スキップしてメイン コンテンツに移動

『「心」が分かるとモノが売れる』#752


“憑依型”マーケターの底力を見たー!

元エステー社のマーケターで、「消臭力」のCMを制作された鹿毛康司さんの『「心」が分かるとモノが売れる』は、マーケティングに携わる方だけでなく、すべてのビジネスパーソンにおすすめです。

消費者に商品と届ける者としての、覚悟を知ることができるから。

☆☆☆☆☆

『「心」が分かるとモノが売れる』
https://amzn.to/37dRoyN

☆☆☆☆☆


エステーといえば、消臭力。消臭力といえば、ミゲルくんを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

2011年に放送されたCMには、度肝を抜かれましたよね。


つらいなーと感じたのが、エステー社は広告予算が少ないため、ほとんどの代理店でつれなくされてきたというお話。そこで鹿毛さん自らクリエイティブディレクターとしてCMを監督し、コピーをつくり、作詞作曲をされたのだそう。

その原点にあるのは、前職で起きた不祥事と、お客さまの反応でした。

2000年6月、鹿毛さんが勤務していた雪印で食中毒事件が発生。お詫び行脚の中で、貧しい母子家庭で育ったという消費者から手紙をもらったそうです。

「母乳の出ない母は代わりに雪印の粉ミルクを与えてくれました。棚でいちばん高いものだったので、母にとっては精一杯の買い物だったと思う。雪印というブランドは、母の私への愛情そのものだったのです」


いや、もう、こんな手紙を読んじゃったら、型どおりの「お詫び」なんてできなくなってしまう……。状況が少し落ち着いてきた8月、今度は子会社で「牛肉偽装事件」が発生します。

そこで鹿毛さんは「雪印体質を変革する会」を立ち上げ、信頼回復の道を探ることに。お客さまにとっては、

会社名<<<個人

なのではないかと考え、社員の連名で謝罪広告を出すことを考えます。でも、最終段階でチェックを依頼したお客さまから言われてしまうのです。

「もう“雪印”など見たくない」

このひと言が、お客さまが問うているのは、社員個人の気持ちなんかじゃない、「企業としての人格」だと気付くきっかけになったとのこと。

現代ではあらゆるニーズを満たす製品があふれていて、ほとんど差のない製品の広告があふれています。その中で鹿毛さんが重視するのが「企業の人格」。

「企業側がエライという時代は終わったから、もう上から目線のやり方は通用しないよね」と、『ナラティブカンパニー』の著者・本田哲也さんとの対談で語っておられました。

余談ですが、上のトークイベントで「『ナラティブカンパニー』はいい本だねー」と言いつつ、惜しい点がふたつあると指摘されていました。ひとつは、カタカナが多いこと。そして、もうひとつは。

エステーの事例が載っていないこと!

本田哲也さんの本はどれも事例が豊富で分かりやすいのですが、確かにカタカナが多いんですよね。わたしは『ナラティブカンパニー』→『「心」が分かるとモノが売れる』の順で読んだので、「あぁ、こういうのがナラティブなのか」と、とても分かりやすかったです。

本に載ってなかったのは残念ですが、その分、一冊まるごと味わえたので、それはそれでよかったのですけど。


ひとつの広告を最終判断する時、リサーチも、コンセプトも、ここまでの苦労も、全部忘れて、「一消費者」になりきって決断すると語る鹿毛さん。

“憑依型”マーケターのすごさを垣間見られるとともに、大人の責任の取り方がかっこいいと思えた一冊でした。

マーケティングには手法やワードがあふれてるけど、「心」に立ち戻ることができればいいですよね。


コメント

このブログの人気の投稿

まったく新しい映画体験に思うこと 4D映画「ハリー・ポッターと賢者の石」 #484

映画の公開20周年を記念して、「ハリー・ポッターと賢者の石」が初の3D化されました。体感型の4DXやMX4Dで上映されています。 映画を「配信」するサービスが増え、パソコンやスマホでも映画が観られるようになったいま、「劇場で観る楽しみ」を、最大限与えてくれる上映方法だと思います。 でも、なぜか、4D映画ってモヤッとしてしまう……。 クィディッチゲームの疾走感や、チェスの駒が破壊されるシーンの緊迫感は倍増されていたので、こうした場面の再現率、体感度は以前に比べてかなり上がってきたように感じます。 (画像はIMDbより) それでも、稲光、爆風や水滴など、ストーリーとのズレを感じてしまう。 むかし観た4D映画では主人公が「GO! GO!」と走り出すシーンで、スポットライトがピカピカと点滅していたんですよね。わたしの頭の中で、「パラリラ パラリラ~」という暴走族のバイクの音が再生されてしまいました。 そうしたストーリーとは関係のない効果は減り、洗練されてきた感じはするものの、やっぱりスッキリしないものは残るのです。 4D映画はなぜモヤるのだろうと考えていて、「誰の目線で映画を観ればいいのか混乱する」からかもしれないと気がつきました。 ここで、あらためて4D映画について説明しておきます。 4D映画とは、映画に合わせて光や風などの演出が施された、アトラクション型の「映画鑑賞設備」のことです。 2D映画でも、4D映画の設備で上映されなら、4D映画になります。今回わたしが観た「ハリー・ポッターと賢者の石」は、3D映画の4D上映でした。 日本で導入されている4Dシアターは2種類。韓国のCJ 4DPLEX社が開発した4DXと、アメリカのMediaMation社が開発したMX4Dです。わたしは今回、TOHOシネマズで観たのですが、導入しているのはMX4Dのほうでした。サイトによると、体感できる環境効果はこちら。 特殊効果 ・シートが上下前後左右に動く ・首元、背後、足元への感触 ・香り ・風 ・水しぶき ・地響き ・霧 ・閃光 なるほど、のっけからシートがジェットコースターのように揺れ、風が吹きつけ、地響きも、ふくらはぎに礫が当たるような感触も体験できました。 人間社会で虐待されながら育ったハリー・ポッターは、ハグリットと出会うことで初めて魔法の世界に触れることになります。 ホグワーツ魔

キャラクター名“画数グランプリ” 優勝したのは!?「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」 #515

劇場版「鬼滅の刃」が話題ですね。 校閲ガールであるわたしにとって、気になるのはストーリーでも、煉󠄁獄さんのかっこよさでも、興行収入でもありません。 漢字が多すぎ!!! ってことです。 たぶん、すべての校閲ガールや校閲ボーイは、トラウマとなる漢字を持っています。変換ミスや同音異義語を見落とした経験を持っているから……。一度やってしまうと、その漢字を見ただけで「ヒッ!」となります。特に画数の多い漢字はつらいんです。 なのに、 「鬼滅の刃」の登場人物は、全員画数多過ぎでしょ!!! 劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編公式サイト 「その刃で、悪夢を断ち斬れ」劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編 絶賛公開中!   主人公は竈門炭治郎。その妹は禰豆子。鬼殺隊仲間は、我妻善逸、嘴平伊之助。「鬼殺隊」という名前からすでに怖そうですよね……。ちなみに一度で変換できなくて、「おに」「ころし」「たいちょう」と入力したので、あの日本酒を思い出しました。 清洲城信長 鬼ころしパックが【全国燗酒コンテスト2020】お値打ち熱燗部門 金賞受賞(2年連続受賞)   そんな「鬼殺隊」最強の剣士・煉󠄁獄杏寿郎さんはやはり、漢字の難しさも最高レベル。さすがは炎の呼吸を使う炎柱です。たぶん「隊長」みたいな役職の人です。 今回の映画の敵は魘夢と猗窩座というヤツで、これまで炭治郎たちが戦ってきた鬼よりはるかに強いヤツらしい。文字だけ見ても強そうですもんね。その鬼を束ねている悪の総帥が鬼舞辻無惨。 読み方分かりませんね……? 手書きできませんね……? 「鬼滅の刃」漢字検定1級をとれたらすごいと思います。このアニメとのコラボグッズは、校正するの、大変そう……。 そこで、緊急企画 「画数グランプリ」を開催 したいと思います! 「漢字辞典online」というサイトにて、各キャラクターの名前の画数を確認してみました。 kanji.jitenon.jp 「竈」という漢字を検索すると、こんな感じで表示されます。 この「画数」を足し上げていくのです。さて、優勝したのは!? (表記は公式サイトを基にしています) * * * 第3位:鬼舞辻無惨 54画 第2位:竈門炭治郎 55画 僅差です! 「魘夢」なんて、「魘」だけで24画もありました。これはぶっちぎるのでは……と思いきや、2文字という名前が仇に。けっこうしぶとい強いヤツでしたが、こ

人生をやり直したい男の誤算が招くコメディ 映画「LUCK-KEY」 #298

名バイプレーヤーとして知られる俳優が、主演を務めるとき。その心中はドッキドキでしょうね……。 映画「ベテラン」や「タクシー運転手 約束は海を越えて」で味のある演技を披露していたユ・ヘジンにとって、初めての単独主演映画が「LUCK-KEY ラッキー」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「LUCK-KEY」 https://amzn.to/3watGNT ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 売れない貧乏役者のジェソンは、将来に絶望して自殺を試みます。が、大家の侵入によって失敗。せめて身ぎれいになってからにしようと銭湯に行くことに。石けんを踏んで転倒した男の鍵をすり替え、男のフリをして暮らそうとしますが……。 原作は内田けんじ監督のコメディ「鍵泥棒のメソッド」。リメイク版の試写会で、観客が提案したタイトルが「LUCK-KEY」で、それがそのまま使われることに決まったのだそう。 ☆☆☆☆☆ 映画「鍵泥棒のメソッド」 https://amzn.to/3jEEotv ☆☆☆☆☆ ユ・ヘジンが演じるのは記憶喪失になった男「ヒョヌク」なのですが、ロッカーの鍵をすり替えられてしまったため、周囲には貧乏役者だと思われています。助けてくれた救急隊員の実家である食堂で働くことになりますが、刀さばきはすごいし、客さばきもうまい。だけど彼自身は俳優として成功し、親孝行しなければとマジメに努力します。 (画像はKMDbより) 一方、鍵をすり替えて逃げ出したジェソンの方は、豪勢な「ヒョヌク」の家にビックリ。贅沢三昧に自堕落に暮らし始めますが、隠し部屋で多くの銃を発見してしまいます。 実は「ヒョヌク」は、100%の成功率を誇る伝説の殺し屋だったのです!!! というお話。とにかくおかしな方へ、おかしな方へと話が転がっていく、コメディです。 (画像はKMDbより) 驚くのはユ・ヘジンの身体能力の高さ。趣味は登山と日曜大工だそうですが、いや、すごすぎやろというくらい、見事なアクションをみせています。 映画では、どう見てもおっちゃんなのに身分証は20代だったり、大部屋俳優から出世しちゃったり。 記憶は失っても、努力の仕方は覚えてるんですよね。 逆に、鍵をすり替えたジェソンは、夢はでっかく、だけど行動力はゼロという青年です。ふたりの対照的な生き方は、入れ替わっても続いてしまう。「幸運の鍵」をつかむには、という部分で、ちょっと身に