なつかしい匂いのする映画。それがユン・ダンビ監督の長編デビュー作「夏時間」でした。
夏休みのあいだ、祖父の家で過ごすことになった、姉と弟の目線で描かれる“日常”の風景。大きな事件が起きるわけでもなく、魔法使いや死神が登場するわけでもない。静かに、静かに、大人への不信と不満が、じゅくじゅくとつのっていって……。
爆発した瞬間、泣いちゃった。
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「夏時間」
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父親が事業に失敗したため、祖父の家に引っ越して来たオクジュとドンジュの姉弟。離婚寸前の叔母までやって来て、3世代が一緒に暮らすことに。具合の悪い祖父、偽物のスニーカーを売る父、自分たちを捨てた母に会いに行く弟。オクジュのイライラはつのっていき……。
これが長編デビュー作となるユン・ダンビ監督は、1990年生まれの弱冠31歳。近年、韓国映画では女性の映画監督デビューが続いていて、また新たな☆がやってきたなーと感じます。
この映画は第24回釜山国際映画祭で、市民批評家賞など4部門を受賞。ノッテルダム国際映画賞でもグランプリに輝きました。監督の「小津安二郎ファン」という言葉は、カメラワークからも感じられます。
そして着いたのは、古いけど、広いお庭のある大きな家です。家庭菜園には、とうがらしやトマトが植わっていて、ぶどうまである。そこに次々と転がり込んでくる家族たち。
(画像は映画.comより)
めちゃくちゃ平和な風景だけど、これって……「パラサイト 半地下の家族」では!?
(画像は映画.comより)
実は最初のシナリオは、「パラサイト」のようなブラックコメディ風だったのだそう。スタッフの意見も聞いて練り直し、そして舞台となった家と出合ってから、さらに書き直して完成させたとのこと。
この映画は子役ふたりの演技もすばらしいのですけれど、主役はおじいちゃんの“家”だといえます。
仁川にある、実際に老夫婦が住んでいる“家”を借りて、撮影。古びた手すりや、無造作に置かれたモップなど、生活感があふれる“家”自体に、「ホンモノ感」がとても伝わってきます。
(画像は映画.comより)
父と、その妹である叔母の成長をみてきたであろう、“家”。いまは、オクジュとドンジュのきょうだいを守るシェルターのようでもあります。
何がつらいって、このきょうだいは「麺」ばかり食べているんです。母が出て行ってしまったため、料理ができる人がいないことを示しているのでしょう。引っ越し当日は、豆乳のククス(うどん)、ふたりでラーメンを食べたりもしていました。
新しい“家”の中で、いまひとつ安らげないオクジュは、祖父を老人ホームに預けようという計画に反発します。
「だって、居候はわたしたちなのに」
大人の事情に振り回され、恋人にも恥ずかしい思いをし、でも自分の力では、なにかをどうにかすることはできなくて。
ただ全力で自転車をこぐしかできない。
(画像は映画.comより)
「夏時間」は、昨年公開された「はちどり」の系譜に連なる映画ともいわれています。
何も足さない。何も引かないままの、10代の無力感がスクリーンいっぱいに広がります。打ちのめされるんだけど、意外とさわやかな気分。
韓国映画界で続く、女性の監督への機会の増加は、今後「2作品目」が作れるかどうか、興行的に成功させられるかどうかにかかってきそう。新たな☆に期待大です。
映画情報「夏時間」105分(2019年)
監督:ユン・ダンビ
脚本:ユン・ダンビ
出演:チェ・ジョンウン、ヤン・フンジュ、パク・スンジュン、パク・ヒョニョン
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