スキップしてメイン コンテンツに移動

自らの手で運命を切り開いた国母の生涯 ドラマ「トンイ」 #565


韓国時代劇の巨匠と呼ばれ、アジア全土に韓国時代劇ブームを巻き起こした人物といえば、イ・ビョンフン監督です。多くの場合、身分が低く、歴史の中で疎外されてきた人物、特に女性を主人公に据えたドラマを作っています。

著書の『韓流時代劇の魅力』には、こんな言葉も。

“一つのドラマが終わるたびに「もうこれで終わりにしよう」と思うのに、決して満たされることのない渇望が私を放っておかない。”


映画スターだったイ・ヨンエを主演に迎えた「宮廷女官チャングムの誓い」、ハン・ジミンの美しい泣き顔に打たれた「イ・サン」などのドラマを手掛けた監督が、次に目を向けたのが、“英祖”の母である“崔淑嬪”でした。


“崔淑嬪”は賤民出身で、下女として宮廷の下働きをしていました。第19代国王・粛宗(スクチョン)に見初められ子をなすも、宮廷には居場所がありません。しかも王妃の座を巡る争いも絶えず、後継者だった景宗(キョンジョン)が早世してしまう。

そして棚ボタのようにやってきた、わが子が王位に就くという行幸。王宮の外での、母との平凡な暮らしが、“英祖”を聖君にしたともいえます。

ドラマ「トンイ」は、そんな“崔淑嬪”の生涯を追ったドラマです。

「チャン・オクチョン」→「トンイ」→「イ・サン」へと続く、壮大な歴史物語が、このドラマによってつながりました。

☆☆☆☆☆

ドラマ「トンイ」
https://amzn.to/3woWQtQ

☆☆☆☆☆

<あらすじ>
1680年3月初旬の深夜、司憲府大司憲チャン・イクホンが何者かに殺害される。事件の容疑者にされたチェ・ヒョウォンと息子のチェ・ドンジュは、真犯人を探る中で罠にはまって捕縛。部下共々皆殺しにされてしまう。追っ手を逃れたヒョウォンの娘・トンイは、身を隠すために宮殿の掌楽院に入り、下働きをすることに。幼いころ、罠をしかけた人たちの手信号を覚えていたトンイは、その女性が禧嬪(オクチョン)であることに気づき……。


最近の韓国ドラマはシーズン制が多くなり、ほぼ16話の構成になっています。ただし、1話が映画並みの長さなのですが。笑

イ・ビョンフン監督が作った時代劇シリーズは話数が長く、「トンイ」は全60話あります。

これだけの長さを引っ張っていくのですから、メリハリが必要になりますよね。そこで冒頭に殺人事件を入れてミステリー要素を加えたり、掌楽院という王宮の音楽を担当する部署を入れたり、と工夫したそうなのですが。

受けなかった……。

掌楽院の先輩役イ・ヒドとイ・グァンスコンビの掛け合いなんかはおもしろかったですけどねー。音楽といっても民族楽器ですし、しかも画が地味。しかたなく、第5話からはストーリーをガラッと変えたそうです。

イ・ビョンフン監督自身は先ほどの著書の中で、時代劇の発声に苦労したものの、22歳の若さで主演を務めたハン・ヒョジュを「よくがんばった」とねぎらっています。

“ただ一つ、演技力だけが足りなかったが……。”

思わず笑ってしまった。親族というバックがあったからこそ王妃になれたオクチョンと、自らの手で運命を切り開いたトンイ。この差は大きくて、これまでは

トンイ:善 vs. チャン・オクチョン:悪

という構図で描かれてきたそう。圧倒的な存在感をほこるキャラクターを前に、正義を盾に突っ走るタイプの「トンイ」には、若さのエネルギーを借りるしかなかったのではないかと感じます。

王族と庶民のギャップも感じられるドラマです。現在、Amazonプライムで配信されています。

☆☆☆☆☆

ドラマ「トンイ」
https://amzn.to/3wjXSas

☆☆☆☆☆


ドラマ情報「トンイ」MBC全60回(2010年)
演出:イ・ビョンフン
脚本:ユン・ソンジュ
音楽:イム・セヒョン
出演:ハン・ヒョジュ、キム・ユジョン、チ・ジニ、イ・ソヨン、ペ・スビン


コメント

このブログの人気の投稿

『コロナ時代の選挙漫遊記』#839

学生時代、選挙カーに乗っていました。 もちろん、なにかの「候補者」として立候補したわけではありません。「ウグイス嬢」のアルバイトをしていたんです。候補者による街頭演説は、午前8時から午後8時までと決まっているため、選挙事務所から離れた地域で演説をスタートする日は、朝の6時くらいに出発することもあり、なかなかのハードワークでした。 選挙の現場なんて、見るのも初めて。派遣される党によって、お弁当の“豪華さ”が違うんだなーとか、候補者の年齢によって休憩時間が違うんだなーとか、分かりやすい部分で差を感じていました。 それでも、情勢のニュースが出た翌日なんかは事務所の中がピリピリしていることもあり、真剣勝負の怖さを感じたものでした。 「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちれば“ただの人”だ」とは、大野伴睦の言葉だそうですが、誰だって“ただの人”にはなりたくないですもんね……。 そんな代議士を選ぶ第49回衆議院議員総選挙の投票日が、今週末10月31日に迫っています。   与党で過半数を獲得できるのかが注目されていますが、わたしが毎回気になっているのは投票率です。今回は、どれくらい“上がる”のかを、いつも期待して見ているのですが、なかなか爆上がりはしませんね……。 ちなみに、2017年10月に行われた第48回衆議院議員総選挙の投票率は、53.68%でした。 『コロナ時代の選挙漫遊記』の著者であり、フリーライターの畠山理仁さんは、選挙に行かないことに対して、こう語っています。 “選挙に行かないことは、決して格好いいことではない。” 全国15の選挙を取材したルポルタージュ『コロナ時代の選挙漫遊記』を読むと、なるほど、こんなエキサイティングな「大会」に積極的に参加しないのはもったいないことがよく分かります。 ☆☆☆☆☆ 『コロナ時代の選挙漫遊記』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 昨年行われた東京都知事選で、「スーパークレイジー君」という党があったのをご存じでしょうか? またオモシロ系が出てきたのかしら……と、スルーしてしまったのですけれど、本を読んで、とても真剣に勝負していたことを知りました。300万円もの供託金を払ってまで挑戦するんですもん。そりゃそうですよね。 この方の演説を、生で見てみたかった。もったいないことをしてしまった。 こんな風に後悔しないで済むように、畠...

人生をやり直したい男の誤算が招くコメディ 映画「LUCK-KEY」 #298

名バイプレーヤーとして知られる俳優が、主演を務めるとき。その心中はドッキドキでしょうね……。 映画「ベテラン」や「タクシー運転手 約束は海を越えて」で味のある演技を披露していたユ・ヘジンにとって、初めての単独主演映画が「LUCK-KEY ラッキー」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「LUCK-KEY」 https://amzn.to/3watGNT ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 売れない貧乏役者のジェソンは、将来に絶望して自殺を試みます。が、大家の侵入によって失敗。せめて身ぎれいになってからにしようと銭湯に行くことに。石けんを踏んで転倒した男の鍵をすり替え、男のフリをして暮らそうとしますが……。 原作は内田けんじ監督のコメディ「鍵泥棒のメソッド」。リメイク版の試写会で、観客が提案したタイトルが「LUCK-KEY」で、それがそのまま使われることに決まったのだそう。 ☆☆☆☆☆ 映画「鍵泥棒のメソッド」 https://amzn.to/3jEEotv ☆☆☆☆☆ ユ・ヘジンが演じるのは記憶喪失になった男「ヒョヌク」なのですが、ロッカーの鍵をすり替えられてしまったため、周囲には貧乏役者だと思われています。助けてくれた救急隊員の実家である食堂で働くことになりますが、刀さばきはすごいし、客さばきもうまい。だけど彼自身は俳優として成功し、親孝行しなければとマジメに努力します。 (画像はKMDbより) 一方、鍵をすり替えて逃げ出したジェソンの方は、豪勢な「ヒョヌク」の家にビックリ。贅沢三昧に自堕落に暮らし始めますが、隠し部屋で多くの銃を発見してしまいます。 実は「ヒョヌク」は、100%の成功率を誇る伝説の殺し屋だったのです!!! というお話。とにかくおかしな方へ、おかしな方へと話が転がっていく、コメディです。 (画像はKMDbより) 驚くのはユ・ヘジンの身体能力の高さ。趣味は登山と日曜大工だそうですが、いや、すごすぎやろというくらい、見事なアクションをみせています。 映画では、どう見てもおっちゃんなのに身分証は20代だったり、大部屋俳優から出世しちゃったり。 記憶は失っても、努力の仕方は覚えてるんですよね。 逆に、鍵をすり替えたジェソンは、夢はでっかく、だけど行動力はゼロという青年です。ふたりの対照的な生き方は、入れ替わっても続いてしまう。「幸運の鍵」をつかむには、という部分で、ちょっと身に...

映画「新しき世界」#293

「アメリカに“ハリウッド”があるように、韓国には“忠武路”という町があります」 第92回アカデミー賞で 「パラサイト 半地下の家族」 が脚本賞を受賞した時、ポン・ジュノ監督と共同で脚本にあたったハン・ジュヌォンは、そう挨拶していました。「この栄光を“忠武路”(チュンムノ)の仲間たちと分かち合いたい」。泣けるなー! ハン・ジュヌォンのスピーチ(1:50くらいから) アメリカにハリウッドがあるように、韓国には忠武路というところがあります。わたしはこの栄光を忠武路の仲間たちと分かち合いたいと思います。ありがとう! #アカデミー賞 https://t.co/LLK7rUPTDI — mame3@韓国映画ファン (@yymame33) February 10, 2020 1955年に「大韓劇場」という大規模映画館ができたことをきっかけに、映画会社が多く集まり、“忠武路”(チュンムノ)は映画の町と呼ばれるようになりました。 一夜にしてスターに躍り出る人や、その浮き沈みも見つめてきた町です。 リュ・スンワン監督×ファン・ジョンミンの映画「生き残るための3つの取引」での脚本が評価されたパク・フンジョン。韓国最大の映画の祭典で、最も権威のある映画賞である「青龍映画賞」で、彼自身は脚本賞を受賞。映画も作品賞を受賞し、一躍“忠武路”の注目を浴びることに。 そうして、自らメガホンを取った作品が「新しき世界」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「新しき世界」 Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 韓国最大の犯罪組織のトップが事故死し、跡目争いに突入。組織のナンバー2であるチョン・チョンは、部下のジャソンに全幅の信頼を寄せていますが、彼は組織に潜入した警察官でした。この機会にスパイ生活を止めたいと願い出ますが、上司のカン課長の返事はNO。組織壊滅を狙った「新世界」作戦を命じられ……。 あらすじを読んでお分かりのように、思いっきり「ゴッドファーザー」と「インファナル・アフェア」のミックスジュース特盛り「仁義なき戦い」スパイス風味入りです。 無節操といえばそうですけれど、名作のオマージュはヘタをすると二番煎じの域を出なくなっちゃうと思うんです。よいところが薄まっちゃうというか。人気作の続編が、「あれれ?」となるのもそうですよね。ですが。 名作と名作を合わせたら、一大名作が...