わたしは「ことば」としての日本語が好きです。文字も好き。音感も好き。
だけど、日本語を学ぶ人にとっては、いろいろ難しいと思います。
「なんで日本語って、こんなに文字が多いの?」
日本語を勉強していた韓国人の友人が、こう言っていたことがありました。ひらがなとカタカナが46個ずつ、数限りない漢字、日本語化して使われている外国語。たしかに、24個の文字を組み合わせるハングルに比べて、日本語の文字は豊かですよね。
第165回芥川賞の受賞作となった、李琴峰さんの『彼岸花が咲く島』は、そんな日本語の特徴を活かした小説で、「ことば」を使った実験的な作品といえると思います。
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『彼岸花が咲く島』
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彼岸花が咲き乱れる島に暮らす少女・游娜(ヨナ)はある日、砂浜に一人の少女が倒れているのを発見する。記憶を失っていた少女は、游娜によって宇実(ウミ)と名付けられる。島に置いてもらう条件として、島の指導者で歴史の担い手でもある〈ノロ〉を目指すことになる宇実。男性でありながら密かに〈ノロ〉になりたいと願う拓慈(タツ)の助けも借りながら、島での生活が始まる……。
宇実が流れ着いた「島」では、男女で使う言葉が違います。
・島の言葉:ニホン語
・女性だけが使う言葉:女語(じょご)
そして、島の人の言葉が半分くらいしか分からない……という宇実の話す言葉は「ひのもとことば」と呼ばれています。
疑問形の語尾が「マー?」だったり、がんばれという状況で使われることばが「加油」だったり。「ニホン語」は、古典に出てくるような漢字交じり文に、中国語を混ぜたような言葉です。中国語と日本語、台湾語、琉球語を混ぜ合わせて創作したとのこと。
こんな感じで会話が進んでいくので、最初は(おお!?)と思ってしまうのですが、だいたいの意味が分かってしまうんですよね。これが“表意文字”である漢字の優れたところだと思います。
李琴峰さんは台湾生まれ、台湾育ち、15歳の時から日本語を勉強していたのだそう。中国語と日本語の両方で作品を発表しているというのだから、すごいですよね。
日本語を学ぼうと思ったきっかけが、またすごい。
「平仮名の海に漢字の宝石が鏤められている」
と感じたから。
紫式部とかと友だちになれるんじゃないでしょうか……。
〈ノロ〉を目指している游娜にとって、「女語」の習得は必須です。でも、どうにもうまく使いこなせません。そこで出会ったのが、「女語」とよく似た「ひのもとことば」を使う宇実だったのです。
すっかり仲良くなり、拓慈と共に、〈ノロ〉になることを夢見る日々。
3人は約束します。
なぜ、女性だけが〈ノロ〉になれるのか。
なぜ、〈ノロ〉だけに島の歴史が伝えられるのか。
みごと、宇実と游娜のふたりが〈ノロ〉になった暁には、この規則を変えよう……。
幼い約束の行方を考えると、青春の痛みを感じてしまうのだけれど。それ以上に、島の歴史の壮絶さに戦きます。
いまの日本や世界を映した寓話ともいえるし、一番のユートピアを模索したのだともいえる。李琴峰さんの描く世界は「分断と調和」なのかもしれません。
「ことば」の豊かさを味わい、その暴力性とぬくもりも感じさせる物語。日本語で語ることの可能性が感じられます。
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