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『三体』#743


現代中国最大のヒット作と呼ばれる小説が、劉慈欣さんの『三体』です。

おもしろいと噂に聞いていたものの、分厚さにひるんでいました。だって第1巻は1冊ですが、第2巻の『三体II 黒暗森林』と第3巻の『三体III 死神永生』は上下巻なんです。この沼に落ちたら、寝不足必至やな……。

そう思っていたので、なかなか手が出なかったのに。考え事をしていて眠れなくなった夜、ついにページを開いてしまいました。

この展開だと、夢中になって朝まで読んだ、となりそうでしょう?

いやー、訳が分からなくて。SF小説という程度しか知らなかったから、父親が無残に処刑される冒頭シーンから、殴られたような衝撃を受けました。

SF的展開は、いったいいつから始まるの?

そうして1巻を読み続け……。半分を過ぎた頃、やっと! やっと! おもしろくなってまいりました。「スケールが大きい」と言われる意味も、やっと分かった。大きすぎて全体像をつかむことができなかったんですね。たぶん。

☆☆☆☆☆

『三体』
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<あらすじ>
1967年、文化大革命の粛正によって、物理学者の父を惨殺された少女・葉文潔。反乱分子の扱いを受けてきた文潔は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える軍事基地で仕事をすることに。 数十年後、ナノテク素材の研究者・汪淼は、ある会議で世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。謎の学術団体「科学フロンティア」への潜入を引き受けるが、怪現象に襲われてパニックに。知り合いの科学者に教わったVRゲーム「三体」にログインした汪淼は、三つの太陽を持つ世界を体験することになり……。


1966年から1976年まで続いた文化大革命は、知識人、旧地主の子孫などを「反革命分子」とし、迫害した政治闘争です。

エリート教育を完全否定したことに加えて、「知識青年上山下郷運動」が展開されたことで、都会の知識人ほど、辺鄙な村に送られることになったのだそう。

小説の冒頭で行われる暴行シーンも、めちゃくちゃリアルです。実在の知識人の名前も登場するので、どこまでが史実で、どこからが創作なのかと思ってしまいます。

SF小説と聞いていたけど、歴史小説だったのかしら……と感じるころ、物語は現代へ。主人公はエリート科学者の汪淼です。

怪現象に襲われ、エラそうな刑事につきまとわれ、殺人事件に遭遇し。謎の端緒も開かないうちに、振り回されているんです。ようやくVRゲーム「三体」へとたどり着くのですが。

わたしにとって「ゲーム」って、ファイナルファンタジーとか、ドラクエとか、「敵と戦う」ものだったんですよね。もしくはテトリスやキャンディクラッシュみたいなパズル系。

でも。

VRゲーム「三体」がまた、知能指数高めのゲームなんです。ガリレオやアリストテレス、古代中国の殷の王様・紂王たちが出てきて、科学的な会話を交わす、というもの。

なんといっても、ユーザーは「なにとも戦わない」のです!!

舞台は、太陽が三つもあるという世界。ログインする時によって、太陽がいっさい昇らない闇の時代だったり、太陽がいっせいに昇ってみんな蒸発してしまったり。

何度文明を築いても、滅びてしまう……。そんな「三体」世界が本当に存在していて、異星人とのファーストコンタクトがベースにあった、というお話。

やっと世界が見えてきたのですが、物語としては、まだまだ序盤です。たぶん。

なるほど、スケールがでっかくて、おもしろい。でも、長い。笑

ゲームの「三体」は、人類の歴史を借りて三体世界の発展をシミュレートできるように設計されたものらしいのですが。そもそもの事件の発端が、文化大革命にあるのです。

中国は、この時代のことを語れるようになったのか。

そんな思いもちょっと浮かんでしまいます。そして、科学の基礎研究をとてもとても大切にしているということ。これは、日本もそうあるべきなのかもしれません。

アジア圏初のヒューゴー賞受賞といわれても、ピンときてなかったけど。これは、おもしろいですよ。流れに乗るまでに、富士山を3回くらい登らないといけない感じだけど。

SF好きな人はもちろん、宇宙好きな人にもおすすめです。

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