スキップしてメイン コンテンツに移動

嫉妬か、憧れか!? 王の寵愛を巡るデザイナー対決 映画「尚衣院 サンイウォン」 #563


王様のパンツって、そうなっていたのかー!!!

威厳と賢明さと権威の象徴である、朝鮮王朝の王様。その装束は「龍袍(ヨンポ)」と呼ばれています。第4代国王の世宗以降は、五爪の龍が刺繍されるようになりました。

(画像はKMDbより)


映画やドラマでは豪華な衣装や、狩猟用の衣装などを見ることができますが、この、下が、どうなっているのか。

気になりませんか?

博物館などに展示されているのは、もちろん華やかな上掛けだけ。着物を着るときの「長襦袢」的な「下着」は見たことがあるものの、これはいわゆる「パンツ」とは違います。

そんな下世話な興味を満たしてくれる映画が「尚衣院 サンイウォン」です。いえ、ホントはデザイナーの世代交代を巡る悲劇を描いた映画です。この映画に、出てくるんです、王の「パンツ」が! 長年の疑問が解けたので、思わず強調したくなってしまいました。

映画の主役は、“衣装”。ハン・ソッキュとコ・スの新旧デザイナー対決は、サリエリとモーツァルトの確執を彷彿させるものです。

☆☆☆☆☆

映画「尚衣院 サンイウォン」
https://amzn.to/35mgQ4d

☆☆☆☆☆

<あらすじ>
王室の衣服を作る部署、尚衣院を取り仕切るドルソクはその功績が認められ、半年後には両班(貴族)となることが約束されていた。ある日、王の衣服を誤って燃やしてしまった王妃は、巷で天才仕立師として話題を集めていたゴンジンの存在を知り、王宮入りを命じる。王妃の美しさに心奪われたゴンジンは才能を発揮させ、たちまち王宮で活躍するように。しかし、規則と伝統を重んじるドルソクは、ゴンジンが生み出す革命的デザインに危機感を抱くようになり……。


王に信頼され、あと少しで貴族の称号をもらえるという男・ドルソクを演じるのは、名優ハン・ソッキュ。斬新なデザインで人々を虜にしてしまう男・ゴンジンを演じるのは、愛嬌たっぷりなイケメン俳優コ・ス。

(画像はKMDbより)

アメリカで映画を学んだイ・ウォンソク監督にとっては、これが3本目の映画です。パク・シネやユ・ヨンソクら若手俳優を起用。ひょうきんでお調子者な役人としてマブリーことマ・ドンソクも出演しています。

荘厳な王宮絵巻と地道なもの作りの現場をギュギュッととりまとめました。

劇中、特に示されているものはありませんが、「母の身分が低かった」「兄から王位を引き継いだ」というセリフがあることから、ユ・ヨンソク演じる王は“英祖”をイメージしているのだと思われます。


重臣たちから蔑まれ、地位を脅かされている王にとって、王妃との悲劇には思わずウルッときてしまうのですが。

やっぱり新しい衣装のデザインに悩むふたりの匠の対決がおもしろい。創造の広がりをファンタジックに演出したシーンも夢がありました。

思わぬ形でデザイン対決をすることになってしまったドルソクとゴンジンのふたりは、頭を悩ませます。ひとりは、着る人を笑顔にすることを考えて頭を悩ませる。もうひとりは、負けないことに必死になる。


この憤りは、嫉妬のせいなのか、軽蔑のせいなのか。


この劣等感は、身分のせいなのか、無邪気への憧れのせいなのか。


この哀しみは、敗北感のせいなのか、焦燥感のせいなのか。


自分とは違う、新しい才能に出会い、その才能を愛しつつ、湧き上がる想い。デザイナー同士だからこそ通じ合う、喜びとリスペクトの気持ちもありつつ、自分の手から“成功”がこぼれ落ちそうなとき。冷静でいられるアーティストはいないでしょう……。

華やかな衣装に隠された秘密に、芸術家の業を感じました。


映画情報「尚衣院 サンイウォン」127分(2014年)

監督:イ・ウォンソク

脚本:イ・ビョンハク

出演:ハン・ソッキュ、コ・ス、パク・シネ、ユ・ヨンソク、マ・ドンソク



コメント

このブログの人気の投稿

まったく新しい映画体験に思うこと 4D映画「ハリー・ポッターと賢者の石」 #484

映画の公開20周年を記念して、「ハリー・ポッターと賢者の石」が初の3D化されました。体感型の4DXやMX4Dで上映されています。 映画を「配信」するサービスが増え、パソコンやスマホでも映画が観られるようになったいま、「劇場で観る楽しみ」を、最大限与えてくれる上映方法だと思います。 でも、なぜか、4D映画ってモヤッとしてしまう……。 クィディッチゲームの疾走感や、チェスの駒が破壊されるシーンの緊迫感は倍増されていたので、こうした場面の再現率、体感度は以前に比べてかなり上がってきたように感じます。 (画像はIMDbより) それでも、稲光、爆風や水滴など、ストーリーとのズレを感じてしまう。 むかし観た4D映画では主人公が「GO! GO!」と走り出すシーンで、スポットライトがピカピカと点滅していたんですよね。わたしの頭の中で、「パラリラ パラリラ~」という暴走族のバイクの音が再生されてしまいました。 そうしたストーリーとは関係のない効果は減り、洗練されてきた感じはするものの、やっぱりスッキリしないものは残るのです。 4D映画はなぜモヤるのだろうと考えていて、「誰の目線で映画を観ればいいのか混乱する」からかもしれないと気がつきました。 ここで、あらためて4D映画について説明しておきます。 4D映画とは、映画に合わせて光や風などの演出が施された、アトラクション型の「映画鑑賞設備」のことです。 2D映画でも、4D映画の設備で上映されなら、4D映画になります。今回わたしが観た「ハリー・ポッターと賢者の石」は、3D映画の4D上映でした。 日本で導入されている4Dシアターは2種類。韓国のCJ 4DPLEX社が開発した4DXと、アメリカのMediaMation社が開発したMX4Dです。わたしは今回、TOHOシネマズで観たのですが、導入しているのはMX4Dのほうでした。サイトによると、体感できる環境効果はこちら。 特殊効果 ・シートが上下前後左右に動く ・首元、背後、足元への感触 ・香り ・風 ・水しぶき ・地響き ・霧 ・閃光 なるほど、のっけからシートがジェットコースターのように揺れ、風が吹きつけ、地響きも、ふくらはぎに礫が当たるような感触も体験できました。 人間社会で虐待されながら育ったハリー・ポッターは、ハグリットと出会うことで初めて魔法の世界に触れることになります。 ホグワーツ魔

キャラクター名“画数グランプリ” 優勝したのは!?「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」 #515

劇場版「鬼滅の刃」が話題ですね。 校閲ガールであるわたしにとって、気になるのはストーリーでも、煉󠄁獄さんのかっこよさでも、興行収入でもありません。 漢字が多すぎ!!! ってことです。 たぶん、すべての校閲ガールや校閲ボーイは、トラウマとなる漢字を持っています。変換ミスや同音異義語を見落とした経験を持っているから……。一度やってしまうと、その漢字を見ただけで「ヒッ!」となります。特に画数の多い漢字はつらいんです。 なのに、 「鬼滅の刃」の登場人物は、全員画数多過ぎでしょ!!! 劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編公式サイト 「その刃で、悪夢を断ち斬れ」劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編 絶賛公開中!   主人公は竈門炭治郎。その妹は禰豆子。鬼殺隊仲間は、我妻善逸、嘴平伊之助。「鬼殺隊」という名前からすでに怖そうですよね……。ちなみに一度で変換できなくて、「おに」「ころし」「たいちょう」と入力したので、あの日本酒を思い出しました。 清洲城信長 鬼ころしパックが【全国燗酒コンテスト2020】お値打ち熱燗部門 金賞受賞(2年連続受賞)   そんな「鬼殺隊」最強の剣士・煉󠄁獄杏寿郎さんはやはり、漢字の難しさも最高レベル。さすがは炎の呼吸を使う炎柱です。たぶん「隊長」みたいな役職の人です。 今回の映画の敵は魘夢と猗窩座というヤツで、これまで炭治郎たちが戦ってきた鬼よりはるかに強いヤツらしい。文字だけ見ても強そうですもんね。その鬼を束ねている悪の総帥が鬼舞辻無惨。 読み方分かりませんね……? 手書きできませんね……? 「鬼滅の刃」漢字検定1級をとれたらすごいと思います。このアニメとのコラボグッズは、校正するの、大変そう……。 そこで、緊急企画 「画数グランプリ」を開催 したいと思います! 「漢字辞典online」というサイトにて、各キャラクターの名前の画数を確認してみました。 kanji.jitenon.jp 「竈」という漢字を検索すると、こんな感じで表示されます。 この「画数」を足し上げていくのです。さて、優勝したのは!? (表記は公式サイトを基にしています) * * * 第3位:鬼舞辻無惨 54画 第2位:竈門炭治郎 55画 僅差です! 「魘夢」なんて、「魘」だけで24画もありました。これはぶっちぎるのでは……と思いきや、2文字という名前が仇に。けっこうしぶとい強いヤツでしたが、こ

時を越えた武将の恋と悲劇 「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」 #265

1990年代前後に放送されたトレンディドラマといえば、浅野温子、浅野ゆう子の「W(ダブル)浅野」や、三上博史、柳葉敏郎、陣内孝則、江口洋介、織田裕二、吉田栄作ら、美男美女による恋物語です。 流行の最先端の職業、オシャレな街や、素敵なインテリアの部屋に暮らす主人公たちには憧れました。東京って日本じゃないんだと思ってましたよ。 韓流ブーム全盛期の頃の韓国ドラマは、もうちょっと泥臭い設定でした。 親に捨てられるとか、貧乏のどん底生活とか、家の奴隷のような嫁、強父に逆らえない息子、裏切りを乗り越えて復讐することが生きる目的になっているような、そんな設定が多かったんですよね。 韓国社会自体が成熟したせいか、設定は大きく様変わり。日本のトレンディドラマのような等身大といえばそうだけど、どちらかというと非現実的な設定やお仕事ドラマが増え、それと共に高視聴率の番組も減ってしまったように思います。 そんな中で2016年から放送が始まった「トッケビ~君がくれた愛しい日々~ 」は、ケーブルテレビとしては異例の高視聴率を記録。主演のコン・ユは、百想芸術大賞などの賞を総なめにしました。 900年の時を行ったり来たりしつつ、高麗時代の武将の恋と悲劇を描いたラブコメディです。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」 DVD (画像リンクです) Netflix https://www.netflix.com/title/81012510 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 高麗最強の武士キム・シン(コン・ユ)は、王の嫉妬から逆賊とされ、命を落とす。しかし、不滅の人生を生きる呪いをかけられて蘇ることに。約900年後、女子高生のウンタク(キム・ゴウン)と知り合う。幽霊が見える彼女は、キム・シンをトッケビだと見破り、自分は「トッケビの花嫁」だと主張するのだが……。 「トッケビ」とは、朝鮮半島に伝わる精霊や妖怪のことです。辞書には「小鬼、お化け」と出ているのですが、「鬼」と何が違うねん、「幽霊」との違いはなんや?というツッコミはなしで読んで欲しいのですけど。 「トッケビ」は大衆文化の象徴としてキャラクター路線が進んだそうです。これをモチーフに、壮大なドラマを作り上げたのが、脚本家のキム・ウンスクです。 日本のトレンディドラマのブームを築いた脚本家として名前が挙がるのが、坂元裕二や野島伸司でしょう。同