「I’ve looked at clouds from both sides now」
両サイドから雲を見てみたの、って感じでしょうか。映画「コーダ あいのうた」の中で、主人公のルビーがオーディションで歌った曲が、まさしくこの映画を表していました。
ジョニ・ミッチェルジの「青春の光と影(Both Sides Now)」という曲です。
ルビーが歌ったバージョンがこちら。
両サイドから見てみる。
聴覚障害を持つ人と健聴者の、どちらもが「音楽を感じる」仕掛けがあって、ウルウル・ボロボロ泣きました。
☆☆☆☆☆
映画「コーダ あいのうた」
☆☆☆☆☆
海辺の町で両親と兄と暮らす高校生のルビー。家族の中でひとりだけ耳が聞こえるルビーは、幼い頃から家族の耳となり、家業の漁も毎日欠かさず手伝っていた。新学期、合唱クラブに入部したルビーの歌の才能に気づいたV先生は、音楽大学の受験を強く勧めるが、ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられずにいた。家業の方が大事だと大反対する両親に、ルビーは家族を助けることを決意するが……。
この映画は、2015年に公開されたフランス映画「エール!」のリメイクです。
酪農家から漁業一家へと設定はいろいろ変わっていますが、4人家族の中で、たったひとり健聴者がいて、その子が天才的な歌声を持っている、という設定は同じです。
ルビーは、朝早くから父と兄と一緒に漁船に乗って漁を手伝い、両親が“外部”と交渉するときには通訳を務めています。子どものころからずっと、その役回りだったので、家族にとっては「当たり前」のことでした。
でも、V先生との出会いによって、初めてやりたいことができたルビー。
家族か、自分の夢か。
思い悩む姿は、過去の自分とも重なってしまいました。
ママもパパも、いい感じに利己的なんですもん。「あなたを頼りにしてるのよ」という言葉は、あるときは承認欲求を満たす言葉になるかもしれないけれど、子どもを縛る呪文にもなります。
親の期待通りに生きなくてもいいし、親の役に立つことを優先しなくてもいい。
家族第一で生きてきたルビーの勇気が試される瞬間でした。
でも、ルビーの歌声がどんなものなのか、家族は聴くことができません。だから、ルビーの挑戦に対しても及び腰になってしまう。
実際、ルビーが学校のコンサートで舞台に立ったとき、懸命に歌うルビーを見ながら、両親は晩ごはんのメニューの話をしていました。もちろん手話で、です。
遠い世界、なんですよね。聞こえない人にとっては。
リチャード・ドレイファスが音楽教師を演じた「陽のあたる教室」には、聴覚障害を持つ息子に、音楽の楽しさを感じてもらおうとするシーンがありました。
一方で「コーダ」には、健聴者が「聞こえない」世界を体感できる仕掛けがあります。
それが、「無音」です。
わたしはバリアフリー字幕付き上映で観ていたので、字幕に「無音」と出たのですが、これがなかったら「??」となったかもしれない。
シーーーーーンとした世界で、口だけがパクパク動いている人たち。
映画の中のパパは、笑顔の人、身体でリズムを取る人、涙を浮かべる人がいることに気付き、初めてルビーの歌声を「聴く」。
映画の冒頭から、ルビーはずっと歌っているのですが、パパと兄は聞こえないので知らんぷりなんですよね。そしてようやくルビーの才能に気付き、最後には「両サイド」が融合し、一緒にひとつの曲を味わえるシーンが待っています。
このステップが、とてもよかった。
ここ数年のハリウッドでは、マイノリティの役は当事者の俳優が演じる流れがあるそうで、今回の映画でも、パパ役・ママ役・お兄ちゃん役は、実際に耳の聞こえない俳優が演じています。
「多様性」とか、「インクルージョン」とか言われながら、なんとなく「壁」が透明化しているだけなのではないかと感じていた昨今。
「両サイドから見てみる」映画に出合えたのは、本当によかったです。
タイトルの「コーダ(CODA)」とは「Children of Deaf Adults=耳の聞こえない両親に育てられた子ども」という意味なのだそう。また、音楽用語で「楽曲の終わり」のことでもあり、次の章が「始まる」意味も持っているとのこと。
ルビーに「家族の犠牲になるな」と背中を押してくれたお兄ちゃんにも、第二章がありそうで、家族それぞれの自立がとても響きました。
映画を観に行ったとき、わたしの隣に座っていた二人連れの方は、手話で会話をされていました。わたしは手話ができないので、聞きたいけど聞けなかったのですが。
健聴者のわたしにとっては、「音が聞こえない」世界を体験することができる映画でした。でも、おふたりはこの映画を、どんな風に感じたんだろう?
両サイドから、同じ感動を味わえていたのならうれしいな……。
ラストシーンの手話には、翻訳がありません。たぶんこんな意味かな?と思っていた通りだった。
「愛してる」
(画像は映画.comより)
この形、めっちゃ難しい!
コメント
コメントを投稿