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映画「殺人の告白」#782


「もし、あのオッサンが連続殺人事件の犯人だったら……?」

ポン・ジュノ監督の「殺人の追憶」を観ていた時、同じ映画館にいた中年男性に目を留めたチョン・ビョンギル監督。妄想から始まったストーリーは、強烈アクション×緻密などんでん返しという形で映画になりました。

映画初主演のパク・シフが、美しすぎる殺人犯を演じ、跳び蹴りの名手・チョン・ジェヨン兄貴が、憎しみをつのらせる刑事を演じる「殺人の告白」。

ノンストップで観たい、サスペンス劇です。

☆☆☆☆☆

映画「殺人の告白」

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☆☆☆☆☆

<あらすじ>
連続殺人事件の犯人を追っていた刑事チェ・ヒョングは、乱闘の末、負傷。15年間、事件を追い続けていたが、ついに時効が成立してしまう。そこへ、自分が犯人だとイ・ドゥソクという男が名乗り出る。殺人について詳細に記した本を出版し、美しいルックスも相まって、一躍時の人に。ヒョングは、本の中に最後の失踪事件が書かれていないことに気づく。そんな中、自分こそが真犯人だと主張する人物が現れ……。


映画の冒頭から、いきなり激しい乱闘が始まります。ワンカット・ワンテイクで撮影したシーンは、手持ちカメラの激しい揺れと、雨、暗闇がセットになって、「ヤバい映画」感が倍増。

オープニングのクレジットタイトルも出ないまま、グッと映画に引き込まれる。

のに。

話が15年後に移ってからは、殺人犯役のパク・シフが、海パン×ガウンでカーチェイスを!

(画像は映画.comより)

ド派手なシーンなんですけど、めっちゃ笑えます。冒頭の重さはどこに行った?と思ってしまうくらい。

振り幅の大きい映画なんですよね。チョン・ビョンギル監督はアクション・スクール出身のせいか、パク・シフもスタントなしで演じることに。「それが当然」な空気だったそう……。こえー。


ポン・ジュノ監督の「殺人の追憶」は、ソウル近郊の華城市で起きた連続殺人事件をモチーフにしています。この事件は2006年にすべて時効が成立してしまったのですが、2019年9月になって、真犯人が見つかりました。


なんともやるせない気持ちになる結末だったわけですが。

もし、「自分がやった」と告白してチヤホヤされたら?

承認欲求の強い犯人なら、どんな行動をとる?

そうした人間心理を突いた展開、うまく張られた伏線が、お見事な脚本です。


もうひとつ、この映画の注目ポイントは「目」だと思います。

まず、殺人犯役のパク・シフの記者会見シーン。ここで彼は瞬きをしないんです。「君は私の春」のチュ・ヨンド先生なら「ソシオパス……!」と診断するかも。

遺族のひとりが命を狙った際にも、ポスターの「目」からボウガンを発射。

そして。

韓国版のポスターの「目線」も、分かってみればなるほどの構図でつくられています。「殺人の追憶」のラストシーンを意識した感じもありますね。

(画像はKMDbより)

久しぶりに観たら、以前は見逃していたことに気が付きました。観れば観るほど、おもしろいポイントに気が付く、映画らしい映画です。この人がこんな役で出てる!という発見も。

未解決事件が家族に及ぼす悲劇は痛いくらいで、ソル・ギョング主演による映画「あいつの声」や、「カエル少年失踪殺人事件」など、実際に起きた事件をモチーフにした映画のラストは、本当にやりきれない。



だからこそ、この映画のラストにはホッとしてしまった。

いまAmazonプライムで配信されています。わたしも、もう1回観ようっと。

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映画「殺人の告白」119分(2012年年)

監督:チョン・ビョンギル

脚本:チョン・ビョンギル

出演:パク・シフ、チョン・ジェヨン、キム・ヨンエ、チャン・グァン、チョ・ウンジ、チェ・ウォニョン、オ・ヨン

コメント

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