世界が反転した。
工藤吉生さんの第一歌集『世界で一番すばらしい俺』は、ページをめくるごとに歌人のイメージが変わってしまいます。
タイトルになっている「世界で一番すばらしい俺」は、実は一首の下の句です。これだけ見ると、ブイブイでウェイウェイな感じがするんだけれど。
膝蹴りを暗い野原で受けている世界で一番すばらしい俺
なんと!!
思い描いた世界と全然違ってた。
生きることのしんどさと、やりきれなさ。人の目にイラつき、自分にイラつく。ああ、もう、どうにでもなれ!と思うのに、まだしぶとく生きている自分を発見するような歌集です。
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『世界で一番すばらしい俺』
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1990年前後に広まった「ニューウェーブ短歌」は、インターネットのおかげで裾野が広がったのだそうです。
工藤吉生さんは、歌人・枡野浩一さんがネット上で「ドラえもんあるある」的な短歌を募集した『ドラえもん短歌』を見て、興味を持ち、歌を作り始めます。
歌集は、初々しい、青春の甘酸っぱさ全開の、レモンが降ってくるような、まぶしさいっぱいの歌からスタート。
そして、好きだった女性にふられて、4階のベランダから飛び降りる。
すごく凝縮された青春が、ガラスのような鋭さを持って振り下ろされてくるんです。一命をとりとめた後も、震災被害に遭い、交通事故にも遭われています。
クリエイターの業の深さを感じさせる一文がありました。
「車にはねられました」というシリーズについての紹介です。
“体験としては強烈でしたが、短歌は十首しかできませんでした。”
生きててよかった……。
どんな体験も、自分の中に取り込み、「作品」に昇華できるって、清算ができたってことなのかしら。負の感情を成仏させることができたら、明日も生きてみようと思えるかもしれないですね。
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