映画「スター・ウォーズ」を評して「全宇宙を巻き込んだ壮大な親子ゲンカ」という言葉があります。いや、ホント、その通りですよね。
父と息子の葛藤は多くの物語のテーマになっています。韓国ドラマでよく扱われるのは「英祖」とその息子「思悼世子」の対立です。
「英祖」は朝鮮王朝時代の名君として知られ、在位期間も52年と同王朝でもっとも長い。でも、母が側室だったということもあり、家臣には軽んじられる、対立する派閥からは命を狙われる、ということもあったようです。
彼が生まれる前、父と母の出会いと恋を描いたドラマが「トンイ」です。
「英祖」と、孫の「正祖」の恋を描いたドラマが「イ・サン」。
英祖ー思悼世子ー正祖の悲劇に切り込んだ映画が「王の運命(さだめ) 歴史を変えた八日間」。ほとんど時代劇に出演していないソン・ガンホが「英祖」を、ユ・アインが「思悼世子」を演じています。
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映画「王の運命(さだめ) 歴史を変えた八日間」
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朝鮮第21代国王・英祖(ヨンジョ)は、息子・思悼(サド)を王位継承者にし、王の代理を務めるように命令する。しかし、自分のつくった制度を改革しようとする息子に憤りをつのらせる。期待を裏切られたと感じた英祖は、思悼を米びつに閉じ込めてしまう。
「スター・ウォーズ」は「全宇宙を巻き込んだ壮大な親子ゲンカ」でしたが、こちらは「王位をかけた壮大な親子ゲンカ」。とにかく息子を全否定する父なんです。
英祖自身、出自のこともあって努力に努力を重ねた人ではあるし、実際に頭がよかったそうです。100点のテストしかとったことない人が、95点のテストを見てガッカリしちゃうようなもんでしょうか。
十分がんばってるやん!!!
という言葉は届かず、息子へのガッカリだけがつのる父。父を失望させていることに気づいてグレる息子。
なぜ、ここまでの対立になったのか。
なぜ、謀反を疑うことになったのか。
あまりにも有名な歴史エピソードを、ていねいに追っています。父子対立の話ではありますが、仕事を「任せる」のダメな見本のようでもあります。
「パラサイト 半地下の家族」で、世界的に有名になったソン・ガンホ。これまでは庶民的でユーモラスな役が多く、意外にも初めての時代劇は2013年に公開された「観相師」でした。それが今度は「王様」役。心配する声もあったようですが、クレイジーで好色な英祖という、新しい姿を見せています。
映画「観相師」
https://note.com/33_33/n/n2bfb505d2999
父に反発し、グレる息子の思悼世子を演じたのはユ・アイン。映画「ベテラン」での好演と、この映画によってキャリアを伸ばしました。
実は、ユ・アインは「英祖」の父である「粛宗」をドラマで演じています。この人のダメ男ぶりが、歴史を狂わせたように感じちゃうんですよね。
「王の運命」で、ユ・アイン演じる「思悼世子」は、父に理解されない苦しみを、芸術に向けます。そしてどんどん堕落していき、やっぱりダメ男になってしまう。
彼の熱演は、下手したら大けがにつながる事故も起こしています。
劇中、父の英祖から「自決しろ」と命令された思悼世子。座り込みをしながら、石に頭を打ちつける場面があります。本来は石にスポンジを重ねて、そこに頭をつけることになっていたのですが、スポンジが小さすぎてズレてしまったのだそう。
負傷したにもかかわらず、演じ続けるユ・アイン。額から血を流す様子を見て、おかしいと気づいたのはソン・ガンホだったそうです。熱血俳優同士だからこそ感じる呼吸だったのかも。
「わたしの望みは、お父さんのあたたかいまなざし、やさしいひと言だけでした」
尊敬する父のために、尊敬する父によって死ぬことになった息子の想い。胸に重く、ズシリとくる映画です。
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