狂気と絶望を演じさせたら、この人の右に出る人はいない!
「おっちゃん」の俳優層が厚い韓国演劇界の中でも、ソル・ギョングの演じるキャラクターはホントにぶっ飛んでいます。
「ペパーミント・キャンディー」の純朴さ、「オアシス」の不器用さ、「殺人者の記憶法」の凄みなどなど、どの映画に出演しても“爪痕”を残してくれる。とにかく大好きな俳優で、「オレの辞書にライフハックなんて文字はないぜ」って感じの人です。
(画像はKMDbより)
そんなソル・ギョングが、人気ニュース番組の看板キャスターという、ある意味“正しい善人”を演じたとあって、観る前はビビってしまった映画「あいつの声」。
いやいや、こんなキョーレツに痛みをねじ込まれる役を演じきれるのは、やっぱりソル・ギョングしかいなかった。上の画像と同じ人には見えないですよね……。
(画像はKMDbより)
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映画「あいつの声」
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夜9時台のニュース番組を預かるハン・ギョンベは、政界入りも目指す人気キャスター。ある日、ひとり息子を誘拐され、犯人から身代金1億ウォンを要求する電話がかかってくる。犯人に翻弄され、耐えかねた妻が警察に連絡するが、一向に容疑者はみつからない。電話から聴こえる声だけを頼りに捜査が進められるが……。
フィクションを、ドキュメンタリー映像のように見せかけて演出する表現手法を“モキュメンタリー”と呼ぶそうです。擬似を意味する“モック”と、“ドキュメンタリー”の合成語ならしい。
実際に起きた事件の映画化という点で、昨日ご紹介したイ・ギュマン監督の「カエル少年失踪殺人事件」や「あいつの声」は、どちらも“モキュメンタリー”映画です。
NHKの再現ドラマのように、ファクトベースで描いているのが「カエル少年失踪殺人事件」、キャラクターの設定を変えて劇画っぽく仕上げているのが「あいつの声」といえるかも。
ソル・キョングが演じた「父役」の「人気キャスター」という設定は、ラストシーンにつなげるためのものだったとのこと。
パク・ジンピョ監督は、この事件を初めてテレビで取り上げた番組のPDをしていました。そこで直接取材した情報を基に、脚本を組み上げています。「あいつの声」の前作「ユア・マイ・サンシャイン」とはテーマが違うけど、実在の出来事を劇映画にする手腕は確かなものがありますね。
とはいえ、映画では警察のどんくさい捜査が、犯人を特定できなかった要因のように描かれていて、その人間くささに笑いを誘われてしまいます。
で、気が付くのが、ポン・ジュノ監督の「殺人の追憶」との違いです。
事件が起きた1991年は、盧泰愚大統領によって、それまでの強引な捜査方法への改革が進められていた時期。「殺人の追憶」で、ソン・ガンホがやっていたような“暴力的”な尋問から、科学捜査へと切り替わる過程だったようなんです。
まー、口では科学捜査といいながら、使いこなす技術はないんだから、つらい。結局、犯人が逮捕されないまま、2006年1月に時効を迎えました。
44日間、脅迫電話に苦しめられ、疲弊していく夫婦をソル・ギョングとキム・ナムジュが演じています。
(画像はKMDbより)
そして、映画のタイトルにある「あいつ=犯人」を、カン・ドンウォンが演じています。
(画像はKMDbより)
カン・ドンウォンって、単独で主演をはれるほどの俳優で、「新感染半島 ファイナル・ステージ」でも強烈なアクションを披露していたほどなのに。
顔を見せずに、声だけの出演だなんて!!!
しかも、「あいつ=犯人」の声がめっちゃムカつくんですよ。そして、夫婦と警察の信頼関係を壊していく。
ソル・ギョングが、人気キャスターという“正しい善人”ではいられなくなったシーンには、思わずグウゥゥッとなりました。
やり場のない怒りのこみ上げてくるストーリー。ソル・ギョングの怪演、キム・ナムジュの狂乱、カン・ドンウォンの偏執さが光る映画です。
いまAmazonプライムで配信されているので、ぜひ。
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映画「あいつの声」Amazonプライムで配信中
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映画「あいつの声」122分(2007年)
監督:パク・ジンピョ
脚本:パク・ジンピョ
出演:ソル・ギョング、キム・ナムジュ、カン・ドンウォン
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