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『生贄探し 暴走する脳』#695


人間の脳は他人に「正義」の制裁を加えることに、喜びを感じる。

こうして言葉にされると「え……」と言いたくなってしまいます。でも、スポーツイベントや災害、政治的イシューなどに対して一体感が強まっていると、「和」を乱す人を一方的に攻撃する行為が発生するのも事実です。

「誰かが得すると自分は損した気になる」ことも、「集団にとって都合の悪い個体を排除する」ことも、脳の働きなのだそう。

人間の仕組みにとらわれ、制裁の快感に飲み込まれる前に、一度立ち止まって考えてみませんか?という本が、『生贄探し 暴走する脳』。脳科学者の中野信子さんと、マンガ家のヤマザキマリさんの対談です。

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人間の脳の働きについては、中野信子さんの『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』に詳しいです。

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『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』
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そして、異質なモノを受け入れる生き方については、ヤマザキマリさんの『たちどまって考える』が参考になります。

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『たちどまって考える』
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どちらも新書なので、サラッと読めますが、2冊も読むのはちょっと……という方におすすめなのが、『生贄探し 暴走する脳』。内容がギュギュッとつまっています。

『テルマエ・ロマエ』や『プリニウス 』など、ローマを舞台にしたマンガを描いてこられたヤマザキさんからは、ローマにおける毒親の話や、異文化の受け入れについての話が。これを聞いた中野さんが脳科学的に分析をしています。

ちょっと胸が痛くなるのが、暴君と呼ばれた皇帝ネロの話。ネロの母は完全に支配型の人だったそうで、「よかれと思って」ネロにすることが、すべて自分自身を満足させる方向に向かっていたのだとか。

こうした誰かのための「正義」に酔ってしまうと、痛みを訴える声は、ズルをするための言い訳に変換されてしまうとのこと。

「正義」という概念は、近代に西洋から輸入されたものです。

「正義」って、ヒーローモノによくある「正義の味方」という「弱い者を守る存在」な感覚があったんですけど、どうも違うようで。もともとは、「感情ではなく、作られた法・ルールによって問題を解決すること」を意味していたそうです。

だけど現代では、ずいぶんと恣意的な「正義」がまかり通っているのではないでしょうか。

ヤマザキさんは、同調圧力や私的な正義を振り回さないためにも、生き方の多様性を知ることを勧めています。

“相手に自分を理解してもらうことより、自分が未知の相手を知って理解することに真の充足を覚えられる人、かな。”

他人同士が、完全に分かり合うなんて幻想にすぎません。脳が人と比べてしまうのは、そういうものなのだとしても、自分を充すモノを自分で見つければいい。そうしてこそ、幸せを感じることができるのかも。

「違う」ことを恐れずにいたいと思ったのでした。

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