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『100案思考』#670


発想術の本は世の中にたくさんありますが、アイデアはいったいどうやって選ばれ、世の中に出るのか。これが、長年の疑問でした。

コピーライターは新人のころ、「100本ノック」をすると聞いたことがあります。でも、本当に100案出せたとして、いい・悪い、使える・使えないを決める基準はあるのか。その「選び方」を知りたい。

その疑問に答えてくれたのが、橋口幸生さんの『100案思考 「書けない」「思いつかない」「通らない」がなくなる』でした。

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『100案思考』
https://amzn.to/3fd9Tab

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著者の橋口さんはコピーライターを生業にされている方で、これまでにも文章術の本を出版されています。

『言葉ダイエット』


『言葉ダイエット』刊行記念トークイベント
https://note.com/33_33/n/n2838e0bdedbc

今回の本は「アイデア」に関わる内容ということで、出版前からとても期待していました。そして読んでみて。


期待以上の満足度!!!


お値段以上ニッコリ!!!


アイデア」を巡る誤解や、「思考の壁」の突破法、そして「最高の1案」の選び方が紹介されています。

おもしろいのは「実践編」です。「デリバリー用の新メニューのアイデアを開発する」というお題から、実際に100個の案を創出。絞り込みを行うまでの、「プロの技」が開陳されているのです。


わたしは校閲ガールの仕事をしつつ、会社の研修の企画立案を担当しています。今年の1月に実施した勉強会のテーマがまさに、「アイデアの捨て方」でした。このときに説明してもらった(講師は社内のプランナー)基準はこちらでした。

<アイデア選びの3要素>
アテンション → 興味をひけるか
パーセプション → 納得度・共感度が高いか
アクション → 行動まで結びつくか


でも、まだまだ抽象的な基準だったんですよね。参加者からは「なるほど!」という感想をもらったものの、もうひと工夫したいなと思っていたのでした。そこに、ドンピシャで当たったのが『100案思考』。

中でもとても共感したのが、「好き嫌い」で選ばないという話です。
“人気クリエイターのアイデアはよくて、新人のアイデアはつまらない。そんなワケないですよね。しかし、人格とアイデアの区別ができない人は、しばしばこういう判断をします。”

人格とアイデアの区別ができない。ちょうどこれに困っておりました……。

「自分的最高の1案」にこだわるあまり、フィードバックにまったく耳を貸さない人や、フィードバックを攻撃と受け止めて逆上する人もいます。アイデア出しの場だけではありません。

校正という仕事柄、人の書いた原稿に赤字を入れるときは、とても緊張します。細心の注意を払って根拠を集め、おずおずと指摘したところ「挑発は止めてください!!!」と叫ぶ人もいるんですよ。世の中には……。(以上は愚痴)

『100案思考』で橋口さんが指摘されているように、自分と仕事を切り分けた方が、自由に、楽しく、発想を広げられるのだと思います。

そして、100案は「最高」の100案でなくてもよいという点にも注意が必要です。

最初から「最高」の1案を出そうとしてしまうのは、「渾身の○○」という言葉が流行りすぎてしまったからではないか。そんな気がしてしまった。アイデア出しの段階でハードルを上げてしまうと、苦しむのは自分ですよね……。

100個もあれば、捨てることにも(ちょっと)迷いがなくなるように思います。コピーライターの大御所・谷山雅計さんは、「何十年もやってたら、100本の手前で方向性が分かるようになった」と仰っていましたが、トーシローのわたしなんかは、とりあえずの目安としてやっぱり「100」を目指して「考える」を突き詰めたいな。

もしかしたら、自分の仕事はクリエイティブな業務じゃないし、とか、広告には関係ない業界だし、という方もいるかもしれません。

でもね。

「アイデア出しに三振はない」「仕事は楽しく。遊びは厳しく」などなど、日々の仕事の励ましになる言葉もいっぱいなのです。

予算度外視で、大きく風呂敷を広げられたときの万能感と、現実化へのステップを同時に見せてくれる一冊です。

そして、今日5月13日の夜19時から、代官山 蔦屋書店主催の出版記念イベントがオンラインで開催されるそうです。トークのお相手は、『読みたいことを、書けばいい』の著者・田中泰延さん。『100案思考』の中にも登場されていますよ。

イベントの詳細はこちらです。

<代官山 蔦屋書店 イベントサイト>
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/19672-1915230416.html



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