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映画「チャンス商会 初恋を探して」#653


カン・ジェギュ監督というと「シュリ」はもちろん、「ブラザーフッド」や「マイウェイ」など、迫力のあるシーンが思い浮かぶのですが、「チャンス商会」は一転、小さな町の、小さなお店を舞台にした“初恋”の物語です。

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「チャンス商会 初恋を探して」

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韓国版ブロックバスター映画の代名詞のような監督による、困難を乗り越えて、固く結ばれる愛の姿。アクションの巨匠が夢見る、ファンタジックなラブストーリーといえるかもしれません。

2008年のアメリカ映画「やさしい嘘と贈り物」のリメイク作品ですが、老いらくの恋だと思っていた風景が一転するあたりは、韓国映画のスパイスが特盛りになっている感じがします。もー、涙なしでは観られない。

生きることも、老いることも、ひとりでできることだけど。やっぱり誰かと一緒なら、もっと充実させられるのかも。何度生まれ変わっても、この人にときめく。そんな人の縁を信じさせてくれるストーリーです。

チャンスマートで働く頑固なおじいちゃん「ソンチル」を演じるパク・クニョンは、冷徹で権威的な役柄でよく見る俳優でした。

「お主も悪よのぉ。グォホッホッホッホ」

なんていう悪代官風味漂う感じなんですよ。なのに、70歳になって最後の恋って……。そう思っていたのですが。マートの社長(チョ・ジヌン)にデートの盛り上げ方を習い、必死にエスコートする姿は、かわいいしかない。

その「ソンチル」が一目惚れしてしまった老婦人「グンニム」を演じたのが、ユン・ヨジョン。韓国映画界の“永遠のミューズ”と呼ばれている方です。

先月、日本でも公開された映画「ミナリ」で、世界中の映画賞で37冠を達成。37!? 意味分からなくなってきたけど、今日開催される第93回アカデミー賞でも助演女優賞にノミネートされていて、賞の行方が気になってたまらない……。

わたしが初めてユン・ヨジョンを観たのがホームドラマの「がんばれ!クムスン」でした。嫁いびりのキッツいおばあちゃんで、でも孫には甘い。懐の深さを感じる演技がとても印象的でした。でもこの時、まだ50代だったそうでびっくり。


ドラマ「がんばれ!クムスン」


イム・サンス監督の映画「ハウスメイド」では、複雑な思いを抑えて務めを果たす、有能なメイド長役に。

「ハウスメイド」で共演したチョン・ドヨンに推薦され、クライムサスペンスの名作「藁にもすがる獣たち」にも出演。短いシーンでしたが、とぼけた味わいにゾッとさせられました。

「チャンシルさんには福が多いね」でも、哲学的な達観したおばあちゃんを演じています。


「ミナリ」

パク・クニョンもユン・ヨジョンも、50年以上のキャリアのあるふたりですから、これまで恋人同士も、仇役も演じてきました。映画のメイキングでも、「最初はちょっと違和感があったw」と語っています。


確かな演技力で放たれる、最後の恋に隠された秘密。これを愛と呼ばずして、どうする。

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