打楽器には心を躍らせる魔力がある。
韓国の伝統芸能である農楽は太鼓や鉦を打ち鳴らしながら踊る音楽です。リズムで会話する感じがすごく好き。魔力にのせられてしまいます。
一番盛り上がるのは「ヨルトゥバル」です。帽子のてっぺんに長ーい白い紐をつけてグルングルン回しながら飛び回るんです。
「ヨルトゥバル」とは「12歩」という意味。昔は先に刃物をつけて回しながら攻撃したとも言われているそうです。いや、確かに近寄れない。笑
農楽は、「風流遊び」を意味する「プンムルノリ」とも呼ばれています。曲が進むうちに心臓の鼓動にシンクロしていくんですよね。よく分からないまま踊り出したくなるし、ものすごく高揚する。
太鼓のような楽器を使わず、自らの身体を楽器とする音楽ならタップダンスがあります。
タップダンスの起源は、白人が黒人の集まる場でのドラムを禁止したため、かわりに足を踏み鳴らして音を出したことらしいです。虐げられた者たちの解放の音楽ということか。
打楽器には心を躍らせる魔力がある。
映画「スウィング・キッズ」を観て、強く感じました。
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映画「スウィング・キッズ」
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1951年の朝鮮戦争当時、韓国の南部にある巨済島の捕虜収容所に新しく赴任してきた所長は、対外的なイメージアップのために戦争捕虜でダンスチームを結成するプロジェクトを計画する。ブロードウェイのタップダンサーだった黒人下士官ジャクソンは「東洋人にタップダンスは無理」と反対するが、オーディションをすることになり……。
映画の一番の見どころはタップダンスのシーンです。寄せ集められたメンバーは。
・トラブルメーカーで、北朝鮮軍捕虜のロ・ギス
・行方不明になった妻を捜す民間人捕虜のカン・ビョンサム
・栄養失調で心臓が悪い中国人捕虜のシャオパン
・4カ国語を駆使する無許可通訳の女の子ヤン・パンネ
言葉も通じない、イデオロギーも違う、敵と味方の関係にあるメンバーですが、ジャクソンが繰り出すタップのリズムの虜になってしまうのです。
ジャクソンを演じたのはジャレッド・グライムス。ブロードウェイミュージカルの最優秀ダンサーに授与される「アステア賞」の受賞者です。
ガチのプロのエンターテイナー。
彼に対抗するロ・ギスを演じるのがアイドルグループ「EXO」のボーカルD.O.です。
ガチのプロのエンターテイナー。
すごいに決まってるやん!!!
(画像は映画.comより)
曲もいいんですよね。ベニー・グッドマンの「Sing Sing Sing」。
デビッド・ボウイの「Modern Love」。
このあたり、時代を無視して音楽性優先で作っている感じですけれど。
監督は「サニー 永遠の仲間たち」のカン・ヒョンチョルです。前作もそうでしたが、創作ミュージカルの「ロ・ギス」を基に映画化しているので、音楽の使い方がうまい。思わずのってしまう。
寄せ集めタップダンスチーム「スウィング・キッズ」はクリスマス公演で舞台に上がることになります。もちろん、ジャクソン以外は超超超初心者。
・たったひとりの黒人兵士で友だちのいないジャクソン。
・カーネギーホールの舞台にも立てそうな天才ダンサー・ロ・ギス。
・伝統舞踊の心を忘れずタップに励むカン・ビョンサム
・天才振付師で実力派ダンサーのシャオパン
・賢くてしっかり者のヤン・パンネ
言葉はいらない。イデオロギーなんてくそ食らえ。タップのリズムが絆を強めていく。
朝鮮戦争を描いた映画というと、「ブラザーフッド」や「国際市場で逢いましょう」など、“悲惨”のひと言しかないものが多かったように感じますが、「スウィング・キッズ」はほのぼのとコミカルに始まります。
クリスマス公演に向かって必死に練習。はたして公演は成功するのか!?
という話ではないところが、さすが韓国映画。
食事も出るし、レクレーションを楽しむ雰囲気で、前半はウキウキするほどの青春ダンス映画なのですが、とある捕虜が来たことから雰囲気が一変。イデオロギーの対立が激しくなっていきます。
エンドロールで流れるビートルズの「Free as a Bird」は、ジョン・レノンの未完成曲を、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターで完成させた25年ぶりの“新曲”です。
ビートルズの原曲が韓国映画に使われるのは、これが初めて。映画のメッセージに共感したメンバーたちがOKしてくれたそうなんですけど。
like the next best thing to be
Free as a bird
映画の内容とシンクロしていて泣いちゃう……。
いくら親しくなろうと、ダンスの息が合おうと、彼らがいるのは「捕虜収容所」です。自由はない。そこから出て行くこともできない。
言葉はいらない。イデオロギーなんてくそ食らえ。タップのリズムで結ばれた絆がある。
だって、打楽器には心を躍らせる魔力がある。
そんなのは感傷でしかないんです。
戦争が、イデオロギーが、レイシズムが、現実の前に立ちはだかるのは、この映画の舞台となっている1951年だけの話ではないのですよね。
映画「スウィング・キッズ」133分(2018年)
監督:カン・ヒョンチョル
脚本:カン・ヒョンチョル
出演:D.O.(ド・ギョンス)、ジャレッド・グライムス、パク・ヘス、オ・ジョンセ、キム・ミンホ
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