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『「心」が分かるとモノが売れる』#752


“憑依型”マーケターの底力を見たー!

元エステー社のマーケターで、「消臭力」のCMを制作された鹿毛康司さんの『「心」が分かるとモノが売れる』は、マーケティングに携わる方だけでなく、すべてのビジネスパーソンにおすすめです。

消費者に商品と届ける者としての、覚悟を知ることができるから。

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『「心」が分かるとモノが売れる』
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エステーといえば、消臭力。消臭力といえば、ミゲルくんを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

2011年に放送されたCMには、度肝を抜かれましたよね。


つらいなーと感じたのが、エステー社は広告予算が少ないため、ほとんどの代理店でつれなくされてきたというお話。そこで鹿毛さん自らクリエイティブディレクターとしてCMを監督し、コピーをつくり、作詞作曲をされたのだそう。

その原点にあるのは、前職で起きた不祥事と、お客さまの反応でした。

2000年6月、鹿毛さんが勤務していた雪印で食中毒事件が発生。お詫び行脚の中で、貧しい母子家庭で育ったという消費者から手紙をもらったそうです。

「母乳の出ない母は代わりに雪印の粉ミルクを与えてくれました。棚でいちばん高いものだったので、母にとっては精一杯の買い物だったと思う。雪印というブランドは、母の私への愛情そのものだったのです」


いや、もう、こんな手紙を読んじゃったら、型どおりの「お詫び」なんてできなくなってしまう……。状況が少し落ち着いてきた8月、今度は子会社で「牛肉偽装事件」が発生します。

そこで鹿毛さんは「雪印体質を変革する会」を立ち上げ、信頼回復の道を探ることに。お客さまにとっては、

会社名<<<個人

なのではないかと考え、社員の連名で謝罪広告を出すことを考えます。でも、最終段階でチェックを依頼したお客さまから言われてしまうのです。

「もう“雪印”など見たくない」

このひと言が、お客さまが問うているのは、社員個人の気持ちなんかじゃない、「企業としての人格」だと気付くきっかけになったとのこと。

現代ではあらゆるニーズを満たす製品があふれていて、ほとんど差のない製品の広告があふれています。その中で鹿毛さんが重視するのが「企業の人格」。

「企業側がエライという時代は終わったから、もう上から目線のやり方は通用しないよね」と、『ナラティブカンパニー』の著者・本田哲也さんとの対談で語っておられました。

余談ですが、上のトークイベントで「『ナラティブカンパニー』はいい本だねー」と言いつつ、惜しい点がふたつあると指摘されていました。ひとつは、カタカナが多いこと。そして、もうひとつは。

エステーの事例が載っていないこと!

本田哲也さんの本はどれも事例が豊富で分かりやすいのですが、確かにカタカナが多いんですよね。わたしは『ナラティブカンパニー』→『「心」が分かるとモノが売れる』の順で読んだので、「あぁ、こういうのがナラティブなのか」と、とても分かりやすかったです。

本に載ってなかったのは残念ですが、その分、一冊まるごと味わえたので、それはそれでよかったのですけど。


ひとつの広告を最終判断する時、リサーチも、コンセプトも、ここまでの苦労も、全部忘れて、「一消費者」になりきって決断すると語る鹿毛さん。

“憑依型”マーケターのすごさを垣間見られるとともに、大人の責任の取り方がかっこいいと思えた一冊でした。

マーケティングには手法やワードがあふれてるけど、「心」に立ち戻ることができればいいですよね。


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