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映画「ハウスメイド」 #623


1960年に制作されたキム・ギヨン監督の「下女」は、多くの映画監督に影響を与えたといわれています。「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督もそのひとり。韓国映画界では、この映画のリメイクが、ずっと夢として語られていたのだそうです。


でも、あまりにも傑作すぎて、手が出せない……。


そんな長年の悲願にチャレンジしたのがイム・サンス監督です。男性を主人公としていた「下女」を大胆に改変。カンヌ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したチョン・ドヨンを主演に迎え、支配と被支配の関係をグロテスクに描き出しました。

☆☆☆☆☆

映画「ハウスメイド」
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<あらすじ> 財閥家庭の家にメイドとして雇われたウニは、主人のフンと双子を妊娠中の妻、6歳の娘の世話をすることに。昔から働くメイドのビョンシクに厳しく指導され、徐々に信頼を獲得する。しかし、みなで別荘へ出かけた日、ウニはフンと関係を結んでしまい……。

イム・サンス監督といえば「浮気な家族」など、ブラックコメディのイメージが強かったので、「下女」のリメイク……と聞いても、あまりピンときていませんでした。


「ハウスメイド」で監督が挑戦したのは、階級問題を正面から扱うことです。メイドとして働くウニとビョンシクは、「人間」として扱われることはないんです。口ではそれなりなことを言ってますが、心がないことはありありと伝わってくる。


せめて自分たちと同じ「人間」として遇してくれたなら、悲劇は起こらなかったかもしれないのに。映画を作るにあたって、ヒッチコックを参考に、緊迫感を意識したと語っています。たしかに、目が離せない。


光と狂が共存している女性ウニを演じたチョン・ドヨン。男の身勝手そのもののような主人フンを演じたイ・ジョンジェ。レオナルド・ダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」をモチーフにしたラブシーンは、ちょっと目に焼き付いてしまうくらい。筋肉が美しすぎて……。

(画像はWikipediaより)


イム・サンス監督作品に初めて出演したチョン・ドヨンは、監督と意見が合わずになかなか大変だった、とパンフレットのインタビューで語っています。そんな彼女を支えたのが、俳優としても、メイドとしても「大先輩」のユン・ヨジョンです。

(画像はKMDbより)


パーフェクトな仕事で家の中を取り仕切り、ウニの変化も見逃さないしたたかさがありつつ、富裕層への嫌悪が渦巻いているんです。腹の底に。


「わたしは、検事の母だぞー!」


そんな風に叫ぶ背景には、人に使われて生きるしかなかった人生への憤りが、マグマのように沸騰し始めます。支配階級の身勝手に翻弄されるウニを見ているうちに、彼女も変貌してしまう。この怪演はユン・ヨジョンにしかできないでしょう。


チョン・ドヨンは「藁にもすがる獣たち」の台本を読んだ際、「主人公の母役をできるのはユン・ヨジョンしかいない!」とユン・ヨジョンを推薦し、10年振りに共演しています。

映画「藁にもすがる獣たち」
https://note.com/33_33/n/n059774155101

「下女」は男性が主人公なので、思ってもみないところから刃を向けられた男のアタフタに焦点が当てられています。弄ばれた女性の復讐が「氷の微笑」のようなんですよね。でも、「ハウスメイド」の方は女性が主人公。だからよけいにグロテスクに感じます。


支配され、搾取され、人間扱いされなかった者たちの叫びが、トゲとして心に残るから。


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映画情報「ハウスメイド」107分(2010年)

監督:イム・サンス

原案:キム・ギヨン

脚本:イム・サンス

出演:チョン・ドヨン、イ・ジョンジェ、ソウ、ユン・ヨジョン


コメント

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