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『韓国映画・ドラマ――わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』#657

近年の韓国映画は豊作ぞろいです。 第93回米アカデミー賞で作品賞を含む6部門にノミネートされた「ミナリ」では、破天荒なおばあちゃんを演じたユン・ヨジョンが助演女優賞を受賞しました。昨年は、もちろん「パラサイト 半地下の家族」一色でしたよね。 “無意識の悪意”が階級を分断する 映画「パラサイト 半地下の家族」 #171   ドラマの方も、「愛の不時着」や「梨泰院クラス」など、多くのドラマが話題になっていました。韓国の物語がこれほど評価を受けている背景には、どんな変化があるのか。 『韓国映画・ドラマ――わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』は、韓国作品におけるフェミニズムや格差社会について、西森路代さんとハン・トンヒョンさんが“おしゃべり”している本です。 ☆☆☆☆☆ 『韓国映画・ドラマ――わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』 https://amzn.to/3uUHr3t ☆☆☆☆☆ “対談”というより“おしゃべり”という言葉がぴったりではあるのですが、けっして「韓流ドラマラブな女性のウキャウキャしたパジャマトーク」ではないので、それを期待して読むとだいぶ違います……。 4月29日に本屋B&Bで行われたイベントで、ゲストとして登場した町山広美さんは、「お互いの個人的事情に興味のない感じがおもしろかった」と語っていました。 まさに!な距離感なんです。そして、どちらかというとドライな視線で、数々の映画やドラマが解説されています。 とても共感したのは、韓国ドラマが「わかりにくさを求め始めているのでは」という指摘です。内省的な、わかりにくい世界が増えている韓国ドラマに対して、日本のドラマは「わかりやすさ」を求めすぎているのではないか、という意見も。 わたしは日本のドラマをほぼ観ていないので知らなかったのですが、そうだったのかという気持ちと、やっぱりという納得感がありました。 演技ではなくセリフですべてを語ったり、内面をわざわざセリフにしてしまったり。こういう演出は、なにも考えずにストーリーを追えるのかもしれませんが、検索によるつまみ読みみたいで……。 本には、対談以外にも、おふたりが発表された映画に関する記事も収録されています。 本を制作される方に、心からお願いしたいことがひとつ。 Qサイズの小さなピンクの文字は、めちゃくちゃ読みにくいです……。

『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』#656

アメリカの音楽ジャンルである「ポップス」が、日本では「J-POP」、韓国では「K-POP」と呼ばれている……のだと思っていました。では、その区分けは、歌い手の国籍なのか、制作された国なのか。 BLACKPINKのドキュメンタリー映画でも、プロデューサーが語っていた「K-POPとは何か」という問題。 映画「BLACKPINK ライトアップ・ザ・スカイ」 https://note.com/33_33/n/n899283d10bc7 韓国の音楽評論家であるキム・ヨンデさんの書『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』にも、“定義はあいまい”とありました。 ☆☆☆☆☆ 『BTSを読む』 https://amzn.to/2S2yXZq ☆☆☆☆☆ 韓国で「アイドル」と最初に呼ばれたソテジワアイドルから、数々のグループが誕生し、日本でも多くのファンが熱狂しているいま。その「K-POPアイドル」という枠組みを越えていったBTSに迫った本です。 あまりK-POPに詳しくないわたしがBTSの名前を最初に聞いたのは、2018年くらいだったように思います。 また、似たようなグループが生まれちゃったのか……!?と思いきや、なんだか何かがぜんぜん違う。 「K-POPアイドル」の原点はラップとダンスで、BTSもその路線ではあるけれど、何が違うんだろう? そんな疑問を持っていたわたしには、「K-POPアイドル」の歴史を解き明かしつつ、BTSの特殊さを解説する本書は、とても刺激的でした。 ヒップホップ×アイドルという組み合わせから、最初はバッシングを受けたこと。ようやく進出したアメリカでも、「ファクトリー・アイドル」と揶揄されたこと。 そんな彼らが世界中でファンダムを形成し、2021年グラミー賞では、「最優秀ポップデュオ/グループパフォーマンス賞」にノミネートされました。2019年は最優秀レコーディング・パッケージ賞へのノミネートでしたが、今回はようやく楽曲で評価されたわけです。 多くのグループが試みた「現地化戦略」をとらず、自分たちらしさと音楽性を追求してきたのが、BTSとのこと。 「目標は、変化し続ける姿が見えるチーム」。本を読んでから、YouTubeでMVを検索してしまうこと請け合い。歌詞レビューを読みながら、じっくり世界にひたりたい。

『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』#655

2021年グラミー賞の「最優秀ポップデュオ/グループパフォーマンス賞」にK-POP界で初ノミネートされたBTS。 新曲のMVが次々と新記録を打ち立て、ギネス5部門に登録されたBLACKPINK。 K-POPアイドルの育成方法を取り入れたNiziUの人気。 なぜこんなにも、世界中でK-POPが受け入れられるようになったのか。『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』は、その背景を探った本です。 ☆☆☆☆☆ 『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』 https://amzn.to/3omw1TD ☆☆☆☆☆ K-POPアイドルというと、グループの人数が多くて、新曲を出すたびに髪色やイメージがガラリと変わるので、わたしはなかなか覚えられなかったのですけれど。それこそが「カムバック式」の戦略だったんですね。 本では、K-POP人気の理由として5つのバリアフリーが挙げられています。 1.お金 2. 時間 3. 距離 4. 言語 5. 規制 たとえば、K-POPアイドルの新曲はYouTubeを通して公開されることが多く、ほとんどの場合は無料で触れることができます。 入り口は無料→ ライブは有料 まさに「フリーミアム」モデルなのだという説明に、めちゃくちゃ納得しました。 ※フリーミアム(Freemium)とは、基本的なサービスや製品は無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能については料金を課金するビジネスモデルのこと。 アイドルの音楽作りを支える裏方へのインタビューや、過去のアイドルグループとの違いについても触れています。 そして浮かび上がる疑問「K-POPとは何か」。これはBLACKPINKのドキュメンタリー映画でも、プロデューサーが口にしていました。 BLACKPINK入門編はK-POPってなんだという問い 映画「BLACKPINK ライトアップ・ザ・スカイ」 #591   距離や言語のバリアを超えたことで、世界規模でファンダム化したK-POP。ファンとの一体化といえば聞こえはいいけれど、アーティストの方向性までもを左右してしまうあり方は、とても微妙なバランスの上に成り立っています。 K-POP好きな人はもちろん、ビジネス目線で読んでもおもしろい一冊でした。 キム・ヨンデ著『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるのか』と合わせて読むのがおすすめです! 『BTSを読む なぜ世界を夢中

『その悩みの答え、アカデミー賞映画にあります 人生の扉を開く50の言葉』#654

今年も映画の祭典が行われ、昨日は一日ソワソワしていました。アメリカのアカデミー賞は、映画芸術科学アカデミー(AMPAS)の会員による無記名投票で授賞が決まります。 1本の映画は、慰めにも、励ましにもなる。賞レースにのったから、いい映画というわけではないけれど、やっぱり「観てよかった!」と感じるものも多いと思います。 山下トシキさんの『その悩みの答え、アカデミー賞映画にあります 人生の扉を開く50の言葉』は、そんなアカデミー賞の受賞作から、名言を集めた一冊です。 ☆☆☆☆☆ 『その悩みの答え、アカデミー賞映画にあります 人生の扉を開く50の言葉』 https://amzn.to/3waN3qK ☆☆☆☆☆ 映画のストーリーや登場人物も紹介されているので、知らない映画との出会いの場にもなりそう。 紹介されているセリフ=映画からのメッセージには、原文と日本語訳が付いています。 これは実際に上映された時や、DVDに収録されている字幕ではないのか、ずいぶんと意味が“補足”されています。 そして、「お、そっちで来たか!」というピックアップの妙も味わえちゃう。 たとえば「フォレスト・ガンプ」。圧倒的に有名なのは「人生は箱に入ったチョコレートみたいなものよ」という、ママのセリフだと思います。でも、あえてこれをイラストのストーリー紹介の方に置き、ガンプのセリフの方を載せているんです。 Mama always said miracles happen everyday, some people don't think so, but they do. (ママはいつも言っていた。奇跡は毎日起きるって。信じない人もいるけどホントだよ) 人生に迷った時、仕事に行き詰まった時、恋に悩んだ時。映画のメッセージが、ブレイクスルーのヒントになればうれしい。 わたしとしては、この本の韓国映画版を作りたいな。

映画「チャンス商会 初恋を探して」#653

カン・ジェギュ監督というと「シュリ」はもちろん、「ブラザーフッド」や「マイウェイ」など、迫力のあるシーンが思い浮かぶのですが、「チャンス商会」は一転、小さな町の、小さなお店を舞台にした“初恋”の物語です。 ☆☆☆☆☆ 「チャンス商会 初恋を探して」 Amazonプライムで配信中 (画像リンクです) DVD (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 韓国版ブロックバスター映画の代名詞のような監督による、困難を乗り越えて、固く結ばれる愛の姿。アクションの巨匠が夢見る、ファンタジックなラブストーリーといえるかもしれません。 2008年のアメリカ映画「やさしい嘘と贈り物」のリメイク作品ですが、老いらくの恋だと思っていた風景が一転するあたりは、韓国映画のスパイスが特盛りになっている感じがします。もー、涙なしでは観られない。 生きることも、老いることも、ひとりでできることだけど。やっぱり誰かと一緒なら、もっと充実させられるのかも。何度生まれ変わっても、この人にときめく。そんな人の縁を信じさせてくれるストーリーです。 チャンスマートで働く頑固なおじいちゃん「ソンチル」を演じるパク・クニョンは、冷徹で権威的な役柄でよく見る俳優でした。 「お主も悪よのぉ。グォホッホッホッホ」 なんていう悪代官風味漂う感じなんですよ。なのに、70歳になって最後の恋って……。そう思っていたのですが。マートの社長(チョ・ジヌン)にデートの盛り上げ方を習い、必死にエスコートする姿は、かわいいしかない。 その「ソンチル」が一目惚れしてしまった老婦人「グンニム」を演じたのが、ユン・ヨジョン。韓国映画界の“永遠のミューズ”と呼ばれている方です。 先月、日本でも公開された映画「ミナリ」で、世界中の映画賞で37冠を達成。37!? 意味分からなくなってきたけど、今日開催される第93回アカデミー賞でも助演女優賞にノミネートされていて、賞の行方が気になってたまらない……。 わたしが初めてユン・ヨジョンを観たのがホームドラマの「がんばれ!クムスン」でした。嫁いびりのキッツいおばあちゃんで、でも孫には甘い。懐の深さを感じる演技がとても印象的でした。でもこの時、まだ50代だったそうでびっくり。 ドラマ「がんばれ!クムスン」 ムダにポジティブなシングルマザーの姿に、“家族”とは何かを思う ドラマ「がんばれ!クムスン」 #303   イム・サ

『syunkon日記 おしゃべりな人見知り』#652

  ジャケ買いならぬ、タイトル買いしてしまった。 山本ゆりさんの『syunkon日記 おしゃべりな人見知り』です。あまりにも軽快に連打される大阪弁のボケツッコミに、ようやく著者プロフィールを見て、大人気の料理ブロガーさんだと知る。いやー、料理の魔術師は、言葉の魔術師でもあるのですね。 ☆☆☆☆☆ 『syunkon日記 おしゃべりな人見知り』 https://amzn.to/3hGlhOO ☆☆☆☆☆ 人見知りの人は、もちろん人と話をするのが苦手なんですが、それ以上に「沈黙」に耐えられない。だから聞かれてもいないのに失敗談を披露したり、料理を勧めたりしちゃう、とのこと。 分かるわー! 食べ物にまつわるエッセイはもちろん、子育ての悩みや洗濯機の悩みまで、幅広いネタで大阪弁トークが炸裂しています。 中でも共感の嵐だったのが、「パッケージを開けるのが苦手な件」でした。 ポテチの袋、納豆についてくるしょう油や辛子などなど、不器用さんには難しすぎるのよー!!! ブッシャーッて事故が多発するのよねー、うんうん。 わたしはハナからあきらめてハサミで切るようになりましたさ。でも、お豆腐のパッケージはもうちょっとなんとかならないものかと思う。 軽快に、爽快に、日常を照らす笑いの数々。おいしそうなレシピもたくさん紹介されています。 本のもとになっているブログ「syunkon日記」はこちらです。「どこにでもある材料で、誰にでもできる料理を」がコンセプトだそう。 https://ameblo.jp/syunkon/ 山本さんのブログは「お・も・て・な・し」があふれていました。フラリと立ち寄って、気楽に話ができるバーのママって感じでしょうか。このやわらかさと明るさはステキ!!ですよ。

『チャンネルはそのまま!』#651

『動物のお医者さん』の佐々木倫子さん。今度の舞台は北海道のテレビ局! 新人記者の雪丸花子が奮闘するコメディです。 ☆☆☆☆☆ 『チャンネルはそのまま!』 https://amzn.to/2Slb5Ar ☆☆☆☆☆ 一所懸命にやればやるほど、天然が炸裂。見事なほどに周囲をイライラさせるんですが、求心力はあるんですよね。というか、ほっとくととんでもないことをやらかしそうで、目が離せない。 事件取材で「裏取りを忘れるなよ」と指示された花子。キルト展での取材でもそのアドバイスを思い出します。「ウラ……。ウラこそ大事なのか!」と気がついて。 キルト作品を全部裏返して撮影しちゃうんです。 新人の発想って新鮮ですね……。そんな認知のズレにしみじみ戦慄するシーンもあります。 わたしは会社で研修を担当していて、今年も新卒・中途入社の方に研修を行いました。素直な人、マジメな人、イケイケの人、いろんなタイプの人を見ながら、ふとこのマンガのことを思い出していました。 雪丸花子が勤める北海道☆テレビに伝わる噂です。毎年、ひとりだけ「バカ枠」として採用される人がいるとか、いないとか……。 (お前やー!!!) と叫びたくなるほどの無鉄砲記者・雪丸花子だって、“先輩”になっていく。うちの会社には「バカ枠」はなさそうだけれど(そもそもそんな採用はしていないはずw)、バカがピンチを切り開き、新しい視点で会社を引っ張っていってくれるなら。 楽しみでしかない。 こんなバカを矯正しようとしない会社の方が、生き残れるんじゃないかと思えるマンガです。読んでる間は、ただただ笑ってただけですけどね。