スキップしてメイン コンテンツに移動

『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』#706


お笑いの世界は、異種格闘技だった……!

欽ちゃん、ドリフから、さんまさん、とんねるずへ。そしてダウンタウンやナインティナインから「第7世代」と呼ばれる人たちへ。

芸人とテレビの関係性の変化に注目し、各世代の特徴を論じたラリー遠田さんの『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』は、芸人世界の熾烈な闘いの歴史がつまった一冊です。

☆☆☆☆☆

『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』
https://amzn.to/3gv3UiQ

☆☆☆☆☆

わたしにとっての「お笑い番組」は、いわゆる「しゃべくり漫才」であり、落語でした。関西では日曜日の昼間に漫才や落語の番組、そして吉本新喜劇が放送されていたからです。

上京してすぐの頃、江戸前の落語を聞いてみたくて出かけたことがあります。よりによって、立川談志師匠の独演会でした。

地方出身者にとって、たぶん東京在住の人の100倍くらいに感じられる江戸弁の迫力。たたみかけるように放たれる言葉に震え上がりました。わたしの江戸前落語デビューは、ほぼ聞き取れない&怖い×怖い×怖いとなったのでした。

関東の人だって、西の方の言葉を聞くと怖く感じることがあるらしいですが、それでも「関西弁」が受け入れられるようになったのは、さんまさんの功績が大きいといわれています。つまり、テレビの影響。

日本でテレビ放送が始まった1953年から、多くの芸人が「テレビの笑い」を追求してきました。

本では、芸人が生まれた年代によって世代を7つに区切り、それぞれの世代の特徴をみています。

・第一世代:1931~1946年生まれ → いかりや長介と萩本欽一
・第二世代:1947~1960年生まれ → ビートたけしと明石家さんま
・第三世代:1961~1970年生まれ → とんねるずとダウンタウン
・第四世代・第五世代:1971~1976年生まれ → スター不在
・第六世代:1977~1988年生まれ → 谷間の世代
・第七世代:1989年以降の生まれ → デジタルネイティブ世代

演芸場の舞台を知る第二世代までと、「師匠」を持たない芸人である第三世代以降との違い。そして、「お笑い」以外のスキルを打ち出していった第六世代以降の、ある意味「自由」な雰囲気。これらは俗に言う「世代論」とも、マッチしているように思います。

たぶんわたしは第六世代くらいの人が活躍し始めた頃から、テレビを観なくなりました。

異種格闘技としてテレビに参入した芸人たちの、熾烈な「笑い」を追求する姿勢から、ヒエラルキーが見え隠れする「楽屋ネタ」的なトークについていけなくなったから。そして、「いじり芸」を「芸」と感じられなかったから。

「芸人は人前で努力を見せるものではない」と言われてきたと語るケンドーコバヤシさんは、“舞台裏”をみせることにも抵抗があるそうで、この感覚はわたしも同じかもと思います。


コンビの仲の良さはもちろん、コンビ同士でさえ仲間意識を持っているいま。テレビという場は憧れでさえなくなりました。それだけ成熟したといえるのかもしれないし、「むかしはよかった……」と言うつもりはないけれど。

いかりや長介が、欽ちゃんが、自らの弱点を「テレビの芸」へと進化させていった歴史を見ると、小粒感は否めません。

お笑い評論家であるラリー遠田さんは、第七世代の活躍に対して、自分が「置いていかれる側」になりつつあると語っています。わたしもすっかり「置いていかれた」なと思う。そのことを寂しいと思わないことが、ちょっと寂しいかな。お笑い好きとしては。

あとひとつ。

「テレビの芸」は、関西弁を受け入れるのに役立ったかもしれませんが、一方で地方の言葉を標準化してしまったようにも思います。お笑いと言葉の関係についても、いつか書いていただけたらうれしい!

関連書籍として、ナイツの塙宣之さんの著書『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』があります。こちらはM-1という舞台における「表現手法」の変化について語った本。分析が緻密で、お笑いの見方が変わりますよ。

☆☆☆☆☆

『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』
https://amzn.to/3q3oeuN

☆☆☆☆☆

コメント

このブログの人気の投稿

映画「新しき世界」#293

「アメリカに“ハリウッド”があるように、韓国には“忠武路”という町があります」 第92回アカデミー賞で 「パラサイト 半地下の家族」 が脚本賞を受賞した時、ポン・ジュノ監督と共同で脚本にあたったハン・ジュヌォンは、そう挨拶していました。「この栄光を“忠武路”(チュンムノ)の仲間たちと分かち合いたい」。泣けるなー! ハン・ジュヌォンのスピーチ(1:50くらいから) アメリカにハリウッドがあるように、韓国には忠武路というところがあります。わたしはこの栄光を忠武路の仲間たちと分かち合いたいと思います。ありがとう! #アカデミー賞 https://t.co/LLK7rUPTDI — mame3@韓国映画ファン (@yymame33) February 10, 2020 1955年に「大韓劇場」という大規模映画館ができたことをきっかけに、映画会社が多く集まり、“忠武路”(チュンムノ)は映画の町と呼ばれるようになりました。 一夜にしてスターに躍り出る人や、その浮き沈みも見つめてきた町です。 リュ・スンワン監督×ファン・ジョンミンの映画「生き残るための3つの取引」での脚本が評価されたパク・フンジョン。韓国最大の映画の祭典で、最も権威のある映画賞である「青龍映画賞」で、彼自身は脚本賞を受賞。映画も作品賞を受賞し、一躍“忠武路”の注目を浴びることに。 そうして、自らメガホンを取った作品が「新しき世界」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「新しき世界」 Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 韓国最大の犯罪組織のトップが事故死し、跡目争いに突入。組織のナンバー2であるチョン・チョンは、部下のジャソンに全幅の信頼を寄せていますが、彼は組織に潜入した警察官でした。この機会にスパイ生活を止めたいと願い出ますが、上司のカン課長の返事はNO。組織壊滅を狙った「新世界」作戦を命じられ……。 あらすじを読んでお分かりのように、思いっきり「ゴッドファーザー」と「インファナル・アフェア」のミックスジュース特盛り「仁義なき戦い」スパイス風味入りです。 無節操といえばそうですけれど、名作のオマージュはヘタをすると二番煎じの域を出なくなっちゃうと思うんです。よいところが薄まっちゃうというか。人気作の続編が、「あれれ?」となるのもそうですよね。ですが。 名作と名作を合わせたら、一大名作が...

『JAGAE 織田信長伝奇行』#725

歴史に「if」はないというけれど。 現代にまで伝わっている逸話と逸話の間を、想像の力で埋めるのは、歴史小説の醍醐味かもしれません。 『陰陽師』 の夢枕獏さんの新刊『JAGAE 織田信長伝奇行』は、主人公が織田信長です。 旧臣が残した『信長公記』や、宣教師の書いた『日本史』などから、人間・信長の姿を形にした小説。もちろん、闇が闇としてあった時代の“妖しいもの”も登場。夢枕版信長という人物の求心力に、虜になりました。 ☆☆☆☆☆ 『JAGAE 織田信長伝奇行』 https://amzn.to/2SNz4ZI ☆☆☆☆☆ 信長といえば、気性が荒く、残忍で、情け容赦ないイメージがありました。眞邊明人さんの『もしも徳川家康が総理大臣になったら』には、経済産業大臣として織田信長が登場します。首相である家康を牽制しつつ、イノベーターらしい発想で万博を企画したりなんかしていました。 『もしも徳川家康が総理大臣になったら』#687   『JAGAE』は、信長が14歳の少年時代から始まります。不思議な術をつかう男・飛び加藤との出会いのシーンが、また鮮烈なんです。人質としてやって来た徳川家康をイジる様子、子分となった秀吉との出会いなどなど。 信長のもとに常に漂う、血の臭い……。 これに引きつけられるのは、蚊だけではないのかも。 おもしろいのは、一度も合戦シーンが出てこないことです。信長のとった戦術・戦略は、実は極めてオーソドックスなものだったそう。そこで戦よりも、合理主義者としての人物像を描いているのではないか、と思います。 小説の基になっている『信長公記』は、旧臣の太田牛一が書いた信長の一代記です。相撲大会を好んで開催していたことなどが残っているそうで、史料としての信頼も高いと評価されているもの。 そんな逸話の間を想像で埋めていくのです。なんといっても、夢枕獏さんの小説だから。闇が闇としてあった時代の“妖しいもの”が楽しみなんです。 タイトルになっている「JAGAE」とは、「蛇替え」と書き、池の水をかき出して蛇を捕えることを指しています。 なんだかテレビ番組になりそうな話なんですけど、実際に領民が「大蛇を見た~」と騒いでいたことを耳にした信長が、当の池に出張っていって捜索したという記録が残っているのです。 民衆を安心させるための行動ともいえますが、それよりも「未知なるもの」への...

キャラクター名“画数グランプリ” 優勝したのは!?「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」 #515

劇場版「鬼滅の刃」が話題ですね。 校閲ガールであるわたしにとって、気になるのはストーリーでも、煉󠄁獄さんのかっこよさでも、興行収入でもありません。 漢字が多すぎ!!! ってことです。 たぶん、すべての校閲ガールや校閲ボーイは、トラウマとなる漢字を持っています。変換ミスや同音異義語を見落とした経験を持っているから……。一度やってしまうと、その漢字を見ただけで「ヒッ!」となります。特に画数の多い漢字はつらいんです。 なのに、 「鬼滅の刃」の登場人物は、全員画数多過ぎでしょ!!! 劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編公式サイト 「その刃で、悪夢を断ち斬れ」劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編 絶賛公開中!   主人公は竈門炭治郎。その妹は禰豆子。鬼殺隊仲間は、我妻善逸、嘴平伊之助。「鬼殺隊」という名前からすでに怖そうですよね……。ちなみに一度で変換できなくて、「おに」「ころし」「たいちょう」と入力したので、あの日本酒を思い出しました。 清洲城信長 鬼ころしパックが【全国燗酒コンテスト2020】お値打ち熱燗部門 金賞受賞(2年連続受賞)   そんな「鬼殺隊」最強の剣士・煉󠄁獄杏寿郎さんはやはり、漢字の難しさも最高レベル。さすがは炎の呼吸を使う炎柱です。たぶん「隊長」みたいな役職の人です。 今回の映画の敵は魘夢と猗窩座というヤツで、これまで炭治郎たちが戦ってきた鬼よりはるかに強いヤツらしい。文字だけ見ても強そうですもんね。その鬼を束ねている悪の総帥が鬼舞辻無惨。 読み方分かりませんね……? 手書きできませんね……? 「鬼滅の刃」漢字検定1級をとれたらすごいと思います。このアニメとのコラボグッズは、校正するの、大変そう……。 そこで、緊急企画 「画数グランプリ」を開催 したいと思います! 「漢字辞典online」というサイトにて、各キャラクターの名前の画数を確認してみました。 kanji.jitenon.jp 「竈」という漢字を検索すると、こんな感じで表示されます。 この「画数」を足し上げていくのです。さて、優勝したのは!? (表記は公式サイトを基にしています) * * * 第3位:鬼舞辻無惨 54画 第2位:竈門炭治郎 55画 僅差です! 「魘夢」なんて、「魘」だけで24画もありました。これはぶっちぎるのでは……と思いきや、2文字という名前が仇に。けっこうしぶとい強...