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料理にまつわる気持ちをギュッとフリージング 『わたしを空腹にしないほうがいい』 #598


あー、なんてみずみずしくて、おいしそうなんだろう。

トマト捥ぐしあわせがはちきれそうだ
 『わたしを空腹にしないほうがいい』所収


盛岡の歌人・くどうれいんさんのエッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』は、俳句+食を巡る日々の記録になっています。言葉にどれも透明感があって、切なくて、恋しくて、みずみずしいトマトのような一冊です。

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『わたしを空腹にしないほうがいい』
http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000022854/

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「トマト捥ぐ」は、「トマトもぐ」と読むようです。収穫の時の青くさい匂いとか、汗のジメッとした感じや、強い日射しまで感じられる句ですよね。

盛岡生まれのくどうさんは、盛岡を拠点として活動されている方です。自費出版した『わたしを空腹にしないほうがいい』を見た書店「BOOKNERD」の店長さんが、改訂版としてあらためて出版したそう。わたしが手に入れたのもこちらです。

タイトルに惹かれて購入したのですが、買ってよかった!と思った一冊でした。なぜなら。

お腹が空くと不機嫌になるという一文に、めちゃくちゃ共感したから(つくづく食いしん坊やな……)。

はつなつを出刃包丁ではね返す
『わたしを空腹にしないほうがいい』所収


一匹まるごと鯛を手に入れた時の歌です。まな板の上の鯛を前に途方にくれたり、やけくそになってコンビニで甘いものを買ったり。時には「いのちをいただく」ことに打たれすぎて、食べられなくなってしまうことも。


家族の思い出、失恋の思い出、友だちと笑ったこと、ひとりでガスの火を見つめていたこと。食べることは、生きることだけど、料理には、人生が詰まっているように感じます。

そら豆はすこやかな胎児のかたち
『わたしを空腹にしないほうがいい』所収


俳句とエッセイには、すべて日付が振られています。ある年の「6月」に、こんな風に世界を見ている人がいたんだなと思う。食べ物の記録ともいえるし、料理を前にした瞬間の気持ちをフリージングした「日記」ともいえます。

くどうさんもFRIDAYのインタビューでこんな風に語っていました。

「私にとって言葉をつづることは、ある瞬間をぎゅっとまとめて手元に残しておけるものです。社会という大きな物語に自分自身が消費されないためのものでもあります。私は人生の手綱を自分で握れるように日常に起こることを書き留めておきたいんです」


読んでいると、思わず料理がしたくなるのです、不思議なことにね。

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