掘することが楽しみだったそう。彼のコラムで☆をもらい、運命が変わったというシェフも「ザ・シェフ・ショー」に出演していました。

ジョナサン・ゴールドは、好みではない味に出会った時には、何度も何度も足を運び、気に入る一品を見つけるようにしていたのだとか。数十回訪れてもダメな場合は、コラムに取り上げないことにしていたのです。それだけ、自分が書く「☆」の威力を自覚し、責任を感じていたからなのでしょう。

ティナを支配しようとするマイケル・サルツの仕事とは正反対。そんな彼に協力してしまったティナも同じです。

何かを成し遂げたいと願い、自己顕示欲がふくれ上がった若者には、イタい教訓になりそう。作者のジェシカ・トム自身、フードライターだそうで、味の表現がとても魅惑的でした。

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