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『言ってはいけない 残酷すぎる真実』#701


幸せになりたい。ほとんどの人にとって共通する願いのはずなのに、世界は、文明は、知性は、人を幸せにする方向に向かっているのでしょうか。

そして、本当に“努力”で幸せになれるのかしら?

「この社会にはきれいごとがあふれている」と語るのは、作家の橘玲(たちばな あきら)さん。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』は、不都合な事実を認めた上で、少しでも合理的な世の中に向かおうとする本です。

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『言ってはいけない 残酷すぎる真実』
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いまの時代、「最後まであきらめなかった人間が成功するのだ」と、“努力”を推奨する声にあふれていますが、でも本当に“努力”は報われるのか。というか、“努力”だけでよいのか。

「残酷すぎる真実」は、文字通り「残酷すぎる真実」を突きつけてきます。外見、教育などが学歴や年収、犯罪歴に及ぼす影響には、ちょっとゾッとした……。

ほとんどの場合、“努力”は“遺伝”に勝てないのです。

とても納得がいったのが、子どもの人格について語ったIII章の「子育てや教育は子どもの成長に関係ない」でした。

ジュディス・リッチ・ハリスという在野の心理学者の研究を基にした論で、ハリス自身は子育て神話を「科学的根拠のないイデオロギー」と断じているのだそう。生まれた子どもにはもちろん、親の遺伝子が引き継がれているのですが、性格をより形作るのは友達関係の中なのだそう。きょうだいで性格が違うのは、こうしたところにあるようです。

『FACTFULNESS』という本にも書かれていましたが、世界はどんどん安全になっています。戦争が続いた20世紀に比べて、「国家による大量殺人」が減っている。これはすなわち、人間の理性は、平和と繁栄を大切にする方に向けられる、ということを意味しています。

知性をよりよい方向に活用するためにも、「残酷すぎる真実」にも、「不都合な真実」にも、目をそらすことはできないのですね。その点、この本は幸せに生きるための「処方箋」にすることもできると思います。

身もふたもない現実に絶望しそうになったら、ふろむださんの『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』もあわせてどうぞ。


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