スキップしてメイン コンテンツに移動

『もしも徳川家康が総理大臣になったら』#687


キテレツ本かと思いきや、とびきりおもしろかった!

新型コロナウイルスによって、首相官邸にクラスターが発生し、時の総理が死亡。混乱する政治と事態収拾のために集められたのは、AIとホログラムで蘇った、歴史上の偉人たち。『もしも徳川家康が総理大臣になったら』は、現実の政治を皮肉るブラック感にニヤニヤしつつ、すごく疾走感のあるストーリーで一気に読みました。

☆☆☆☆☆

『もしも徳川家康が総理大臣になったら』
https://amzn.to/3fSyLob

☆☆☆☆☆

総理大臣はタイトルどおり徳川家康、官房長官は坂本龍馬です。「江戸時代」を始めた人と、終わらせた人が、政権でパートナーを組むなんて。財務大臣は豊臣秀吉、経済産業大臣は織田信長と、師弟コンビ。副大臣には石田三成がついていて、オイオイいいんかいな……と、内閣の顔ぶれを見ているだけでおもしろいです。

(画像はAmazonより)

最初の顔合わせの時こそ、
“居並ぶ閣僚たちは、この日、初めて顔をあわせた。それぞれ違う時代からやってきているため、お互い、どう向き合ってよいか、まだ探りあうような雰囲気である”
という「そりゃそうやわ」な状況でしたが、さすが歴史に名を残すほどの偉人たちです。やるといったらやる。「民主主義」や「人権」という概念のない時代の人々が、現在の法律と折り合いをつけながら「合議」で政治を行う姿は、おもしろいのひと言。

最強内閣が次々と施策を実行し、国民の信頼を取り戻していく第1部では、読んでいるこちらも思わず熱狂してしまうんです。そして第2部に入ると、ミステリーの色が濃くなっていきます。

総じて感じるのは、偉人たちの言葉の重さです。

強い言葉を語るリーダーは現代にもいますが、なんでしょうね、これ。覚悟の違いなのかもしれません。

たとえば、新型コロナウイルス感染症対策に関するドイツのメルケル首相の演説は、心に訴えるものとして絶賛されました。

新型コロナウイルス感染症対策に関するメルケル首相のテレビ演説(2020年3月18日)
https://japan.diplo.de/ja-ja/themen/politik/-/2331262

同じ頃の日本は……と思い出すとげんなりしてしまうのですけれど。この本で繰り広げられる最強内閣の決断力、実行力は、いままさにわたしが欲しかったもの!という気がしたんです。

町を完全ロックアウトするために配備されたのは新撰組。全国民に10日で50万円を配るために、江戸時代と明治時代の有能な官僚がAIで復活して奔走する。そうして内閣は、国民から熱狂的な支持を得ていきます。

どんどん気持ちよくなってしまいそうになった時、ハッと気がつきました。ナチスが登場したときって、こういう感じ……!? 誰かが「決めてくれる」って、なんてラクなんだろうという思いを、後半でズバリと突かれてしまう。

リーダーとは、何を語るべき人なのか。
報道の果たす役割とは。

パンデミックを鎮めるだけでなく、経済、DX化、防衛、外交、ナショナリズムなど、いまの日本が抱える問題に足りないものを、最強内閣が見せてくれているかのようです。つまりこの本は。

壮大で壮絶なる「温故知新」の物語だといえます。

学校の「歴史」の授業って丸暗記でつまらないとよく言われますが、教科書がこんな風に「人間の物語」として書いてあればなーと思ってしまう。

歴史好きも、リーダーシップを身につけたい人にもおすすめのこの本。部署の定例ミーティングで話したところ、CFOがまず買って絶賛。役員陣にも情報共有され、どんどん輪が広がることに。平和な会社だなーという事実が発覚しました……。

著者の眞邊明人さんは、吉本興業を経て独立したという方で、舞台の脚本家もされているそう。そのせいか、小説もとてもドラマ的でした。

これ、ドラマ化されるとうれしい。坂本龍馬官房長官は、ぜひ大泉洋さんで!


コメント

このブログの人気の投稿

映画「新しき世界」#293

「アメリカに“ハリウッド”があるように、韓国には“忠武路”という町があります」 第92回アカデミー賞で 「パラサイト 半地下の家族」 が脚本賞を受賞した時、ポン・ジュノ監督と共同で脚本にあたったハン・ジュヌォンは、そう挨拶していました。「この栄光を“忠武路”(チュンムノ)の仲間たちと分かち合いたい」。泣けるなー! ハン・ジュヌォンのスピーチ(1:50くらいから) アメリカにハリウッドがあるように、韓国には忠武路というところがあります。わたしはこの栄光を忠武路の仲間たちと分かち合いたいと思います。ありがとう! #アカデミー賞 https://t.co/LLK7rUPTDI — mame3@韓国映画ファン (@yymame33) February 10, 2020 1955年に「大韓劇場」という大規模映画館ができたことをきっかけに、映画会社が多く集まり、“忠武路”(チュンムノ)は映画の町と呼ばれるようになりました。 一夜にしてスターに躍り出る人や、その浮き沈みも見つめてきた町です。 リュ・スンワン監督×ファン・ジョンミンの映画「生き残るための3つの取引」での脚本が評価されたパク・フンジョン。韓国最大の映画の祭典で、最も権威のある映画賞である「青龍映画賞」で、彼自身は脚本賞を受賞。映画も作品賞を受賞し、一躍“忠武路”の注目を浴びることに。 そうして、自らメガホンを取った作品が「新しき世界」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「新しき世界」 Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 韓国最大の犯罪組織のトップが事故死し、跡目争いに突入。組織のナンバー2であるチョン・チョンは、部下のジャソンに全幅の信頼を寄せていますが、彼は組織に潜入した警察官でした。この機会にスパイ生活を止めたいと願い出ますが、上司のカン課長の返事はNO。組織壊滅を狙った「新世界」作戦を命じられ……。 あらすじを読んでお分かりのように、思いっきり「ゴッドファーザー」と「インファナル・アフェア」のミックスジュース特盛り「仁義なき戦い」スパイス風味入りです。 無節操といえばそうですけれど、名作のオマージュはヘタをすると二番煎じの域を出なくなっちゃうと思うんです。よいところが薄まっちゃうというか。人気作の続編が、「あれれ?」となるのもそうですよね。ですが。 名作と名作を合わせたら、一大名作が...

『JAGAE 織田信長伝奇行』#725

歴史に「if」はないというけれど。 現代にまで伝わっている逸話と逸話の間を、想像の力で埋めるのは、歴史小説の醍醐味かもしれません。 『陰陽師』 の夢枕獏さんの新刊『JAGAE 織田信長伝奇行』は、主人公が織田信長です。 旧臣が残した『信長公記』や、宣教師の書いた『日本史』などから、人間・信長の姿を形にした小説。もちろん、闇が闇としてあった時代の“妖しいもの”も登場。夢枕版信長という人物の求心力に、虜になりました。 ☆☆☆☆☆ 『JAGAE 織田信長伝奇行』 https://amzn.to/2SNz4ZI ☆☆☆☆☆ 信長といえば、気性が荒く、残忍で、情け容赦ないイメージがありました。眞邊明人さんの『もしも徳川家康が総理大臣になったら』には、経済産業大臣として織田信長が登場します。首相である家康を牽制しつつ、イノベーターらしい発想で万博を企画したりなんかしていました。 『もしも徳川家康が総理大臣になったら』#687   『JAGAE』は、信長が14歳の少年時代から始まります。不思議な術をつかう男・飛び加藤との出会いのシーンが、また鮮烈なんです。人質としてやって来た徳川家康をイジる様子、子分となった秀吉との出会いなどなど。 信長のもとに常に漂う、血の臭い……。 これに引きつけられるのは、蚊だけではないのかも。 おもしろいのは、一度も合戦シーンが出てこないことです。信長のとった戦術・戦略は、実は極めてオーソドックスなものだったそう。そこで戦よりも、合理主義者としての人物像を描いているのではないか、と思います。 小説の基になっている『信長公記』は、旧臣の太田牛一が書いた信長の一代記です。相撲大会を好んで開催していたことなどが残っているそうで、史料としての信頼も高いと評価されているもの。 そんな逸話の間を想像で埋めていくのです。なんといっても、夢枕獏さんの小説だから。闇が闇としてあった時代の“妖しいもの”が楽しみなんです。 タイトルになっている「JAGAE」とは、「蛇替え」と書き、池の水をかき出して蛇を捕えることを指しています。 なんだかテレビ番組になりそうな話なんですけど、実際に領民が「大蛇を見た~」と騒いでいたことを耳にした信長が、当の池に出張っていって捜索したという記録が残っているのです。 民衆を安心させるための行動ともいえますが、それよりも「未知なるもの」への...

『コロナ時代の選挙漫遊記』#839

学生時代、選挙カーに乗っていました。 もちろん、なにかの「候補者」として立候補したわけではありません。「ウグイス嬢」のアルバイトをしていたんです。候補者による街頭演説は、午前8時から午後8時までと決まっているため、選挙事務所から離れた地域で演説をスタートする日は、朝の6時くらいに出発することもあり、なかなかのハードワークでした。 選挙の現場なんて、見るのも初めて。派遣される党によって、お弁当の“豪華さ”が違うんだなーとか、候補者の年齢によって休憩時間が違うんだなーとか、分かりやすい部分で差を感じていました。 それでも、情勢のニュースが出た翌日なんかは事務所の中がピリピリしていることもあり、真剣勝負の怖さを感じたものでした。 「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちれば“ただの人”だ」とは、大野伴睦の言葉だそうですが、誰だって“ただの人”にはなりたくないですもんね……。 そんな代議士を選ぶ第49回衆議院議員総選挙の投票日が、今週末10月31日に迫っています。   与党で過半数を獲得できるのかが注目されていますが、わたしが毎回気になっているのは投票率です。今回は、どれくらい“上がる”のかを、いつも期待して見ているのですが、なかなか爆上がりはしませんね……。 ちなみに、2017年10月に行われた第48回衆議院議員総選挙の投票率は、53.68%でした。 『コロナ時代の選挙漫遊記』の著者であり、フリーライターの畠山理仁さんは、選挙に行かないことに対して、こう語っています。 “選挙に行かないことは、決して格好いいことではない。” 全国15の選挙を取材したルポルタージュ『コロナ時代の選挙漫遊記』を読むと、なるほど、こんなエキサイティングな「大会」に積極的に参加しないのはもったいないことがよく分かります。 ☆☆☆☆☆ 『コロナ時代の選挙漫遊記』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 昨年行われた東京都知事選で、「スーパークレイジー君」という党があったのをご存じでしょうか? またオモシロ系が出てきたのかしら……と、スルーしてしまったのですけれど、本を読んで、とても真剣に勝負していたことを知りました。300万円もの供託金を払ってまで挑戦するんですもん。そりゃそうですよね。 この方の演説を、生で見てみたかった。もったいないことをしてしまった。 こんな風に後悔しないで済むように、畠...