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『「%」が分からない大学生 日本の数学教育の致命的欠陥』#709


算数が苦手です。

子どものころに理解しようという努力をしなかったのもありますが、とにかく好きになれなかったんですよね。

あまりのできなさに呆れた上司から、「お前に理解しろとは言わない」と言われる始末。幸い、周りには必ず算数が得意な人がいて、計算をしなければならない時は、全部お任せでやり過ごしてきました。

なのに、今さら算数に苦しめられるなんて……。

わたしは勤め先の会社で社内研修を担当しています。昨年からのテーマは「数字力の強化」。一番やりたくないことに手を付けなければならなくなった悲劇よ。チョコが手放せない。

元はといえば、原稿を読んでいて、「算数おかしくない?」ということが続いたからです。発狂したくなるほど愉快なグラフ、母数のそろっていない割合の計算などなど、算数が苦手なわたしが見ても、「これってやばいのでは」という状況でした。

わたし自身、計算はできないけど、「校正原稿を読んでいる時はおかしいことに気が付く」というポンコツなレベルなので、どこで気が付くんだろう、どこが分からないんだろうを探りつつ、昨年から何度かに分けて「数字を使わない算数講座」を実施してきました。

そして気付いたこと。

・割合と平均(比も)の違いが分からない人が一定数いる

・割合の足し算(引き算も)が分からない人が一定数いる

・日本語と計算式の行き来ができない人が一定数いる

たぶん、これらが一番大きなネックのようです。

わたしが算数を苦手と感じるようになったのは、中学1年生の時のこと。当時の数学の先生が苦手だったからです。続く2年生の時の先生も、ドラムのバチのような棒を振り回している先生だったため、勉強しようという努力をキッパリ止めました。

研修の講師をしてくれた後輩からは、「なんでこれを知らないんですかー!?」と何度も言われましたんですよね。だって、知らないことが多い・習ったのがはるか昔のこと過ぎて覚えていないせいだと思われます。言い訳です。

でも、大学を卒業して数年のメンバーたちが、これほど苦手だとは……。念のために付け加えておくと、みんなそれぞれすばらしい大学を卒業している人たちです。

小学生用の算数ドリルを買ってきて、分からない問題の型を探しつつ、どういう研修ができるだろうと調べていた時、桜美林大学で数学教育をされている芳沢光雄さんの『「%」が分からない大学生 日本の数学教育の致命的欠陥』を読みました。

いま、課題に感じていること、そのままやった……という衝撃の内容です。

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『「%」が分からない大学生 日本の数学教育の致命的欠陥』
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3年ほど前、教科書を読めない人が増えているのでは、という記事が話題になりました。


記事にあるリーディング・スキル・テストを実施してきたのが、国立情報学研究所の新井紀子教授。著書の『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』でも、「読解力」こそがAIに負けない人間をつくるとされています。

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新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』
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「読解力」の問題は、たぶん「日本語と計算式の行き来ができない」にも共通しているように思います。そして、『「%」が分からない大学生』で主に紹介されているのは、「割合が分からない」問題の方。

税抜き1000円の本の、税込み価格はいくらでしょうか?

たぶん、この問題に迷う人はいないでしょう。

1000×1.1=1100

と、わたしでも計算できます。

では、こちらならどうでしょうか?

税込み1000円の本の、税抜き価格はいくらでしょうか?

なにをどう掛けて、どう割ったらいいのか、一瞬で判断できない人が多いんですよね。棚の上に上がりたくなるけど、わたしもそうです。

芳沢先生曰く、「元にする量」と「比べられる量」の構造が理解できていないからだそう。そして、割合の問題に続いて理解が怪しいのが「移項」とのこと。「移項」とは、左辺にある「×1.1」を右辺に移すと「÷1.1」になるという計算のことです。

小学校では「は・じ・き」と、式を視覚化して教えるやり方があるそうで、この「やり方」だけを覚えてしまうことが問題のひとつならしい。

わたしが小学生だった時に、そんなものはなかった……。たぶん。

「移項ってなに?」状態のわたしに、後輩が教えてくれたのは「み・は・じ」でしたが、考え方は同じです。


数学は一歩ずつのプロセスを大切にする教科だと、芳沢先生は本で力説されています。分からなければすぐ答えを見る、概念を理解しないままとりあえず「やり方」だけ覚える、そんなことをしていては、答えを当てるクイズ番組と変わらない。

「ゆとり教育」の実施以降、時間が足りなくなった教育現場では、とにかく答えを当てることが優先されてしまったのではないか、と指摘されています。

人間は間違えることのある生き物です。だからこそ、プロセスを見直して、間違いを見つける力が必要。基礎の算数からは逃れられないのです。

芳沢先生が数学を深く学んでみようと思ったきっかけが、「15ゲーム」というスライドパズルだそう。「数学ベル」というサイトで無料公開されています。


いや、正直言うとですね。このパズルのおもしろさが分からないのですよね……。まず、算数が好きになれる方法が知りたい。








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