小説家や脚本家のタイプとして、物語世界を起ち上げるのがうまい人と、話の展開がうまい人がありますよね。
「ハリー・ポッター」シリーズを書いたJ・K・ローリングは前者の代表だと思います。映画「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」を観て、(ローリングは原作を書くことに集中した方がよいのでは……)と思ったのはここだけのヒミツ。
一方の筋立てや運びのおもしろさで読者をひきつける作家は「ストーリーテラー」と呼ばれます。
小説家ならイギリスのジェフリー・アーチャーが有名。彼は“物語を語る”ことにこだわっていて、読者を飽きさせないことを常に念頭に置いているそうです。
モダン・ホラーの第一人者で、多くの作品の映像化されているスティーブン・キングも「ストーリーテラー」でしょう。
「ストーリーテラー」は本来、小説家に使われる言葉のようですが、映画を観ていても「この脚本家は“ものがたリスト”だなー」と感じることがあります。
たぶん「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノがこのタイプ。デビュー作の「ほえる犬は噛まない」は、日常を舞台にした話ながら批評家から絶賛されました。
そんな“ポン・ジュノの再来”と言われたのが、「サニー 永遠の仲間たち」のカン・ヒョンチョル監督です。
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映画「サニー 永遠の仲間たち」
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専業主婦のナミは、母の見舞いに行った病院で、かつての親友・チュナと再会する。久しぶりの出会いを喜ぶものの、チュナは末期がんに冒されていた。「死ぬ前にもう一度だけみんなに会いたい」というチュナの願いを叶えるため、かつての仲間たちを探すことにするが……。
デビュー作の「過速スキャンダル」は、韓国で観客動員数824万人を記録。2作目の「サニー」もヒットし、ベトナムやインドネシアでリメイクされました。
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(画像リンクです)日本版リメイクとして公開されたのが、大根仁監督の「SUNNY 強い気持ち・強い愛」です。シンクロ率90%超え!な日本版は、脚本も大根監督が担当しています。カメラ位置や衣装まで寄せているにも関わらず、いくつかの点は「日本向け」になっていました。
その変更が、映画の印象を大きく変えたような気がするんですよね。
ガールズグループは7人から6人と変更されていますが、主人公の名前は、韓国版では「ナミ」、日本版では「奈美」。そのまま使える名前でよかった。
ここでちょっと脱線。アイドルグループは、センターの取りやすい奇数の方が有利という説があるそうです。韓国の人気グループをみてみると。
「TWICE」9人
「NiziU」9人
一方の日本のグループはというと。
「ももいろクローバーZ」4人
「ハロー!プロジェクト」9人
乃木坂くらい大人数になったら「センター」とか関係なさそうですね……。ただ、映画の中では韓国版の方が「センター」を活かした振り付けだったなと思います。
もうひとつの大きな変更は時代設定です。そのため、「社会的な背景」が正反対になっているんです。
韓国版では1986年が舞台。一方の日本版は1990年代後半です。
韓国の1986年といえば、全斗煥大統領の軍事政権下です。88年のソウルオリンピック開催を間近に控え、経済成長の著しい時代。ですが、街中では民主化を求めるデモが激化していました。
そんな時代の女子高生です。将来への不安と、もっといい生活ができるはずという期待があふれていたのではないでしょうか。
その流れを、ひとつの画面でみせちゃうんです。女子高生同士のケンカと民主化闘争を同じレベルにしちゃうって、すごいことをしちゃったなー。
(画像はIMDbより)
日本版の舞台である1990年代後半は、バブルが崩壊して「失われた20年」が始まったばかり。潰れることはないと思われていた銀行や企業がバタバタと倒れ、このトンネルがどれだけ続くのか社会全体に不安があふれていた。
そんな時代の女子高生です。将来のことよりも、いまの楽しさが一番だったのではないでしょうか。
(画像は映画.comより)
「あなたが一番輝いていた時はいつですか?」
「自分が主人公の人生を生きてる?」
カン・ヒョンチョル監督からの問いかけは、「サニー」のメンバーそれぞれに向けられます。
ダンスコンテストの直前に起きた事故によって疎遠になってしまった仲間たち。ようやく再会を果たす映画のラストは、韓国でも日本でも賛否が分かれました。
わたしはこれ、「ストーリーテラー」としての挑戦なのかなと思ったんです。
ポイントは、韓国版にだけあるエンドロールのイラストです。
日本版のラストとの違いや、ラストを変えたことによるテーマの差が気になるので、2本比べて観るのがおすすめ。
今後の活躍が期待されるカン・ヒョンチョル監督の思惑とは!?
映画「サニー 永遠の仲間たち」 124分(2011年)
監督:カン・ヒョンチョル
脚本:カン・ヒョンチョル
出演:シム・ウンギョン、カン・ソラ、キム・ミニョン、パク・チンジュ、ミン・ヒョリン、ナム・ボラ、キム・ボミ、ミン・ヒョリン、ユ・ホジョン、ジン・ヒギョン、コ・スヒ、ホン・ジニ、イ・ヨンギョン、キム・ソンギョン
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