スキップしてメイン コンテンツに移動

ムダにポジティブなシングルマザーの姿に、“家族”とは何かを思う ドラマ「がんばれ!クムスン」 #303



韓国文学、特にフェミニズムを扱った小説を読んでいて、思い出したドラマがあります。

貧乏でドジで学のないシングルマザーが、新しい恋に出会い、自立を目指す物語「がんばれ!クムスン」です。

☆☆☆☆☆

「がんばれ!クムスン」

DVD

☆☆☆☆☆

<あらすじ>
父は病死、母には捨てられ、祖母に育てられたクムスン。いまは美容師を目指している。ところが、叔母の下宿に住む大学生のチョンワンと一夜を共にし、妊娠。家族の反対を押し切って結婚するも、新婚4日目で夫が事故死。行く当てのないクムスンは、そのまま婚家で暮らすことを決意する。姑や義兄から冷たくされながらも、息子フィソンを出産し、あらためて美容師に挑戦しようとアルバイトを始めたところで、外科医のク・ジェヒと出会う。


全163話もありますが、1話がだいたい40分程度。かるーく観られるファミリードラマです。韓国では最高視聴率42%を獲得したという、オバケぶり。

わたしは某配信系の無料サービスで観ていたのですが、そこのコメント欄に並ぶ罵詈雑言がけっこうすごくて、これを読むのも楽しみにしていました。

・食べ方が汚い! サイテーな女だ!!!

・居候のくせに姑に文句言うなんて、サイテーな女だ!!!

・息子をほったらかしてデートするなんて、サイテーな女だ!!!

こんなに本気で観ている人がいるなんて、制作者側も本望なんじゃないかと思ってしまいました。とはいっても、クムスンは「サイテーな女」では全然ありません。

夫が亡くなっても、嫁は嫁。追い出されても舞い戻ってきたクムスンは、「居候」状態ではありますが、6人家族の家事労働を一手に引き受けています。

長男が結婚して(クムスンの夫は三男)、兄嫁がやって来た時。進歩的な考えの彼女はクムスンを見てびっくりするのです。

「今どきタライで洗濯するなんて! 洗濯機を買いましょう」

このドラマ、韓国で放送されたのは2005年ですからね。念のため。

こんな状況に誰も疑問を持たない。それが韓国の「家」における「嫁」なんだなーと強く印象に残っています。言葉は悪いけど、「奴隷」にしか見えない。「家族」というより、無料の「家政婦」なんです。兄嫁のような感覚が、文学の世界で大爆発しているんだなと感じました。

とにかくドジで、何かやらせると事故を起こし、母に甘えたことがないから人への頼り方も分からない。それでも明るくポジティブな主人公クムスンを演じたのはハン・ヘジン。すんごい美人なのに、気が強くて、おバカで、根性だけで人生を切り開くクムスンを熱演していました。

映画への出演はまだ少なく、ファン・ジョンミンと共演した映画「傷だらけのふたり」しか観てなかった。

https://note.com/33_33/n/n3ae284a185f8

クムスンを妊娠させて、すぐに死んじゃう三男は、キム・ナムギルが昔の名前で出ています。そして次の恋の相手、ク・ジェヒを演じるのはカン・ジファン。最初はめっちゃイヤなヤツなんですが、「恋に落ちた男」になったとたん、めっちゃかわいくなります。その点、「傷だらけのふたり」のテイルも同じだったなー。

自宅勤務生活とゴールデンウィークを経て、家事労働をひとりでやるのも疲れてきました。我が家はもともとわたしひとりでやっていましたが、ずーーーーっとテレビを観ている人が家にいる中でやるのは、ちょっとだいぶ気持ちが違いますね。

韓国の物語に「家族」ははずせないテーマです。クムスンの日常が当たり前だった時代から、いまはずいぶんと変わったのではないか。我が家も改革したいと思ったのでした。

☆☆☆

(ここから追記)

2021年3月に「ミナリ」が日本で公開され、第93回アカデミー賞6部門にノミネートされました。この記事では長くなるから省略したんですが、クムスンのおばあちゃんを演じたのが、ユン・ヨジョン。「ミナリ」でも破天荒なおばあちゃんを演じて助演女優賞にノミネートされています。

わたしがユン・ヨジョンを初めて見たのが、この「がんばれ!クムスン」で、嫁をいびり尽くす毒舌と、孫には限りなく甘い姿に、韓国のハンメ(おばあちゃん)そのもののような印象を持っていました。

この時、ユン・ヨジョンはまだ50代だったそう。初めての「おばあちゃん役」に迷っていたけれど、台本を受け取ってみたら、めちゃくちゃセリフが多い! 脚本家に電話して抗議したとバラエティ番組で語っていました。

(普通、そんなことせんやろ。だから恐れられるのや……と思ったw)

SBS「ヒーリングキャンプ」


TBC3期のタレントとして20歳でデビューし、キム・ギヨン監督の「火女」でその年の映画賞を総なめにします。その後、結婚して引退。アメリカに移住して12年暮らしたそう。1984年、離婚して韓国に帰国し、再び俳優として活動を始めますが、最初は端役ばかり。時代的に、「離婚した女がテレビに出るなんて!」と言われたりなんかもして、かなり苦労したようです。

新時代の母を演じたり、年下の男性とのベッドシーンにも挑戦したり。「生きるためにワンシーンを命がけで演じています」と語り、ドラマに、映画に精力的に出演し、「韓国映画界の永遠のミューズ」と呼ばれるまでに。

「難しくない、痛みのない人生なんてあるわけない」

バラエティー番組で明かしたユン・ヨジョンの哲学は、「ミナリ」の世界そのものかもしれない。英国アカデミー賞の授賞式でも毒舌コメントをして、みなを笑わせ、でも後で謝罪したらしいけど。

晴れ舞台でオスカー像を手に、ユン・ヨジョンらしいコメントが聞けることを期待したい。


ドラマ情報「がんばれ!クムスン」MBC全163話(2005年)

演出:イ・デヨン

脚本:イ・ジョンソン

出演:ハン・ヘジン、カン・ジファン、イ・セウン、

パク・イナン、キム・ジャオク、ユン・ヨジョン

コメント

このブログの人気の投稿

『コロナ時代の選挙漫遊記』#839

学生時代、選挙カーに乗っていました。 もちろん、なにかの「候補者」として立候補したわけではありません。「ウグイス嬢」のアルバイトをしていたんです。候補者による街頭演説は、午前8時から午後8時までと決まっているため、選挙事務所から離れた地域で演説をスタートする日は、朝の6時くらいに出発することもあり、なかなかのハードワークでした。 選挙の現場なんて、見るのも初めて。派遣される党によって、お弁当の“豪華さ”が違うんだなーとか、候補者の年齢によって休憩時間が違うんだなーとか、分かりやすい部分で差を感じていました。 それでも、情勢のニュースが出た翌日なんかは事務所の中がピリピリしていることもあり、真剣勝負の怖さを感じたものでした。 「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちれば“ただの人”だ」とは、大野伴睦の言葉だそうですが、誰だって“ただの人”にはなりたくないですもんね……。 そんな代議士を選ぶ第49回衆議院議員総選挙の投票日が、今週末10月31日に迫っています。   与党で過半数を獲得できるのかが注目されていますが、わたしが毎回気になっているのは投票率です。今回は、どれくらい“上がる”のかを、いつも期待して見ているのですが、なかなか爆上がりはしませんね……。 ちなみに、2017年10月に行われた第48回衆議院議員総選挙の投票率は、53.68%でした。 『コロナ時代の選挙漫遊記』の著者であり、フリーライターの畠山理仁さんは、選挙に行かないことに対して、こう語っています。 “選挙に行かないことは、決して格好いいことではない。” 全国15の選挙を取材したルポルタージュ『コロナ時代の選挙漫遊記』を読むと、なるほど、こんなエキサイティングな「大会」に積極的に参加しないのはもったいないことがよく分かります。 ☆☆☆☆☆ 『コロナ時代の選挙漫遊記』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 昨年行われた東京都知事選で、「スーパークレイジー君」という党があったのをご存じでしょうか? またオモシロ系が出てきたのかしら……と、スルーしてしまったのですけれど、本を読んで、とても真剣に勝負していたことを知りました。300万円もの供託金を払ってまで挑戦するんですもん。そりゃそうですよね。 この方の演説を、生で見てみたかった。もったいないことをしてしまった。 こんな風に後悔しないで済むように、畠...

人生をやり直したい男の誤算が招くコメディ 映画「LUCK-KEY」 #298

名バイプレーヤーとして知られる俳優が、主演を務めるとき。その心中はドッキドキでしょうね……。 映画「ベテラン」や「タクシー運転手 約束は海を越えて」で味のある演技を披露していたユ・ヘジンにとって、初めての単独主演映画が「LUCK-KEY ラッキー」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「LUCK-KEY」 https://amzn.to/3watGNT ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 売れない貧乏役者のジェソンは、将来に絶望して自殺を試みます。が、大家の侵入によって失敗。せめて身ぎれいになってからにしようと銭湯に行くことに。石けんを踏んで転倒した男の鍵をすり替え、男のフリをして暮らそうとしますが……。 原作は内田けんじ監督のコメディ「鍵泥棒のメソッド」。リメイク版の試写会で、観客が提案したタイトルが「LUCK-KEY」で、それがそのまま使われることに決まったのだそう。 ☆☆☆☆☆ 映画「鍵泥棒のメソッド」 https://amzn.to/3jEEotv ☆☆☆☆☆ ユ・ヘジンが演じるのは記憶喪失になった男「ヒョヌク」なのですが、ロッカーの鍵をすり替えられてしまったため、周囲には貧乏役者だと思われています。助けてくれた救急隊員の実家である食堂で働くことになりますが、刀さばきはすごいし、客さばきもうまい。だけど彼自身は俳優として成功し、親孝行しなければとマジメに努力します。 (画像はKMDbより) 一方、鍵をすり替えて逃げ出したジェソンの方は、豪勢な「ヒョヌク」の家にビックリ。贅沢三昧に自堕落に暮らし始めますが、隠し部屋で多くの銃を発見してしまいます。 実は「ヒョヌク」は、100%の成功率を誇る伝説の殺し屋だったのです!!! というお話。とにかくおかしな方へ、おかしな方へと話が転がっていく、コメディです。 (画像はKMDbより) 驚くのはユ・ヘジンの身体能力の高さ。趣味は登山と日曜大工だそうですが、いや、すごすぎやろというくらい、見事なアクションをみせています。 映画では、どう見てもおっちゃんなのに身分証は20代だったり、大部屋俳優から出世しちゃったり。 記憶は失っても、努力の仕方は覚えてるんですよね。 逆に、鍵をすり替えたジェソンは、夢はでっかく、だけど行動力はゼロという青年です。ふたりの対照的な生き方は、入れ替わっても続いてしまう。「幸運の鍵」をつかむには、という部分で、ちょっと身に...

映画「新しき世界」#293

「アメリカに“ハリウッド”があるように、韓国には“忠武路”という町があります」 第92回アカデミー賞で 「パラサイト 半地下の家族」 が脚本賞を受賞した時、ポン・ジュノ監督と共同で脚本にあたったハン・ジュヌォンは、そう挨拶していました。「この栄光を“忠武路”(チュンムノ)の仲間たちと分かち合いたい」。泣けるなー! ハン・ジュヌォンのスピーチ(1:50くらいから) アメリカにハリウッドがあるように、韓国には忠武路というところがあります。わたしはこの栄光を忠武路の仲間たちと分かち合いたいと思います。ありがとう! #アカデミー賞 https://t.co/LLK7rUPTDI — mame3@韓国映画ファン (@yymame33) February 10, 2020 1955年に「大韓劇場」という大規模映画館ができたことをきっかけに、映画会社が多く集まり、“忠武路”(チュンムノ)は映画の町と呼ばれるようになりました。 一夜にしてスターに躍り出る人や、その浮き沈みも見つめてきた町です。 リュ・スンワン監督×ファン・ジョンミンの映画「生き残るための3つの取引」での脚本が評価されたパク・フンジョン。韓国最大の映画の祭典で、最も権威のある映画賞である「青龍映画賞」で、彼自身は脚本賞を受賞。映画も作品賞を受賞し、一躍“忠武路”の注目を浴びることに。 そうして、自らメガホンを取った作品が「新しき世界」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「新しき世界」 Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 韓国最大の犯罪組織のトップが事故死し、跡目争いに突入。組織のナンバー2であるチョン・チョンは、部下のジャソンに全幅の信頼を寄せていますが、彼は組織に潜入した警察官でした。この機会にスパイ生活を止めたいと願い出ますが、上司のカン課長の返事はNO。組織壊滅を狙った「新世界」作戦を命じられ……。 あらすじを読んでお分かりのように、思いっきり「ゴッドファーザー」と「インファナル・アフェア」のミックスジュース特盛り「仁義なき戦い」スパイス風味入りです。 無節操といえばそうですけれど、名作のオマージュはヘタをすると二番煎じの域を出なくなっちゃうと思うんです。よいところが薄まっちゃうというか。人気作の続編が、「あれれ?」となるのもそうですよね。ですが。 名作と名作を合わせたら、一大名作が...