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映画「リスペクト」#865


神の歌声に秘められた、大きすぎる痛みに泣いた。

ソウルの女王と呼ばれ、アメリカのローリング・ストーン誌が選ぶ「史上最も偉大な100人のシンガー」の第1位に選ばれたアレサ・フランクリン。2009年1月20日、オバマ大統領の就任式で「My Country, 'Tis of Thee」を披露した方です。



彼女の半生を映画化するにあたり、アレサ本人の指名を受けたのは、ジェニファー・ハドソン。

いやー、これ以上のキャスティングはなかったかも。

映画「リスペクト」は、アレサの子ども時代から歌手として成功した後の、アルコール依存症と家庭内暴力というどん底状態を経て、伝説のステージで「アメイジング・グレイス」を歌い上げるまでを描いています。

☆☆☆☆☆

映画「リスペクト」

https://gaga.ne.jp/respect/

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アレサは、お父さんが有名な牧師で、公民権運動のリーダーだったため、マーティン・ルーサー・キング牧師とも親しく付き合い、自宅にはダイナ・ワシントンやサム・クックがゲストとしてやってくるような環境で育っています。

子どものころから天才シンガーとして注目され、16歳でレコードデビュー。最初の頃は鳴かず飛ばずで、父が力を入れる公民権運動の資金集めに利用されているのでは、という疑いもありつつ逆らえない。

全力で歌い、プレッシャーを引き受け、ダークサイドと闘い続けているのは自分なのに、契約などの重要なシーンでは、男同士で握手が交わされる。支配的な父の下で、アレサはお人形のように無垢な表情を浮かべています。

(画像は映画.comより)


アレサの人生の辛いところは、二重の支配を受けてきたところです。

「Black」として社会的に差別され、女性として男たちよりも下に置かれる。父も、アレサの最初の夫となったテッドも、まったくアレサの意志に耳を傾けることがない。

歌と暴力、歌手仲間であり、家族であるはずの姉妹との不和。そこからアルコールが手放せなくなったアレサは、救いを求めて自らの“ホーム”である、教会を訪れます。

自分を取り戻し、震えながら上った舞台の様子は、「アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン」として映像化されています。

1972年1月にロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で行われたライブ映像で、こちらはAmazonプライムで配信されているので、ぜひ。

(画像リンクです)


予告編の動画もありました。


アレサが1967年に発表した「Respect」は、彼女にとって初の全米No.1ヒットとなった曲です。

夜中に3姉妹でノリノリで作り上げたこの曲は、彼女を「ソウルの女王」に押し上げた曲。時代はビートルズの「All You Need Is Love」が流行っていた頃です。字幕に出る歌詞にガツンとやられました。

(画像は映画.comより)

父の支配、夫の支配から抜け出したアレサは、人間として自分を取り戻し、表情もガラリと変化します。この境地にいくまでに、どれだけの痛みを抱えていたのか。そこから逃げずに踏ん張り続けたのか。

ギフトとして贈られた歌声が解放された時、震えるくらい涙しました。

偉大な人物とガチで向き合い、演じながら歌うという難しい演技をやりきったジェニファー・ハドソンにあっぱれ!!


映画「リスペクト」146分(2021年)

監督:リーズル・トミー

脚本:トレイシー・スコット・ウィルソン

出演:ジェニファー・ハドソン、フォレスト・ウィテカー、マーロン・ウェイアンズ、メアリー・J・ブライジ



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