スキップしてメイン コンテンツに移動

『弓を引く人』#952


「わたしにとって真理であるような真理を発見することが必要なのだ。しかもその真理は、わたしがそのために生き、そのために死ねるような真理である」

デンマークの哲学者セーレン・キェルケゴールの言葉です。

大学時代に出会ったキェルケゴールは、わたしの人生の指針となりました。本人は中二病まんまの「こじらせおじさん」だったようですが、厳しくも孤独を愛し、激しく神を信じた人です。

この頃、参考になるのでは、と友人に勧められて、シャーリー・マクレーンのエッセイ『アウト・オン・ア・リム 愛さえも越えて』や『オール・イン・ザ・プレイング 私への目覚め』なども読んでいました。

(画像リンクです)


(画像リンクです)

これら一連の本を翻訳されたのが、山川紘矢さんと山川亜希子さんのご夫婦です。1995年に日本で発刊された『聖なる予言』を知っている方も多いはず。

(画像リンクです)


ご夫婦で精神世界やスピリチュアル関連の翻訳を多く手がけられている、という点でも珍しいと思います。

おまけに、お二人とも東大出身で、紘矢さんは大蔵省、亜希子さんはマッキンゼー・アンド・カンパニー出身と、バリバリの資本主義経済ど真ん中におられた方なんですよね。

振り幅が大きい!

そんなお二人が翻訳されたパウロ・コエーリョの『弓を引く人』は、弓道の極意を語る達人のお話です。

☆☆☆☆☆

『弓を引く人』

(画像リンクです)

☆☆☆☆☆

<あらすじ>
小さな村で大工として暮らしていた哲也のもとに、遠い国から弓の達人が訪ねてくる。ふたりの勝負を目撃した少年は、弓を教えて欲しいと哲也にお願いする。哲也が語る、弓の真髄とは……。


静かな、静かな物語です。弓を引く音、矢が飛んでいく音、その背後にある葉ずれの音まで聞こえてきそうな静けさ。

弓について教えることなんて、簡単なこと。本当に難しいのは、教わったことを、求められる精度でマスターできるまで、毎日研鑽を積むことだ、と語る哲也。

弓矢に的。それぞれの持ち方、見方。姿勢や、矢を放つ瞬間について、哲也は少年に一つひとつ説明してくれます。

これ、すべてそのまま「日々の生き方」だなと感じました。

たとえば「仲間」については、こんな言葉があります。

“冒険を試み、危険を冒し、失敗し、傷つき、それでもさらに危険を冒す人たちと友だちになりなさい。
正しいとされていることを主張し、自分の考えと会わない人間を批判し、人々から尊敬されると確信できないことには手を出さない人、そして疑わしいことよりも確実なことだけを好む人を敬遠しなさい。”

いま、SNSにはびこる「正義の刃」を振りかざす人って、まさに「遠ざけた方がいい人」ではないでしょうか。

また、「的を見る」には、内省を奨励する言葉もありました。

“あなたの良くない瞬間を、何が自分を震えさせるのかを発見するために使いなさい。
良い瞬間を、内なる平和への道を発見するために使いなさい。”

著者のパウロ・コエーリョはブラジルの作家で、『アルケミスト - 夢を旅した少年』がベストセラーになっています。『ベロニカは死ぬことにした』は映画化もされましたよね。

少年の冒険譚が、そのまま人生の箴言につながっているところは共通しています。

(画像リンクです)


わたしの家の近くに弓道場があって、時々、稽古しているところを見ていました。一連の動作の美しさは、ずっと見ていても飽きません。

矢を手にし、弓を引き、的を見つめ、矢を放つ。

矢を射る稽古は単なる繰り返しではありません。弓道は「立禅」と呼ばれるほど、精神修養も求められる武道です。

驚くほどに細かく、繊細な弓道の所作の描写。

すべての行為に精神性を見出す哲也の言葉。

静かで、強い言葉の数々に、新たな人生の指針を見つけた思いでした。


コメント

このブログの人気の投稿

人生をやり直したい男の誤算が招くコメディ 映画「LUCK-KEY」 #298

名バイプレーヤーとして知られる俳優が、主演を務めるとき。その心中はドッキドキでしょうね……。 映画「ベテラン」や「タクシー運転手 約束は海を越えて」で味のある演技を披露していたユ・ヘジンにとって、初めての単独主演映画が「LUCK-KEY ラッキー」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「LUCK-KEY」 https://amzn.to/3watGNT ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 売れない貧乏役者のジェソンは、将来に絶望して自殺を試みます。が、大家の侵入によって失敗。せめて身ぎれいになってからにしようと銭湯に行くことに。石けんを踏んで転倒した男の鍵をすり替え、男のフリをして暮らそうとしますが……。 原作は内田けんじ監督のコメディ「鍵泥棒のメソッド」。リメイク版の試写会で、観客が提案したタイトルが「LUCK-KEY」で、それがそのまま使われることに決まったのだそう。 ☆☆☆☆☆ 映画「鍵泥棒のメソッド」 https://amzn.to/3jEEotv ☆☆☆☆☆ ユ・ヘジンが演じるのは記憶喪失になった男「ヒョヌク」なのですが、ロッカーの鍵をすり替えられてしまったため、周囲には貧乏役者だと思われています。助けてくれた救急隊員の実家である食堂で働くことになりますが、刀さばきはすごいし、客さばきもうまい。だけど彼自身は俳優として成功し、親孝行しなければとマジメに努力します。 (画像はKMDbより) 一方、鍵をすり替えて逃げ出したジェソンの方は、豪勢な「ヒョヌク」の家にビックリ。贅沢三昧に自堕落に暮らし始めますが、隠し部屋で多くの銃を発見してしまいます。 実は「ヒョヌク」は、100%の成功率を誇る伝説の殺し屋だったのです!!! というお話。とにかくおかしな方へ、おかしな方へと話が転がっていく、コメディです。 (画像はKMDbより) 驚くのはユ・ヘジンの身体能力の高さ。趣味は登山と日曜大工だそうですが、いや、すごすぎやろというくらい、見事なアクションをみせています。 映画では、どう見てもおっちゃんなのに身分証は20代だったり、大部屋俳優から出世しちゃったり。 記憶は失っても、努力の仕方は覚えてるんですよね。 逆に、鍵をすり替えたジェソンは、夢はでっかく、だけど行動力はゼロという青年です。ふたりの対照的な生き方は、入れ替わっても続いてしまう。「幸運の鍵」をつかむには、という部分で、ちょっと身に...

『コロナ時代の選挙漫遊記』#839

学生時代、選挙カーに乗っていました。 もちろん、なにかの「候補者」として立候補したわけではありません。「ウグイス嬢」のアルバイトをしていたんです。候補者による街頭演説は、午前8時から午後8時までと決まっているため、選挙事務所から離れた地域で演説をスタートする日は、朝の6時くらいに出発することもあり、なかなかのハードワークでした。 選挙の現場なんて、見るのも初めて。派遣される党によって、お弁当の“豪華さ”が違うんだなーとか、候補者の年齢によって休憩時間が違うんだなーとか、分かりやすい部分で差を感じていました。 それでも、情勢のニュースが出た翌日なんかは事務所の中がピリピリしていることもあり、真剣勝負の怖さを感じたものでした。 「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちれば“ただの人”だ」とは、大野伴睦の言葉だそうですが、誰だって“ただの人”にはなりたくないですもんね……。 そんな代議士を選ぶ第49回衆議院議員総選挙の投票日が、今週末10月31日に迫っています。   与党で過半数を獲得できるのかが注目されていますが、わたしが毎回気になっているのは投票率です。今回は、どれくらい“上がる”のかを、いつも期待して見ているのですが、なかなか爆上がりはしませんね……。 ちなみに、2017年10月に行われた第48回衆議院議員総選挙の投票率は、53.68%でした。 『コロナ時代の選挙漫遊記』の著者であり、フリーライターの畠山理仁さんは、選挙に行かないことに対して、こう語っています。 “選挙に行かないことは、決して格好いいことではない。” 全国15の選挙を取材したルポルタージュ『コロナ時代の選挙漫遊記』を読むと、なるほど、こんなエキサイティングな「大会」に積極的に参加しないのはもったいないことがよく分かります。 ☆☆☆☆☆ 『コロナ時代の選挙漫遊記』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 昨年行われた東京都知事選で、「スーパークレイジー君」という党があったのをご存じでしょうか? またオモシロ系が出てきたのかしら……と、スルーしてしまったのですけれど、本を読んで、とても真剣に勝負していたことを知りました。300万円もの供託金を払ってまで挑戦するんですもん。そりゃそうですよね。 この方の演説を、生で見てみたかった。もったいないことをしてしまった。 こんな風に後悔しないで済むように、畠...

まったく新しい映画体験に思うこと 4D映画「ハリー・ポッターと賢者の石」 #484

映画の公開20周年を記念して、「ハリー・ポッターと賢者の石」が初の3D化されました。体感型の4DXやMX4Dで上映されています。 映画を「配信」するサービスが増え、パソコンやスマホでも映画が観られるようになったいま、「劇場で観る楽しみ」を、最大限与えてくれる上映方法だと思います。 でも、なぜか、4D映画ってモヤッとしてしまう……。 クィディッチゲームの疾走感や、チェスの駒が破壊されるシーンの緊迫感は倍増されていたので、こうした場面の再現率、体感度は以前に比べてかなり上がってきたように感じます。 (画像はIMDbより) それでも、稲光、爆風や水滴など、ストーリーとのズレを感じてしまう。 むかし観た4D映画では主人公が「GO! GO!」と走り出すシーンで、スポットライトがピカピカと点滅していたんですよね。わたしの頭の中で、「パラリラ パラリラ~」という暴走族のバイクの音が再生されてしまいました。 そうしたストーリーとは関係のない効果は減り、洗練されてきた感じはするものの、やっぱりスッキリしないものは残るのです。 4D映画はなぜモヤるのだろうと考えていて、「誰の目線で映画を観ればいいのか混乱する」からかもしれないと気がつきました。 ここで、あらためて4D映画について説明しておきます。 4D映画とは、映画に合わせて光や風などの演出が施された、アトラクション型の「映画鑑賞設備」のことです。 2D映画でも、4D映画の設備で上映されなら、4D映画になります。今回わたしが観た「ハリー・ポッターと賢者の石」は、3D映画の4D上映でした。 日本で導入されている4Dシアターは2種類。韓国のCJ 4DPLEX社が開発した4DXと、アメリカのMediaMation社が開発したMX4Dです。わたしは今回、TOHOシネマズで観たのですが、導入しているのはMX4Dのほうでした。サイトによると、体感できる環境効果はこちら。 特殊効果 ・シートが上下前後左右に動く ・首元、背後、足元への感触 ・香り ・風 ・水しぶき ・地響き ・霧 ・閃光 なるほど、のっけからシートがジェットコースターのように揺れ、風が吹きつけ、地響きも、ふくらはぎに礫が当たるような感触も体験できました。 人間社会で虐待されながら育ったハリー・ポッターは、ハグリットと出会うことで初めて魔法の世界に触れることになります。 ホグワーツ魔...