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もはや“ゾンビ映画”じゃない!? 映画「新 感染半島 ファイナル・ステージ」 #540


人間というのは、慣れていく生き物なのだなと思います。

ステイホームから続く、オンラインでのミーティングや仕事の進行も、最初こそ不便でしたが、いまはこれが“当たり前”に。慣れてくると、欲しくなるのはやっぱり娯楽であり、刺激です。

韓国映画初の大型ゾンビ映画「新 感染 ファイナル・エクスプレス」の4年後の世界を描いた「新 感染半島 ファイナル・ステージ」では、ゾンビを使ったエンタテイメントが登場。謎のパニックから逃げ惑うしかなかった前作から大きく発展し、ゾンビと共に生きる人々が、娯楽としてゾンビを使うようになっていました。

人間の残酷さをみせつける舞台は、ディストピアと化したソウルの街です。

☆☆☆☆☆

映画「新 感染半島 ファイナル・ステージ」

公式サイト
https://gaga.ne.jp/shin-kansen-hantou/

DVD


Amazonプライム

☆☆☆☆☆

<あらすじ>
人間を凶暴化させる謎のウイルスが半島を襲ってから4年後。香港に脱出た元軍人のジョンソクは、大金が積まれたトラックを回収する任務を請け負うことに。トラックを見つけ、任務は順調かに思われたが、民兵集団によりトラックを奪われてしまう。ゾンビに襲われたところを、ミンジョン母娘に救われ……。


前作に引き続き、メガホンをとったヨン・サンホ監督。脚本も自ら練り上げ、CGを多用した迫力ある映像を作り上げています。

「新 感染 ファイナル・エクスプレス」は、カンヌ国際映画祭ミッドナイト・スクリーニング部門に特別招待作品として出品され、大絶賛を受けました。日本でもヒットし、コン・ユやマ・ドンソクは一躍有名に。


この時は、「高速列車」という密室の中でゾンビが発生したため、逃げ惑う人間同士の対立の中に、社会の矛盾が写し出されていてアイロニーを感じたんですよね。

たとえ身内でも、愛する人でも、見捨てるしかない。「情けは禁物」。

それがオトナの論理だったわけですが。列車はもともと「釜山」に向かっていたので、「釜山」に着いたとしてもそこが安全かどうかは不明。映画自体はゾンビパニックが解決しないまま終わります。

そして4年後。

韓国は人の住める場所ではなくなり、廃墟となっていました。ここは『北斗の拳』か「マッドマックス」かと思うようなディストピアなのです。実際、ヨン・サンホ監督は、ジョージ・ミラーの「マッドマックス」シリーズに影響を受けたと語っています。

(画像はIMDbより)


カン・ドンウォン演じるジョンソクは、任務のために、ゾンビが蠢く韓国に上陸。トラックを探し当てたとたん、愚連隊にハメられてしまいます。窮地に陥ったジョンソクを救ったのは、ジュニという少女。

四方八方から迫るゾンビ。一刻も早く出発しないとヤバいのに。ジュニったら「カッチン」とシートベルトをしているんです。

……マジすか!? この期に及んで、ポリコレ?

「CM上の演出です」なんて字幕が出てきたらどうしようと思う展開だったのですが。

映画「ワイルド・スピード」を彷彿させる、超絶技巧のドライビングテクニック! いや、わたしが悪かった。シートベルトはした方がいいです。 

(画像はIMDbより)


大迫力のカーチェイスにおいて、もはやゾンビなんて、ゴジラがふみ潰すビルのカケラ程度でしかない。

そう。「新 感染半島」は、もはや「ゾンビ映画」ではなかった!!

光と音である程度ゾンビを操れるほど、ゾンビとの生活に“慣れた”人間たち。街の主な“住民”はゾンビなので、生産活動が行われず、脱出に失敗した人々は、残った食糧を奪い合う状況なんです。

平和な暮らしを知っている者にとっては、そこは未来も希望もない、絶望の地でしかない。でも、この街しか知らない子どもにとっては、それが“普通”なんですよね。

しかも家族と一緒に暮らせるんだから、もしかしたら幸せだったのかもしれない。カーチェイスや肉弾戦、銃撃戦とアクションシーンも満載ですが、前作よりもヒューマンドラマな映画になっています。

昨年の春以降、気軽に人と会えない生活になって、不便を感じつつも慣れてきたいま。

この映画のラストは、つらい。泣いた……!!!

いまの状況を見透かしたようなヨン・サンホ監督の脚本。プレッシャーの中、これだけの映画を作ってしまうんだから。すごいよ、この方は。

現在、Netflixでも配信されています。

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映画「新 感染半島 ファイナル・ステージ」
Netflix
https://www.netflix.com/title/81295067

☆☆☆☆☆


映画「新 感染半島 ファイナル・ステージ」116分(2020年)
監督:ヨン・サンホ
脚本:パク・ジュソク、ヨン・サンホ
出演:カン・ドンウォン、イ・ジョンヒョン、キム・ドユン、クォン・ヘヒョ、イ・レ、キム・ミンジェ

コメント

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