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“壁の向こう”の人たちに学ぶ、生きる知恵 ドラマ「刑務所のルールブック」 #429


敵は遠くに置かず、近くに置け。

世間知らずな“野球バカ”の選択が、頑なな男の心をとかしてしまうシーンに思わず涙しちゃう。親子の対立、復讐劇、ロミジュリ的な恋愛模様と、テーマが多彩な韓国ドラマですが、もちろん人情劇だってあります。

韓国では2017年に放送されたドラマ「刑務所のルールブック」は、刑務所の中で暮らす人々の交流と再生を描いた人情劇。重そうなタイトルですが、心温まるコメディなんですよね。いまNetflixで配信されています。

☆☆☆☆☆

ドラマ「刑務所のルールブック」
https://www.netflix.com/title/80214406

☆☆☆☆☆

<あらすじ>
メジャーリーグへの進出を目前にしたキム・ジェヒョク。妹を暴漢から守ろうとした行為が過剰防衛とみなされ、実刑判決を受けてしまう。野球しか知らず、“不死鳥”と呼ばれてきたエースピッチャーは、塀の中という未知の世界を、生き抜くことができるのか……。


主演のキム・ジェヒョクを演じたのはパク・ヘス。これまで主に舞台で活躍してきた俳優だそうです。「六龍が飛ぶ」で、李成桂の弟である李之蘭将軍を演じていた人だと、しばらく気がつかなかったくらい。演技に対して、愚直で誠実ならしく、今後も期待できる俳優です。

ドラマの最初の頃は、彼のモッサリとした現実と合わない感じに違和感があったのですが、それがキム・ジェヒョクの「野球バカ」とつながり始めてから、俄然おもしろくなっていきました。

刑務所に送られても、彼はどこまでも「スター選手」なんです。

夜なべして色紙にサインを頼まれたり、世間知らずなところを助けてもらったり。小学生の頃からの友人が刑務官で、ジェヒョクのいる刑務所へ異動して来てくれたこともあって、トレーニングの場を整えてもらったりもしています。

もちろん、そんな特別待遇は、「お肌にカラフルなイラストがある」人たちにとってはおもしろくない存在です。

危険な目にも遭いながら、少しずつ刑務所で“賢く”生活する方法を身につけていきます。

同房となる受刑者たちもくせ者揃い。罪を深く反省している人、身代わりになった人、えん罪を晴らしたい人。彼らとの交流が、ユーモアたっぷりに描かれます。シラけた場面で流れる「ピヨピヨ」という効果音は、「応答せよ」シリーズの演出家シン・ウォンホの特徴かも。

“壁の向こう”なんて、誰も来たくて来たわけじゃありません。それでも、誰しも“壁の向こう”に落ちる可能性はある。

わたしは「反省はするけど、後悔はしない」をモットーにしてきましたが、もし“壁の向こう”に行くことになったら、平常心を保てる自信はないです。

でも、起きたことをグジグジ考え続けるより、いま目の前にある現実を乗り越えることって、とても必要なスタンス。毎回、ホロっとするシーンや胸を打つセリフがあって、現実の生活にも活かせそうだなと感じました。

主人公のキム・ジェヒョクが“不死鳥”と呼ばれたのは、彼がプロ試験に落ち、育成選手としてキャリアをスタートさせたからです。刑務所生活を送っても、マウンドに戻ってきてくれると誰もが信じていました。

それが。

「ぼく、野球辞めます」

その一言で、すべてがひっくり返ってしまいます。そして、“不死鳥”の本当の意味も。

自分のことで精一杯だった受刑者が、他人に手を差し伸べられるようになった時には、ちょっとウルッときました。

一番の敵も、一番の味方もホントは自分。すべてをハッピーエンドにしない、韓国ドラマらしい展開も味わえるドラマです。


ドラマ情報「刑務所のルールブック」tvN 全16話(2017年)

監督:シン・ウォンホ

脚本:チョン・ボフン

出演:パク・ヘス、チョン・ギョンホ、クリスタル、チェ・ムソン、パク・ホサン、イ・ギュヒョン

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