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映画「サムジンカンパニー1995」#745


先日、日本で公開された映画「サムジンカンパニー1995」は、清々しく、気持ちのいい「女同士の連帯」を見た!と感じられた映画でした。

高卒女子というだけで、サポート仕事ばかりさせられている、“ちっぽけな”女性たちが、会社の不正に立ち向かう物語。舞台が1995年なので、メイクやファッションにもレトロ感が漂っていて、かわいい。ドラマにも増えているこの雰囲気は、韓国のブームなのでしょうね。

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映画「サムジンカンパニー1995」
https://samjincompany1995.com/

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<あらすじ>
大企業サムジン電子に勤める高卒の女性社員たちは、すぐれた実務能力を持っていても、任されるのはお茶くみや書類整理など大卒社員のサポートばかり。そこへ、会社の新たな方針が発表され、TOEIC600点を超えたら「代理」という肩書を与えられることに。英語の勉強に励む女性社員のひとり、ジャヨンは、会社の工場から汚染水が川に流出しているのを目撃する。しかも、その証拠を会社は隠ぺいしようとしていた……。


原題は「サムジン・グループ 英語TOEICクラス」で、「I can do it! You can do it! We can do it!」が映画のテーマになっています。

まぁ、3か月後のTOEICで600点とれたら役職をつけてやる、という会社の提案が、高卒女子たちの境遇を表しているようなもの。人事考課自体から外され、任されるのは雑務だけ。見えないところでアイディア出しのサポートをしたり、資料のありかをすべて把握したりしているので、彼女たちがいなければ、ぶっちゃけ仕事がまわらないんですけどね。

頭は切れるし、実務能力も高いけれど、学歴が「ガラスの天井」になっていたのでした。

ただ、TOEICの点数を重視する大企業は、1997年のIMF危機以降に増えたそうで、1995年当時では試験自体があまりなじみのないものだったのだとか。

うれしそうにカタコトの英語を話し、でも現実にがっかりしているサムジンカンパニーの女性メンバーたち。ジャヨン、ユナ、ボラムの仲良し3人組が中心となって話が進んでいきます。

(画像は映画.comより)


上の画像の中央がジャヨン。手に持った本には「基礎TOEIC問題集」と書かれています。自分のキャリアを変えられるかもしれないチャンスを、心から信じているんですね。演じたコ・アソンは、ポン・ジュノ監督の「グエムル 漢江の怪物」で怪物にさらわれた女の子です。

(画像は映画.comより)


映画はいくつかの実話を基に構成されています。

まずは、1991年に大邱市で起きた水質汚染事件。斗山電子が洛東江に、有害物質であるフェノールを流していた、という事件です。洛東江は大邱市周辺に水道水を供給している川で、市の検査のずさんさもあり、大きな衝撃を与えました。

国・地域別環境政策と環境状況 第5章 韓国 -大邱水質汚染事件-https://core.ac.uk/download/pdf/288447937.pdf


そして企業乗っ取り事件のモチーフにされているのが、ローンスター事件。韓国の外換銀行を買収したアメリカ系ファンドのローンスターが、不当に安値で買収し、「荒稼ぎ」したのではないかという疑惑で、チョ・ジヌン主演で「権力に告ぐ」として映画化されています。


会社の不正を目にし、声を上げようとするも、自分たちでは相手にされないことが分かっている。だから戦略を練るのですが、さすがは大企業といった感じで、先回りして対策されてしまいます。

また、境遇が同じとはいえ、考え方は人それぞれ。もちろん、女同士のマウンティングだってある。でも、「仲間」のピンチに対して、連帯するのです。

なんて気持ちのいい「サイダー」映画!!

「高卒女子」だけが強制されるらしい制服制度や、お茶くみタイムの情報共有は、わたし自身の社会人一年生時代を思い出して、ウルルンとなってしまいました。

世界経済フォーラムが今年3月に発表した「ジェンダーギャップ指数」では、韓国は156か国中102位。日本は120位でした。ちょっとせつないなーと思うのが、#MeToo運動が盛り上がり、多くの女性が声を上げた韓国と、一部の人による活動という域を出ない日本との順位が、大して変わらないこと……。


1995年という時代、韓国経済は好景気で、X世代と呼ばれる若者がブイブイいわせていた頃です。未来は明るいと信じられた頃といえるのかもしれません。

会社の名誉を守り、働く喜びを知り、キャリアアップのチャンスをつかんだ女性たちですが、この時から26年経った現在はというと、ジェンダー平等が達成されたとは到底いえない社会です。相変わらずのスペック競争に疲れている人も多い。

それでも。

一緒に泣く友がいてくれるから、つらい現実に立ち向かっていける。

“たとえ小さな存在でも私たちは偉大なのだから”


映画情報「サムジンカンパニー1995」 110分(2020年)

監督:イ・ジョンピル

脚本:ホン・スヨン、ソン・ミ

脚色:イ・ジョンピル

出演:コ・アソン、イ・ソム、パク・ヘス



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