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『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』#795


小説を読んでいて、「すげーー!!!」と思うものの、じゃあいったい、何がすごいのかを説明できないことってありませんか?

瀕死状態のメガネチェーン店「オンデーズ」を再生させた物語として、絶賛されていた田中修治さんの『破天荒フェニックス』なんて、まさにそれでした。

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『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』

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田中さんが買収を決めた2008年1月時点の、オンデーズの財務状況がこれ。

年間売上:20億円

負債:14億円

営業利益:▲2.4億円(毎月2,000万円の赤字)

月の返済額:8000万~1億円

店舗数:国内60店弱 直営7:FC3の割合


小説は、田中さんが正式に社長に就任し、そこから幾度となく訪れる倒産危機を乗り越え、銀行取引正常化を達成するまでの物語です。

社長就任当時の田中さんは、30歳。ミュージシャン“志望”から、デザイン会社を経営するようになり、オンデーズ再生に名乗りを上げたのですが。

口癖は、「倒れる時は前向きにだ! ハハハ」。こわいよ。

田中さんを支えるため、コンサル会社からオンデーズにCFOとして合流したのが、奥野さん。小説においては「影の主役」です。

口癖は、「資金が足りません!!!」。どんなだ。

なにしろ借金が多いので、銀行から新規の借り入れができない状態なのにもかかわらず、田中社長は、新規店舗を出すわ、雑貨チェーンを買収するわ、海外進出するわで、奥野さんは気の休まるヒマがないんです。

「1千万の資金がショートします!」

「1億円の資金がショートします!」

毎度お決まりのような奥野さんの叫びが聞こえる……というストーリーです。


で、この小説のタイトルにある「破天荒」って、どういう意味なんですかね?


「破天荒」とは、誰もなしえなかったことを初めてすることという意味です。誰もなしえなかった=オンデーズの再生って、なんでそんなにムリゲーだったんだろう。

この疑問を中心にして、会社のCFOに解説してもらう研修をおこないました。

わたしは、オンデーズの会社としての方向性が固まり、チーム力がアップしていく東日本大震災のボランティアのシーンが好きだったのですが、さすがに今回の研修ではスルー。

「債務超過に陥った場合、資金の流出を止めるには?」といった比較的簡単な質問から、小説を紐解いていくんです。

基本的には、

① 収入を増やす

② 支出を減らす

この二択なんだそう。田中社長の場合、①の作戦をとったことは理解できる。「火事を消すなら爆弾だ」方式です。でも、その規模がケタ違いで、しかもアクセルを踏みっぱなしな戦略といえるのだそう。

そこが、「破天荒」だというのです。たぶん、小説では、最近よく使われる方の意味である「豪快で大胆な様子」も含まれているっぽい。


へーーー!!!


とはいえ、成毛眞さんが田中社長にインタビューした動画では、「こんな大変だったらやらなきゃよかった…」と語っておられます。そりゃー生きた心地がしなかっただろうなー。


上の財務状況や決算書類を読む時のポイントも教えてもらいました。

「全部の数字を読もうとしないこと!」

だそう。

小説では、数字のロジックよりも、田中社長の情熱が周囲を動かしていったように見えます。けど。夢だけでは経営はできない。やりたいことがあるなら、やっぱりファイナンスの知識が必要だよなと感じられる小説です。もしくは、奥野さんみたいな方に側にいてもらうかですね。


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