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自分をも食い尽くす承認欲求 『ナイルパーチの女子会』#18


「叱る」って本当に難しいですよね。

「怒る」と「叱る」を混同している人も多く、新人に注意する時には、その説明からすることもよくあります。そのことについてはあらためて書きたいと思いますが。

この常識はいまも必要だろうか?

このイライラは嫉妬ではないか?

といった点は、常に自分に問いかけるようにしています。でないと、自分の価値観が絶対的な正義のモンスターになってしまうから。

そんな「モンスター」を描いた小説が、柚木麻子さんの『ナイルパーチの女子会』です。

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ナイルパーチの女子会

(画像リンクです)

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<あらすじ>
翔子が匿名で書いている主婦ブログのファンだった大手企業に勤める会社員の栄利子。偶然にも近所に住んでいることが分かり、知り合いになります。同性の友達がいないという共通のコンプレックスによって、ふたりは意気投合。親友になるのですが……。


ナイルパーチとは、アフリカ大陸の川などに生息する大型の淡水魚の名前です。フライ用の白身魚として日本にも輸出されています。肉食の巨大魚で、放流されると生態系に深刻な影響を与えてしまうのだとか。

多様な生物が生息していたビクトリア湖がナイルパーチによって激変しまう様を描いたドキュメンタリー映画「ダーウィンの悪夢」は、数々の映画賞を受賞しました。

(画像リンクです)


あんまり穏やかでない魚の名前のついた「女子会」は、お互いを食い合うようなどう猛さがありました。

キャリアウーマンと専業主婦の友情は、『対岸の彼女』を思い出させる設定です。が、この本で描かれるのは「他者の価値観」です。

承認欲求とはつまり、内向きのプライドなので、刺激されると暴走しがちです。そして、モンスター化していく。登場人物のヒエラルキーは、あまりにも脆いものでできている気がしました。

栄利子の場合は、学歴やお金、大手企業に勤めているキャリアウーマンであることが武器。

翔子の場合は、人気ブロガーであり、結婚して社会的に安定したポジションを手に入れていることが武器。

最初のうちこそ、自分にはできない方法で社会から承認されている相手をリスペクトして仲良くなるのですが、深く付き合うことで違う面が見えてきます。

それは、裏切りなのか。

ビクトリア湖に放流されたナイルパーチは、他の固有種を食い尽くし、絶滅に追いやりました。自分以外の存在を認めないかのようなどう猛さは、モンスターと化した人物に重なって、目の前に迫ってきます。

わたしも、「ナイルパーチ」になっていないだろうか?

痛いけれど、自問自答しておきたい。

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