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『一切なりゆき 樹木希林のことば』#971


そういえば、最近「新書」を読んでないかもしれない。

珍しく外出する予定があったとき、気が付きました。理由は単純。家にいる時間が長くなったので、薄い本より分厚い本を読むようになったから。

ここ2年くらい「鈍器本」と呼ばれるほど分厚い本が多く出ていて、中にはベストセラーになっているものもあります。


上の記事にある『独学大全』なんて、寝転んで読むには重すぎるくらい分厚いです……。

「新書」には「新書」の良さがあるんだけどなと思う程度には、「新書」好き。久しぶりに手に取ってみたのは、樹木希林さんの『一切なりゆき 樹木希林のことば』です。

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『一切なりゆき 樹木希林のことば』

(画像リンクです)

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2018年に亡くなられた樹木希林さん。どんな姿を思い出すかは、世代によって違うかもしれません。

わたしは富士フイルムのCMのイメージが強いです。毎年お正月前になると、岸本加世子さんとの楽しいやり取りのCMが流れていたんですよね。


「美しい人はより美しく、そうでない方はそれなりに」というキャッチフレーズは、当初は「美しくない方も美しく」だったものを、希林さんの提案で修正したものだとか。

こうした他者への想像力や感性が、彼女の演技力を支えていたのかもしれないと、本を読んで感じました。

さまざまな雑誌に掲載されたエッセイから、154の言葉を紹介しています。

後ろを振り返るより、前に向かって歩いたほうがいいじゃない、という話に続いて、

「自分の変化を楽しんだほうが得ですよ」

なんて言葉があったり。

ほとんど服などを買わないという希林さんが、

「物を買う代わり、自分の感性に十分にお金をかけるほうがいい」

ということを娘の也哉子さんに伝えていたり。

人生のこと、俳優としてのこと、女として、病を抱えた者として、日々感じていたことからは、途方もなく“人間くさい”姿が感じられます。

巻末には、也哉子さんの「喪主代理の挨拶」も収録。

理解しがたい関係だった両親の、知らなかった一面をのぞいたエピソードには、ホロッとしてしまいました。

「おごらず、他人と比べず、面白がって、平気に生きればいい」

母から贈られたという、このメッセージ。全人類に伝えたい。


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