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映画「よく知りもしないくせに」#718


キム・ミニは、ホン・サンス監督にとってミューズと讃えられています。多作な監督ですが、その作品群は、「キム・ミニ以前/キム・ミニ以後」に分けられるとのこと。

“よく知りもしないくせに”芸術的なことなんて、なんとも言えないですが、“分かりやすくなった”のは「よく知りもしないくせに」から、と言われています。

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映画「よく知りもしないくせに」
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<あらすじ>
アート系映画監督のギョンナムは、審査員として呼ばれた映画祭で、かつての親友サンヨンと遭遇する。サンヨンの家で彼の妻と共に飲み明かすが、翌日、なぜかサンヨンから絶交を言い渡されてしまう。数日後、済州島を訪れたギョンナムは、先輩チョンスの妻となった元恋人スンと再会し、関係を持つが……。


「豚が井戸に落ちた日」でデビューした監督にとっては、9作品目にあたる映画です。この後、8作品後の「正しい日 間違えた日」でキム・ミニと初タッグを組むことになります。

「よく知りもしないくせに」は「キム・ミニ以前」の映画で、だらしない、こじらせ映画監督が、女たちに小突き回されるスタイル。小説家のキム・ヨンスがカメオ出演しているのですが、友人からは、

「どんな目に遭うのか分かってるのに、なんで?」

と言われてしまったのだそう。それくらい、ホン・サンス作品における男たちの処遇には、定評があるんですね。

キム・テウ、コン・ヒョンジン、ハ・ジョンウ、チョン・ユミら、めっちゃ豪華な俳優たちも、みんな「ノーギャラ」。それでも出たいと思わせる監督なのでしょう。

(画像は映画.comより)

この映画が、「逃げた女」のラストシーンで、ガミが観ていた映画です。何度も何度も打ち寄せる波が、セリフを重複して繰り返すホン・サンス映画そのもののようでした。


「二度と自分の前に現れないでくれ」という親友のメッセージを受け取って、アタフタ、オロオロ。密かに下心を抱いていたコーディネーターの女性に責められて、アタフタ、オロオロ。訳も分からず映画祭から逃げ出すギョンナム。元カノと情事にふけっていたところに夫に踏み込まれ、またもや逃げ出すギョンナム。

そしていま。

女に逃げられた男は、アタフタ、オロオロしているのではないかしら……なんて考えてしまいました。

ギョンナムという男は、自分が何をやらかしたのか分かっていません。ただ、周囲の女性から責め立てられるだけ。たぶん、説明されても理解できないんじゃないでしょうか。

過去の恋の記憶。

甘酸っぱいレモン味じゃなく、黒歴史になってしまうところが、ホン・サンス監督の特徴なのかも。


映画情報「よく知りもしないくせに」126分(2009年)

監督:ホン・サンス

脚本:ホン・サンス

出演:キム・テウ、コン・ヒョンジン、ハ・ジョンウ、チョン・ユミ


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