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『言葉のズレと共感幻想』#985


「言葉のやり取りはたくさんあるのに、意味のやり取りは行われていない」

『具体と抽象』の細谷功さんと、マンガ編集者の佐渡島庸平さんが対談した『言葉のズレと共感幻想』には、たくさんのドキリとする指摘があります。

冒頭の一文は、佐渡島さんの言葉で、深まることのないまま続いていく会話は、猿の毛づくろいみたいだとして、バッサリ……。

厳しい言葉もありますが、人間にしかできないコミュニケーションを、「on」にするためのヒントが見つかるかもしれません。

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『言葉のズレと共感幻想』

(画像リンクです)

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観察力を上げるトレーニングをしている佐渡島さんから、日常の不思議、コミュニケーションへの疑問などが挙げられ、細谷さんがその事象を分析したり質問したりしながら話は進みます。

「誰かへの共感は、共感している自分に酔いしれているだけでは」

「人は目の前のものが見えていると思い込んでいて、立ち止まって考えずに済ませている」

などなど、厳しいなーと思ってしまうのは、自分に心当たりがあるから。

おもしろかったのは「共感エコノミーと共感格差」の章でした。

「いいね」をひとつのエコノミー指標と考えると、その偏りは富の分配よりもはるかに大きいかもしれないという指摘です。

現代では多くの人がSNSの「アカウントを持っている」状態ですが、実際に発信している人は少数、そこで「いいね」をもらえる人なんてもっと少数、ましてや「バズる」ことなんて、ごくごく少ない。

そのため、多くの「いいね」を集めるインフルエンサーの発言力・影響力は増しています。

この、「共感格差」はどこから生まれるのか。

“細谷:人そのものに共感しているかはわかりませんが、行為に集中しているように見えます。共感される人は、日々の行動の中に共感されるような要素があるわけで、日々の行動というのは繰り返されるはずだから、どんどんそこに共感が集まっていく構図になるんでしょう。”

ただ、ここで共感を集める人は、普通の会社にいたら協調性がなくてはみ出してしまうような人かも、とも。


わたしは安易に「分かる」と言わないようにして、言葉に対する感度を上げようと意識しています。

本にも出てきますが、「まきこむ」という言葉も好きじゃないので使いません。ベンチャー界隈ではよく使われる言葉ですが、すごく違和感がある。「まきこまれる側」の主体性がなくなってしまうように感じるからです。

“佐渡島:組織論の研究者である宇田川元一さんと話したときに、彼の「『まきこむ』『やらせる』という言葉には古い価値観が染みこんでいる。これからは共創の時代なんじゃないか」という見解に虚を衝かれました。”


分かるわ~!笑

人間って、いったい何に「共感」しているのでしょうね。今日は自分の感情をジッとみつめて、揺れる様子を観察してみたいと思います。

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